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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準(第4回)

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米国特許判例紹介:KSR最高裁判決後の自明性判断基準 (第4回)
2010KSRガイドライン

 河野特許事務所 2010年12月21日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

(4)Ecolab事件[1]

(i)判決骨子:当業者が公知の要素を組み合わせるための明確な理由を認識しており、かつ、当業者が当該組み合わせを知っているのであれば、公知の要素の組み合わせは、一応自明(Prima Facie Obvious)である。

(ii)背景

 原告はU.S. Patent No. 6,113,963(以下、963特許という)を所有している。963特許は特定条件下で肉に抗菌性液剤をスプレーすることにより、病原菌の発生を低減する肉の処理方法である。問題となったクレームは、圧力の条件として、「少なくとも50psi(pound per square inch:1平方インチの面積に加わる圧力(ポンド))」を規定している。

 第1先行技術には、50psiとする数値限定を除いて全ての構成要件が開示されている。第2先行技術には、異なる抗菌薬剤を用いて肉を処理する場合に、圧力20-150psiにてスプレー処理することの利点を開示している。

(iii)争点

 数値限定を加えた本発明が、数値を限定していない第1先行技術と、他の抗菌薬剤について数値を開示する第2先行技術との組み合わせにより自明か否かが問題となった。

(iv)CAFCの判断

 CAFCは、組み合わせにより自明と判断し、非自明と判断した地裁の判断を無効とした。CAFCは、抗菌剤と肉表面上の細菌との接触を増加させ、肉の表面から新たな細菌の発生を防止するべく圧力をかけるという、両先行技術を組み合わせるための明らかな理由が存在すると述べた。特に第2引例は、肉にスプレーする際に抗菌剤の効能を高めるべく高圧を使用すること、及び、当業者が高圧下でクレームされた抗菌剤を用いるという理由を認識しているということを教示している。以上の理由により、CAFCは組み合わせにより本発明は自明であると結論づけた。

(v)まとめ

 本事件においては、「組み合わせるための明らかな理由」が存在する場合、自明であることが判示された。ただし、CAFCはパラメータの最適化に関し、当業者の技術能力に注意すべき点に言及している。本事件においては、当業者が、液剤スプレー時の圧力パラメータをどのように調整するか認識済みであった。しかしながら、パラメータの最適化が当業者の技術水準・認識を超える場合は、結論が変わる点に注意すべきである。

(5)Wyers事件[2]

(i)判決骨子:類似技術の範囲は広く解釈され、発明者が解決しようとした課題に合理的に関連する引例をも含む。十分な理由により説明できる場合に限り、「常識(Common Sense)」は自明と結論づける根拠とすることができる。

(ii)背景

 原告はU.S. Patent No. 6,672,115(以下、115特許という)及び7,225,649(以下、649特許という)を所有している。参考図6は115特許の図1,図5及び図11である。115特許及び649特許は、トレーラを車両に固定するためのバーベル状の連結ピンロックをクレームしており、以下の2つの改良点を有する。

 

参考図6 115特許の図1,図5及び図11

 第1の改良は、異なるサイズのスリーブ部(54,56,58)の開口を引っ張ることにより、同一ロックが使用できるよう連結ピンロックの軸部30に設けられる取り外し可能なスリーブを設けた点にある。


[1] Ecolab, Inc. v. FMC Corp., 569 F.3d 1335 (Fed Cir. 2009)

[2] Wyers v. Master Lock Co., No. 2009–1412, —F.3d—, 2010 WL 2901839 (Fed. Cir. July 22, 2010)

(第5回へ続く)

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