中国における均等論の解釈(第7回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における均等論の解釈(第7回)

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中国における均等論の解釈

~均等論と従来技術の記載~ (第7回)

上海麗雨光電有限公司
上訴人-原審被告
v.
鶴山麗得電子実業有限公司
被上訴人-原審原告

河野特許事務所 2010年8月4日 執筆者:弁理士  河野 英仁

6.コメント
 中国における均等侵害成立には、手段・機能・効果と、容易想到との4要件が必要とされる。本事件は具体的にどのような場合にこれらの条件を満たすかを理解する上で参考となる判決である。

 本事件において、人民法院が、当業者が「容易に想到」と判断したその根拠は、明細書の先行技術の記載にある。すなわち明細書に先行技術として本件特許が文言上カバーする垂直型と、イ号製品が採用した水平型とが記載されていたことから、容易に想到と判断したのである。

 しかしながら、権利者自身が明細書に記載していながら、請求項にあえて記載していない事項を権利侵害として主張することは、貢献説の観点に反するものと解される。本事件の判決前に公布された司法解釈第5条*11は以下のとおり規定している。

第5条 明細書または図面においてのみ表され、請求項に記載されていない技術方案について、権利者が特許権侵害紛争案件においてこれを特許権の保護範囲に加えた場合、人民法院はこれを支持しない

 司法解釈第5条は、明細書には開示したが請求項に記載していない事項は、広く第三者に当該事項を貢献したものと擬制し、権利主張を認めないものである。被告製品の水平型は、まさに明細書のみに表され、請求項に記載されていない技術方案そのものであって、均等侵害は否定されるべきであったと解される。

 権利者は水平型をも権利範囲に含めることを希望するのであれば、当然に明細書に開示した水平型をもカバーし得るよう請求項を作成すべきである。本事件において被告側が貢献説に基づく抗弁を主張していれば結果は変わっていたかもしれない。

判決 2010年1月18日
以上
【注釈】
*1 請求項に対する符号は筆者において付した。
*2 2010年4月18日 上海麗雨光電有限公司HPより
http://shliyuled.cn.alibaba.com/
*3 中国では、人民法院において特許の無効を主張することはできず、復審委員会に無効宣告請求を行う必要がある。専利法第45条は無効宣告請求について規定している。
専利法第45条 国務院特許行政部門が特許権を付与することを公告した日から、いかなる機関又は組織又は個人もその特許権の付与が本法の規定に合致しないと認めたときは、その特許権に対して特許復審委員会に無効審判請求を提起することができる。
*4 無効第11842号
*5 (2009)沪一中民五(知)初字第109号
*6 (2009)沪高民三(知)终字第123号
*7 法釈(2009)第21号
*8 法釈(2001)第20号
*9 Function-Way-Resultテストとはイ号製品が、クレームされた発明に対し、実質的に同一の機能(Function)を果たし、同一の方法(Way)で、同一の効果(Result)をもたらす場合に均等と判断する手法である。 Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 39–40 (1997)
*10 無限摺動用ボールスプライン軸受事件(最判平成10年2月24日 最高裁判所民事判例集52巻1号113頁)
*11 法釈(2009)第21号

                               
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