- 廣畑 信二
- HSコンサルティング行政書士事務所 代表
- 大阪府
- 行政書士
対象:企業法務
- 尾上 雅典
- (行政書士)
- 河野 英仁
- (弁理士)
前回のメルマガは、
会社に損害を与えた場合の取締役の損害賠償責任の話でしたが、
取締役が損害賠償責任を負うのは、
会社に損害を与えた場合に限った事ではありません。
【事例】
A社長は、新事業の展開を模索していた。
それは、業績が振るわず、急激に右肩下がりになっていたからである。
そんな時に、あるビジネス雑誌の特集で組まれていた記事が
A社長の目を釘付けにした。
特集記事のタイトルは、
『絶対に儲かる!新規ビジネスをズバリ予想!』である。
A社長は、そんな記事の中でも
「早い者勝ち!今やれば絶対に儲かる○○○○店」
という記事に目を奪われた。
早速、A社長は役員会で
「○○○○店の経営が今儲かっているそうだ。
今が参入するチャンスなので、○○○○店の経営をやろう!」
と提案しました。
これまでA社長の決める方向性はあまり外れることがなかったので、
他の取締役も社長の提案を支持しました。
そして、
雑誌に書いてあった「早い者勝ち」の言葉がA社長を焦らせたのか、
十分な市場調査や戦略を立てることもなく、
○○○○店の経営をはじめてしまいました。
しかし、その店には客は入らず、採算もまったく取れない状態で、
結果的には、その店を経営するために購入した機材などの
購入代金も支払えないという事態を招いてしまい、
機材納入業者に多大な損害を与えることになってしまった。
【事例はここまで】
このようなケースでは、
会社として機材納入業者の損害を賠償しなければならない、
というのは当たり前のことなのですが、
この賠償責任は、取締役個人にまで及ぶのでしょうか?
会社法の第四百二十九条第一項には、次のように規定されています。
『役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、
当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。』
A社長が、雑誌の言葉に踊らされて、
十分な市場調査や戦略を立てることもなく○○○○店の経営を始めた、
というのは、明らかに重大な過失に該当します。
そして、それを支持した他の取締役にも重大な過失があったと言えます。
ですので、A社長とその他の取締役は、連帯して個人的に、
機材納入業者に与えた損害を賠償する責任が生じることになります。
また、機材納入業者からすると、
「経営者の判断に重大な過失があったのだから、
あなたたち個人個人が、当社に与えた損害を賠償しなさい!」
と、A社長と取締役たちに請求することが出来るのです。
つまり、取締役の経営判断に悪意や重大な過失があった場合は、
「会社に支払う能力がありませんので、支払うことはできません!」
と、逃げることが出来ず、取締役個人の財産を費やしてでも、
その損害を賠償しなければならないということです。
ちなみに、
『過失』とは、「誤り」とか「失敗」という意味で、
『悪意』とは、「わざと」とか「知っていて」という意味です。
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