(続き)・・さて、そのように重症化すれば恐ろしい熱中症が90年代から急速に増加した本当の理由は、いったいどのあたりにあるのでしょうか。よく指摘されているのが「地球温暖化」です。確かに地球の気温はこの100年間で約0.4~0.8℃上昇しており、それに伴う異常気象や海面上昇などの悪影響が現れています。ただこの地球温暖化といった要素だけでは、日本で90年代以降に熱中症が急増している理由としては不充分と考えられます。
もう一つ環境面の理由として挙げられているのが「ヒートアイランド現象」です。東京などの都市部に於いては、人口の集中やエアコンの普及、消費電力量の増大、高層ビルの乱立などの要因によって、気温の上昇傾向が明らかです。例えば東京の真夏日の日数でみると、1980年には21日間だったのが2004年には70日間と3倍以上に増加しています。真夏の東京や大阪では、ビルからの排熱が街中にあふれ、深呼吸するのも楽ではないほどの環境です。
そのようなある意味で過酷な夏の都市環境が熱中症急増の一役を担ったのは確かですが、果たして理由はそれだけでしょうか。熱中症は都市部だけでなく地方の農村でも負けずに急増しています。しかも以前は小児や老人にほぼ限られていたのが、近年では若者や勤労者世代にも拡がりをみせ、また季節的には真夏以外にも発生するようになってきています。環境だけでなく、我々人間の側にも理由の一端があるとみるべきではないでしょうか。
熱中症と並んで夏に多くみられる体調不良としては「夏バテ」が挙げられます。夏から秋口にかけて体がだるく疲れやすくなり、胃腸の調子が落ちて食欲が低下し、頭痛や肩凝りに見舞われ、ひどくなると不眠症となり気持ちが塞ぎがちになったりします。これだけでは重大な病気という印象はありませんが、放置すれば様々な病気の引き金になりやすいので、油断は禁物です。まさに夏バテは万病のもと、とも言えるのです。
夏バテになりやすい人を観察していると、ある共通する特徴があります。それは一つには体が冷えている、或いは体温が低いというものです。人間の標準的な体温は36.5℃ですが、女性を中心に多くの人では36.0℃付近から35℃台で、中には34℃台の人もおります。脇の下で測る一般的な体温は36.5℃あるものの足や下半身が冷えている、いわゆる下半身冷えの方も目立ちます。
それと並んで、最近汗を殆んどかかない、あるいは汗をかこうとしてもかけない、といった人も目立ちます。反対に首筋から胸元にかけては滝のような汗が出るのに、下半身は汗をかけず冷えている、という人もおります。汗というのは臭いの元となる上に、ベタベタした不快感をもたらすので厄介者扱いされがちですが、我々人間の体温調節や体調管理にはなくてはならない、とても大切な仕組みなのです。
実は冒頭に述べた熱中症に関しても、体が冷えていることや汗をかけなくなったということが深く影響しているのです。つまりその結果、体温調節がうまくいかなくなり、暑い環境にさらされると体温が異常に上がり、容易に熱中症に陥ってしまいます。即ちそのような体質の人は、一方では高温環境によって熱中症になりやすく、一方では体調のバランスが崩れて夏バテに見舞われる傾向にあります。かように熱中症と夏バテとは、表裏一体の関係にあるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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