中国特許権侵害訴訟の傾向と分析(第10回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
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中国特許権侵害訴訟の傾向と分析(第10回)

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中国特許権侵害訴訟の傾向と分析

〜中国企業に狙われる外国企業〜(第10回) 
河野特許事務所 2010年6月29日 河野 英仁


(7)分析
(i)司法鑑定について
 本事件では権利侵害か否かの判断に当たり,司法鑑定を利用していることが特徴の一つといえる。司法鑑定は中国民事訴訟法第72 条に規定されている。中国民事訴訟法第72 条第1 項は以下のとおり規定している。
 「人民法院は,専門的問題について鑑定を行う必要があると認めた場合には,法定の鑑定部門に鑑定を委ねなければならない。(15)」
 審理においてはイ号製品が請求項に係る発明の技術的範囲に属するか否かについて,鑑定部門による司法鑑定が行われることが多い(16)。本事件の如く当事者の一方からの請求を契機に鑑定が行われ(17)。鑑定部門は,請求項に係る発明を構成要件毎に分説し,イ号製品との対比を行う。鑑定書には,構成要件毎に,イ号製品が各構成要件を具備するか否かの分析が詳細に記載される。すなわち単なる技術的な意見だけではなく,技術的範囲の属否についてまで踏み込んで鑑定を行う。特に,均等論上の侵害に該当するか否かについても華科鑑定センターが判断を行っている点は興味深い。この司法鑑定の結果は,法的拘束力を有するものではないが,人民法院審判員(裁判官)の権利属否判断に大きな影響を与える。本事件では被告が鑑定内容について不服を申し立てているが,ほとんど議論されることなく,鑑定結果に基づき人民法院は特許権侵害を認定している。鑑定を請求する際,または請求された際には書面にて自己の主張を十分に述べておく必要がある。鑑定請求の際の対応が不十分である場合,敗訴に直結するからである。
(ii)公知技術の抗弁
訴訟においては本事件の如く被告側から公知技術の抗弁が主張されることが多い。公知技術の抗弁とは,
上述したとおり,被告自身が実施している技術が,出願前に既に公知の技術となっている場合に,権利侵害
が成立しないことを人民法院にて主張することをいう。公知技術の抗弁が認められるための要件は厳しく,イ号製品または方法が,公知技術と完全に同一であることが要求されている。本事件の如く先行技術文献に
請求項に係る数値が記載されていない場合等は,公知技術の抗弁は認められない。当然複数の文献を組み合わせて創造性がないことを根拠に公知技術の抗弁が認められることもない。
 改正専利法においては公知技術の抗弁を条文上明記した。改正専利法第62 条は以下のとおりである。
 「特許権侵害紛争において,侵害被疑者が,その実施技術または設計が現有技術または現有設計であることを証明する証拠を有する場合,特許権侵害を構成しない。」
(iii)差し止め及び損害賠償額の認定
 特許権侵害が認められた場合,被告製品の製造,販売または使用等の即時停止(差し止め)が認められるのが原則である(専利法第11 条,専利法第60 条)。
しかしながら,人民法院は事案によっては即時停止を認めない場合がある。本事件では富士化水に対しては即時停止を求めたが,もう一方の被告,中国企業の華陽電業に対しては即時停止を認めなかった。華陽電業は既に2 基の脱硫装置を運営しており,これを停止するとすれば,現地経済及び住民の生活に悪影響を及ぼすことになる。また,このような脱硫方法は国家の環境保護政策にも沿うものである。人民法院は,特許権者の権利と社会公益とのバランスを考慮した上で,一方の被告華陽電業に対する脱硫方法の使用継続を認めたのである。ただし,人民法院は1 号機については2000 年2 月から,2 号機については2000 年9 月から,それぞれ特許満了期間まで,1 基当たり毎年24 万元(約360 万円)支払うよう命じた。  

(第11回に続く)  

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