- 塚本 有紀
- フランス料理・製菓教室「アトリエ・イグレック」 主宰
- 大阪府
- 料理講師
対象:料理・クッキング
- 黄 惠子
- (料理講師)
りんごがまだおいしいうちに、と「タルト・タタン」の講座を行いました。
(年が明けると、りんごは貯蔵のものに変わるのだとか)
タルト・タタンはそもそもフランスのソローニュ地方ラモット・ブーヴロンLamotte Bouvronの街にある、オテル・タタンHotel Tatinが発祥です。パリから電車で1時間半くらいの、ラモット・ブーヴロン駅の目の前にあります。
3年前の夏にようやく念願の訪問が実現しました。写真が、発祥のタルト・タタンです。甘くてこくて、感動的な味わいです。使っているものはたぶんりんごと砂糖とバターだけと思われるとてもストレートな味わい。レモン汁の酸味はまったく感じられません。味は非常におおらかで、その素朴さは驚くばかり。日本でおいしいタタンと言うと、なんだかいっぱい決まり事やらうんちくがあってちょっと肩が凝るようなイメージを持っていましたが(かくいう私も、もちろんりんごはこれでないと!などといろいろあります)、「なんだ、これでいいのか!」と思いました。りんごと砂糖をバターをぽんぽんと詰めてオーヴンに入れて焼き、「はい、どうぞ!」のような。
そんなことを思いながら、ホテルの方のおすすめ、地元の甘い白ワインと一緒に、とても幸せな気持ちで頂きました。
タルト・タタンは失敗から生まれたお菓子として有名ですが、ホテルでもらったパンフレットから、かいつまんでその伝説をご紹介しましょう。
CarolineとStephanieのタタン姉妹が、ラモット・ブーヴロン駅のすぐ目の前にとても繁盛しているホテルを営んでいました。とりわけ狩人(味にうるさい人たち)にタタン姉妹のおいしい料理は評判だったとか。
あるときお客と話し込んでいたstephanie(carolineとの説もあり)が、厨房にデザートが何もないことに気がつきます。そこで大慌てでりんごの皮を剥き、型にバターと砂糖を詰め、火にかけました。ところが彼女がははっと気が付きます。それはタルトでもないし、焼きりんごというわけでもありません・・。
どうしよう!? すでにりんごは煮え始め、キャラメルのにおいもし始めています。サービスの時間は刻々とせまり・・・。やり直すには遅すぎる! そこで彼女は生地を少し取って伸ばし、りんごにかぶせてそのまま焼いたのです。ここにタルト・タタンの伝説が生まれました。
パリからたくさんの美食家たちがこぞって汽車に乗って、タタンを食べに行ったという記録が残っています(ということは私も電車にのれば本当のタルトタタンを食べに行けるはず、ということ)。ホテルのダイニングには「ここでタタンを焼いたのかな」と思わせる、クラシックな薪のオーブンが残されています。
タタンは十分な高さのある型、たとえばマンケのようなものを使い、上質なバターとグラニュー糖、ブリゼ生地を薄くのばしたものを使うこと。りんごは皮を剥いて、種を抜き、1/4切りに相当する大きな固まりにカットすること(といってもフランスのりんごは全般的に日本のものより小さめです)。さらには、クリームやジャムの禁止。サーヴィス段階でのアルコールによるフランベも禁止されています。
つねに敬意を払うべきは、「りんご、バター、砂糖、生地、これだけ!」などと、この部分だけ大文字で、思い入れたっぷりに表記されています。最初に食べたとき、レモンは感じないなあと思ったのはとても正しくて、しかもこれは誇りを持って使っていないのだと気がつきました。
毎年春にはタタンを守る騎士が任命されるようです。これはフランス人でも外国人でも可。昔の農民の格好をして、メダルとディプロームが授与され、聞くところによると日本人にも騎士がいらっしゃるのだとか! いつか参加してディプロームを貰ってみたいものです。
さてこんなことを心に留めながら、タルト・タタンの講座を行いました。もちろんおおらかな気持ちで。
講座の中身についてはブログにて。
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