行政書士に対する英訳 - 労働問題・仕事の法律全般 - 専門家プロファイル

今林 浩一郎
今林国際法務行政書士事務所 代表者
東京都
行政書士
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「行政書士」が“administrative scrivener”と英訳され、「司法書士」が“judicial scrivener”と英訳されるのを頻繁に目撃します。幾つかの和英辞典は、これらの訳を「行政書士」と「司法書士」の英訳として採用します。しかしながら、これらの英訳は極めて直訳的な英訳で英語圏では「行政書士」や「司法書士」の意味を的確に伝える英訳とは思えません。

 

例えば、ウィキペディア(英語)によれば、“A scrivener was traditionally a person who could read and write. This usually indicated secretarial and administrative duties such as dictation and keeping business, judicial, and history records for kings, nobles, temples, and cities.”(“scrivener”とは、伝統的に読み書きできる人のことだった。これは、通常、王、貴族、寺院及び市のための事業記録、司法記録及び歴史的記録の保管並びに口述筆記などの書記的及び行政的義務を指称した「以下の日本語訳はすべて論者による」)。すなわち、歴史的起源から言えば、“scrivener”とは、口述筆記や記録保管に従事する書記官などの仕事の総称でした。

 

また、同じウィキペディア(英語)は、“scrivener”の現代的役割に関し、“Scriveners remain a common sight in countries where literacy rates remain low; they read letters for illiterate customers, as well as write letters or fill out forms for a fee. Many now use portable typewriters to prepare letters for their clients.”(“scrivener”は、識字率の低い国々では一般的に見られ、彼らは、料金を取って、文盲の顧客のために文字を読み、文字を書き、あるいは書式に記入する。多くの“scrivener”は、今では、彼らの顧客のための文字を作成するのに携帯タイプライターを使う)。すなわち、現代における“scrivener”は、文盲の人々のための代書を主な仕事とし、識字率の低い国々で特に存在意義があります。したがって、日本のような識字率が100%に近い国における法律専門職である行政書士や司法書士に、「代書」という点にのみ着目して“scrivener”を英訳として使うのには無理があると考えます。

 

一方、弁護士は、一般的に、“lawyer”と英訳されますが、Black‘s Law Dictionary によれば、“A lawyer is a person learned in the law(法律の学識がある人); as an attorney(米国の弁護士), counsel(法廷弁護士) or solicitor(事務弁護士); a person licensed to practice law(法律業に従事する免許を与えられた人).” と定義されます(Black‘s Law Dictionaryは、米国では最も権威のある法律用語辞典の1つです)。この定義によれば、法律業に従事する行政書士や司法書士も“lawyer”に該当することになります。

 

ところで、イギリスやアイルランドでは、弁護士が”barrister”(法廷弁護士)と“solicitor”(事務弁護士)とに区別されています。米国も、元来、イギリスと同じコモンローの国ですから、当初は”barrister”(法廷弁護士)と“solicitor”(事務弁護士)の区別が存在しました。ところが、”barrister”(法廷弁護士)と“solicitor”(事務弁護士)の区別は米国では19世紀後半頃に廃止され、現在の米国には、”barrister”(法廷弁護士)や“solicitor”(事務弁護士)という職業は存在しません。しかしながら、19世紀までは”barrister”(法廷弁護士)と“solicitor”(事務弁護士)の区別が存在した経緯から、Black‘s Law Dictionaryでは、”barrister(counsel)”(法廷弁護士)及び“solicitor”(事務弁護士)が“attorney”と併記されていると解されます。なお、現在の米国弁護士には、通常、“attorney”が使われます。

 

時々、行政書士を“solicitor”と同視する行政書士の先生方がいらっしゃいます。ウィキペディア(英語)は、“solicitor”(事務弁護士)の定義に関し、“Solicitors are lawyers who traditionally deal with any legal matter apart from conducting proceedings in courts ・・・ with some exceptions.” (“solicitor”とは、一部の例外はあるが、伝統的に法廷における訴訟行為以外のあらゆる法律問題を扱う“lawyer”のことである)。すなわち、“solicitor”とは、法廷外の法律事務に専業する弁護士のことを指称します。

確かに“solicitor”と行政書士は、仕事の性質において類似する面もありますが、法律事務と非法律事務の区別に関する事件性必要説に立っても行政書士を“solicitor”と同視することには無理があると考えます。上記定義でも「一部の例外はあるが・・・」と言っているように、イギリスの“solicitor”は、一部法廷業務も扱いますし、扱える業務が事件性で区別されている訳でもありません。もっとも、行政書士を“solicitor”と同視する行政書士の先生方は、行政書士の社会的地位確立や職域拡大を念願して“solicitor”と同視するのかもしれません。

 

現在、行政書士会は、「行政書士」の英語表記として「Gyoseishoshi Lawyer」を公式に用い、行政書士会連合会は、これを商標として登録しています。これに対し、平成18年に、日本弁護士連合会は、「Lawyer」の名称は法曹有資格者であるとの誤解を与える可能性があることを理由として、「Lawyer」の名称の使用を取りやめるように行政書士会連合会に申し入れました。しかしながら、日本行政書士会連合会は、有識者会議において検討し、「Lawyer」の使用は必ずしも法曹に限定されないとして日弁連の申し入れを断りました(平成19年4月19日 日行連発第79号)。その後、ADR参入の為、日弁連の協力が必要になり、平成19年10月以降、行政書士の月刊誌「日本行政」から「Gyoseishoshi Lawyer」の表記が消え、日本弁護士連合会は、「Lawyer」使用を自粛する傾向にあります。

 

とはいえ、行政書士に対する“administrative lawyer”及び申請取次行政書士に対する“Immigration Lawyer”という呼称は、英語を解する外国人には馴染み深くなっています。仮に「Lawyer」を削除したら、英語を解する外国人には行政書士の英訳として意味が通じないでしょう。

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