- 羽柴 駿
- 番町法律事務所
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
このような審理を経て、1976年1月に控訴審の判決が言い渡されました。判決は、一審判決に事実誤認があったとしてこれを破棄し、被告人Sに無罪を言い渡しました。控訴審判決は上着の色を取り上げ、M巡査がSを乙と誤認した疑いがあると認めたほか、一審ではSに不利に解釈されたTの証言についても、SがM巡査に対する当初の暴行が終わるまで現場にはいなかったのではないかという合理的疑惑を抱かせるものだと述べました。
検察官は上告を断念したのでSの無罪が確定しました。この事件では、どんな裁判官が担当しても無罪判決を下すのが当然だと私は思いますが、一審判決では実際に担当した一人の裁判官が有罪と認定しているのですから、そうとばかりも言い切れません。この判決を受けてSやその仲間の学生たちの日本の裁判制度に対する不信感が多少なりとも軽減され、考え直すきっかけになってくれたのではと私は期待していますが、万一、控訴審が一審の判決を維持していたとしたならば、私もSと同様に苦笑いをして、「しょせん裁判なんてこの程度のものさ」と諦めなければならなかったのでしょうか。