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河野 英仁
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米国特許判例紹介:米国における共同侵害成立要件(第5回)

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米国特許判例紹介:米国における共同侵害成立要件(第5回)

~成立要件は厳格化へ~

河野特許事務所 2011年4月15日 執筆者:弁理士 河野 英仁

   Akamai Technologies, Inc., et al.,
                     Plaintiff Appellant,
             v.
      Limelight Networks, Inc.,
                 Defendant-Cross Appellant.

(2)本事件における原告の主張

 原告は、管理または指示があったことを立証すべく以下の主張をなした。

(i) 被告は顧客であるコンテンツプロバイダに、ユニークなホスト名を生成し、割り当てた

(ii)被告は、明示的にタグ付けステップを実行するよう顧客に指示した

(iii)被告はクレームの各ステップを実行する際に、顧客を補助するため技術アシスタンスを申し出た

(iv)被告は、顧客が被告サービスを利用する場合、契約上顧客に、クレームのタグ付け及び提供ステップを実行するよう要求した

 

(3)CAFCの判示

 CAFCは、最高裁判決及びRestatement of Agency (代理権リステイトメント:代理権に関する判例をまとめて再表現した法律集)の法理を持ち出し、単に管理権の行使または指示を与えるということではなく、当事者間の関係が、一方の行為が他方の行為に起因するような状態にあるか否かを考慮しなければならないと述べた。

 

 リステイトメントは、代理権(agency)を、

「本人が代理人に、当該代理人は本人に代わって、また、本人の管理に制約されて行動しなければならないとする同意を明示し、かつ、代理人が同意を明示するかそのように行動するよう同意する場合に起こる信任関係」[1]として定義している。

 

 そして、代理関係により侵害が成立するためには、双方の当事者は、代理人が本人の利益に基づいて行動しており、本人の管理に支配されているということに同意しなければならない[2]。同様に、CAFCがBMC事件において黙示的に示したことは、共同侵害は、侵害者によって契約により、当事者が方法のステップを実行することを義務づけられている場合に発生するということである。

 

 ここで本事件について検討すると、確かに被告と顧客との間には契約が存在していた。しかしながら、コンテンツプロバイダである顧客は、もし希望するのであれば、顧客が被告のCDNを通じて配信するよう埋め込みオブジェクトを選択する。それから顧客が「タグ付け」及び「提供」ステップを実行するにすぎない。サービスを受ける際の標準約款は、被告顧客に方法ステップの一つを実行することを義務づけるものではない。標準約款によれば、単に、顧客が被告のサービスを利用すると決定した場合にのみ、顧客がステップを実行しなければならないだけである。

 

 ここで重要なことは、被告と顧客との間の関係が、問題となるステップに関し、被告の代理人としてまたは契約上の義務において顧客により実行され、侵害が被告に起因するといえるか否かにある。

 

 顧客が被告サービスの使用を選択したのであれば、顧客にユニークなホスト名を割り当て、顧客に一定のクレームのステップを実行することを要求し、また指示を行い、かつ、技術的な援助を申し出ているということは事実である。しかしながら、これらの点のどれも、顧客の被告による管理、または、被告の管理に対する顧客の同意のいずれかを確立していない。逆に以上述べた取り決めは、顧客に独立した決定権を行使すること、及び、どのように顧客がシステムを導入するかを管理するツールを顧客に提供しているにすぎない。

 

 被告の顧客は被告の代理人として「タグ付け行為」を実行しておらず、また、顧客は契約上これらの行為を実行する義務は存在しない。逆に、顧客は主に顧客自身の利益のために、また、顧客自身の管理下で行動したということにすぎないのである。

 

 以上のことから、CAFCは本事件においては被告の顧客に対する指示または管理が存在しないとして共同侵害は成立しないと判示した。

 


[1] Restatement (Third) of Agency § 1.01

[2] Dixon v. United States, 465 U.S. 482, 505 (1984), Restatement (Second) of Agency § 1

(第6回へ続く)

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