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米国特許判例紹介:Bilski最高裁判決
〜ビジネス方法発明の特許性〜(第4回)
河野特許事務所 2010年7月1日 執筆者:弁理士 河野 英仁
Bernard L. Biskli, et al.,
Petitioners,
v.
David J. Kappos,
(2)過去の判例分析
最高裁はその一方で、機械・変換テストは依然として有用なツールであると判示した。
最高裁は、過去Cochrane事件*16において、「方法」は「変換され、異なる状態または物へ変形させるべく法定主題に対して実行される行為(act)、または一連の行為」と判示しおり、確かに機械・変換テストは有用なツールであることを認めた。その一方で同事件においては、機械・変換テストを満たさなければ、方法特許が成立しないとする判断を明確に拒絶している。
(3)技術の進化について
さらに、最高裁は、過去の産業時代と比較すれば、技術は多様な方向へ進化しており、機械・変換テストだけでは新たな技術についての特許性を判断できず、また、現段階において一律の基準を策定する必要もないと判示した。
産業時代の初期においては、機械・変換テストを満たさない方法発明は、ほぼ米国特許法第101条に規定する「方法」に該当しないといえる。しかしながら、技術は日々変化するものであり、コンピュータプログラムのように当時では予期できない、発明が発生する。米国特許法第101条は、新規であり予見できない発明を含むよう設定された活動的(ダイナミック)な規定であり*17、予期できない発明について特許保護を否定することとなれば、特許法の目的に反することとなる。
また、多くの法廷助言意見(amicus briefs)が主張しているように、機械・変換テストは、ソフトウェア、進化した診断医学技術、リニアプログラミング、データ圧縮、及びデジタル信号の操作に基づく発明の特許性に関し、不確定さを生じさせる可能性がある。
以上の理由により、最高裁は、機械・変換テストは、有用な判断基準であるものの、唯一の基準ではないと判示した。さらに、最高裁は新たな技術が発生した場合に、本事件と同じような議論が生じる可能性があることに言及した上で、現段階において特定分野における米国特許法第101条の適用基準については、敢えて判示しないと述べた。
争点2:ビジネス方法は米国特許法第101条に規定する「方法」に該当する。
最高裁は、条文の文言及び米国特許法第273条の規定に鑑み、ビジネス方法は、米国特許法第101条に規定する「方法」に該当すると判示した。
「方法」の辞書的な意味*18においても、また「普通の、最新の、一般的」な意味のどちらにおいても、「ビジネス方法」を排除していない。さらには、ビジネス方法特許を禁止する範囲も明確ではなく、効率よくビジネスを行うことの技術を排除するかどうかも明らかでない*19。
最高裁は、さらに米国特許法第273条(b)(1)の規定により、ビジネス方法が米国特許法第101条に規定する「方法」でないとする主張は排除されると述べた。
米国特許法第273条(b)(1)*20は以下のとおり規定している。
(b) 侵害に対する抗弁
(1) 全般
ある者に対して,抗弁がなければ,特許の中の方法に係る1 又は2 以上のクレームを侵害すると主張される主題に関する,第271 条に基づく侵害訴訟に対しては,当該人が善意で,当該特許に係る有効な出願日より少なくとも1 年以上前にその主題を現実に実施化しており,かつ,当該特許に係る有効な出願日前にその主題を商業的に使用していたことは,抗弁であるものとする。
米国特許法第273条(b)(1)の規定に基づけば、特許権者が特許された方法に基づき侵害を主張した場合、被疑侵害者は先使用権を抗弁として主張できる。米国特許法第273条(a)(3)においては、この抗弁の目的に関し、「方法(method)」とは,事業を行う又は運営する方法と定義されている*21。換言すれば、当該抗弁を認めることにより、特許法自身が、ビジネス方法の存在を認めていることとなる。
当該規定が存在しながら、ビジネス方法をいかなる状況においても特許性なしとする判断は、米国特許法第273条を制定した意味を滅却し、また当該規定を無用とする判断は議会の法制定趣旨に反することとなる*22。
また最高裁は、特許性ある法定主題に合致するビジネス方法として適正に記載された少なくともいくつかのプロセスが存在し、米国特許法第101条は、これらについて登録の可能性の門戸を開放していると述べた。その開放の一方で、ビジネス方法が特許を受けるためには、クレームされた発明が新規性を有し(米国特許法第102条)、非自明であり(米国特許法第103条)であり、さらに記載要件を具備(米国特許法第121条)しなければならないことを要求している。これらの制限規定は、発明保護による革新に対する刺激と、特許保護による阻害との間の調和を果たしていると述べた。
以上の理由により、最高裁は、ビジネス方法は米国特許法第101条に規定する「方法」から排除されないと判示した。
(第5回へ続く)
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