- 小林 良
- 一級建築士事務所 DESIGN-SPEC 代表
- 東京都
- 建築家
対象:住宅設計・構造
前回のお話は、
「コインの裏と表、どっちも見せたい。でもコインは一枚しかない。あなたならどうしますか?」
の答えは、
「正解はない」
というものだった。
このことに気付いていれば、よりよい空間ができるだろう、と書いておいて恐縮なのだが、
実は、この思考回路は、ほんの導入に過ぎない。
経済至上主義のハウスメーカーや工務店、設計事務所などを相手に家造りを考えているのであれば、この程度の思考で事足りるのだが、「いえづくり」というものに、もっと真剣に向き合って、本気で考えていくためには、もう少し深く考えなければならい。
そのためには、思考のレベルをもうひとつ上の階層にもっていくことが必要である。
具体的には以下のように、だ。
『なぜ、「コインの裏と表、どっちも見せたい。でもコインは一枚しかない。あなたならどうしますか?」と考えるのか?』
これを、ちょっと難しく言うと、「メタレベルの思考」と言う。設計というのは、このように、目の前の課題に対する思考を、つねにメタレベルで検討していく必要がある。これをやらないと、場当たり的で、統一感のない、ムラのある空間ができあがってしまう。
さて、上記の答えは以下のようになる。
『不測の事態に陥った時に、そのことに冷静に向き合うことができる、実践的思考力を養うため』
本来、「いえづくり」とは、不測の事態の連続である。
しかし、いつのまにか、市場原理主義が当然のような世の中になり、この「不測の事態=トラブル」という図式ができあがった。これを回避するため、ハウスメーカーは「建て売り」という手法を考え出し、規格化されたプラモデルのような住宅を提供し始めた。建て主と一緒に考えずに、あらかじめ家をつくってしまい、それを売るだけなのだから、不測の事態は生まれ得ない。そして、一握の「本気の」工務店を除き、ほとんどがこの現状に対して、右に倣えの状態である。
そして悲しいことに、建て主もいわゆる「消費者」に成り下がり、事が順当に進まなければ、「クレーム」として処理するというありさま。
もういちど書くが、「いえづくり」とは、不測の事態の連続なのである。
そして、施主・設計・施工が三位一体となって、そこに立ち向かっていくのである。
そのような共同体的意識が必要なのである。
消費活動(契約・金銭授受)というのは、いわばその「おまけ」である。
(6)につづく。
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