中国における均等論の解釈(第5回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における均等論の解釈(第5回)

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中国における均等論の解釈

~均等論と従来技術の記載~ (第5回)

上海麗雨光電有限公司
上訴人-原審被告
v.
鶴山麗得電子実業有限公司
被上訴人-原審原告 

 河野特許事務所 2010年8月2日 執筆者:弁理士  河野 英仁

(3)訴訟の経緯
 原告は特許権侵害であるとして被告を上海市第一中級人民法院へ提訴した。被告は対抗手段として、復審委員会に無効宣告請求を行った*3。2008年6月30日、復審委員会は、無効宣告請求審査決定書を作成した*4。当該決定によれば、請求項1,2,4-9,11,12は特許無効、請求項3,10,13は有効とするものである。

 原告は請求項10及び13が技術的範囲に属すると主張した。上海市第一中級人民法院は特許権侵害を認め、イ号製品の製造及び販売の即時停止、6万元の損害賠償と合理費用7800元の支払いを命じる判決をなした*5。被告はこれを不服として上訴した。


3.人民法院での争点
LED及び電流制限抵抗の設置方向が相違する場合に均等侵害が成立するか否か
 本事件における最大の争点は、電流制限抵抗06の設置方向である。請求項1に係る発明は、参考図5及び参考図6に示す如く、LED04及び電流制限抵抗06は、チューブ長手方向に対して垂直に設置されている。

 これに対しイ号製品のLEDも同様にチューブの長手方向に対し垂直に設置されている。しかしながら電流制限抵抗だけが、参考図4に示す如くチューブの長手方向に対して水平に設置されている。

 請求項1では、LED04及び電流制限抵抗06が、垂直方向に形成された複数の横向き孔03a,03b,03c,03dに挿入することを規定していることから、イ号製品は明らかに文言上、請求項1に係る発明の技術的範囲に属さない。この場合、均等論により技術的範囲に属する旨の主張が認められるか否かが問題となった。


4.人民法院の判断
イ号製品は均等侵害である。

 上海市高級人民法院は、原告の主張どおり均等侵害を認め、中級人民法院がなした判断を維持する判決をなした*6

 中国においては司法解釈において均等論の主張が認められている。2009年12月28日に公布された最新の司法解釈*7第7条は均等論に関し以下のとおり規定している。

第七条 人民法院は、権利侵害と訴えられた技術方案が特許権の保護範囲に属するか否かを判断する際、権利者が主張する請求項に記載されている全ての技術的特徴を審査しなければならない。
 権利侵害と訴えられた技術方案が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいる場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の保護範囲に属すると認定しなければならない。権利侵害と訴えられた技術方案の技術的特徴が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と比較して、請求項に記載されている一以上の技術的特徴を欠いている場合、または一以上の技術的特徴が同一でも均等でもない場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の保護範囲に属しないと認定しなければならない。


 具体的な均等論の適用要件は2001年に公布された最高人民法院「特許紛争事件の審理に適用する法律問題に関する若干の規定」*8第17条に規定されている。第17条の規定は以下のとおりである。

第17条
 ここで均等の特徴とは記載された技術的特徴と基本的に同一の手段をもって、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を達成し、かつ当該分野の通常の技術者が創造的な労働を経ることなしに十分想到できる特徴をいう。

                                         (第6回へ続く)

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