中国における特許性(第10回) - 特許 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における特許性(第10回)

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中国におけるコンピュータ・ソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許性
 〜審決及び判例に基づく特許性の分析〜(第10回) 
河野特許事務所 2010年6月12日 河野 英仁、聶 寧楽


 

(2)Oracle 事件
(i)Oracle 事件の概要
 Oracle国際公司(以下,請求人という)は中国知識産権局に「不確定要素依存型支払いを含む電子取引をディレクトリ認証するとともに安全な電子銀行手形を介して実行する方法並びにシステム」と称する発明特許出願(出願番号00816165.8,以下165出願という)を行った。
 審査においては専利法第25条第1項(二)に規定する「知的活動の規則と方法」に該当するとして拒絶査定となった。出願人は拒絶査定を不服として復審委員会へ審判請求を行った。復審委員会は,本願請求項は技術三要素を具備しておらず,専利法第2 条第2 項に規定する技術案に該当せず特許の保護範囲に属しないとの決定9)をなした。詳細な経緯は以下のとおりである。

 


1999 年9 月24 日:米国特許出願
2000 年9 月22 日:国際特許出願PCT/US00/26054
2002 年5 月24 日:中国国内移行
2004 年6 月4 日:審査部門:専利法第25 条第1項(二)に規定する「知的活動の規則と方法」に該当するとして拒絶査定
2004 年9 月6 日:復審委員会へ審判請求
2008 年2 月20 日:復審委員会は,請求項1 -33 が専利法第2 条第2 項(改正前実施細則第2 条第1 項)の規定に反するとして拒絶査定を維持する審決
(ii)165 出願の内容
 165 出願の請求項1 は以下のとおりである。
【請求項1】一人以上の振出人と受取人とを含む参加者の間,電子手形を介して,不確定要素の除去を銀行が手形の受取人に対しての手形の支払いをリリースする前提条件とする電子取引を行うためのコンピュータシステムであって,
 暗号化された参加者固有の識別子を記憶した記憶装置と,
 不確定要素条件を開示するよう構成されるともにこの不確定要素条件を除去するオプションを含むよう構成され,承認された取引の参加者のみがアクセス可能なコンピュータサイトと,
 前記コンピュータ装置と関連されて信任された機関によって管理されており,識別情報を含む電子要求を各参加者から受信する認証装置と,
 前記信任された機関と言えども暗号化されていない純粋なパスワードを知ることはできないように,前記参加者から暗号化されていない識別情報の少なくとも一部が,記録または明確に読み取られないとき直ちに暗号化する暗号化装置と
 を含み,信任された機関によって管理されているコンピュータを有し,
 前記認証装置は,暗号化された識別情報と記憶されている参加者固有の暗号化された識別子とを比較し,
 前記振出人が前記認証装置によって適正に認証され,かつ,前記コンピュータサイトが,認証された参加者から指定の又はすべての不確定要素が除去されたことを通知された場合にのみ,受取人に対する支払いがリリースされ,
 前記振出人の認証は,前記受取人への前記振出人の個人情報の提供なしに,前記認証装置と前記振出人との間で行われる。

 


(iii)復審委員会の判断
 復審委員会は審査指南に基づき,以下のとおり述べた。
 「請求項1のコンピュータシステムは,公知のコンピュータ,ネットワーク及び周知の暗号化手段という電子取引分野において慣用される3つの構成を利用し,不確定要素が除去された場合に支払い処理を行う。ここで「不確定要素」とは,例えば「支払期限を超過したか否か」,「充分な資金を保持しているか否か」,「商品の検査が合格しているか否か」等の,電子取引を実現するために人為的に規定された取引条件と認定できる。」
 請求人は「暗号化手段が従来技術と異なり,取引の安全性の向上という技術的課題を解決した」と反論したが,復審委員会は
 「本願発明の如く,記録または明確に読み取られない場合に,識別情報を直ちに暗号化するという暗号化装置は,単に暗号化処理を実行するタイミングを規定したにすぎず,実際のところ従来の暗号化装置と同じであり,「記録または明確に読み取られない」という時点で暗号化するということは,暗号化手段そのものに対する改進とはいえず,技術手段と該当せず,またその解決しようとする課題も技術的課題ではない」と判断した。そして,
 「請求項に記載の解決案は公知のコンピュータ,ネットワーク,及び暗号化装置を利用して構成した公知の電子取引システムであり,この公知のシステムはなんら技術的進歩をもたらさない。従って,本願が解決しようとする課題は電子取引において全ての不確定要素が除去された場合にのみ,受取人に対する支払いが実行されるということであり,技術的課題ではなく,効果も技術性を有しない。」と結論づけ,専利法第2 条第2 項(改正前実施細則第2 条第1 項)を理由として,拒絶査定を維持する審決をなした。

 

 

 

(第11回に続く)

 

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