高気密・高断熱を考える(後編) - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

斉藤 昭彦
斉藤昭彦建築設計事務所 
京都府
建築家

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対象:住宅設計・構造

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高気密・高断熱を考える(後編)

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高気密・高断熱については、誤解もかなり広まっているように思われます。有効な技術ではありますが、それだけですべてが解決するような万能なものではありません。それと、実験室ではうまくいっても、実際の現場ではうまくいかないということもあり得ます。建物は、それぞれ敷地が異なりますし、形や仕上げ材料も異なるからです。

快適に生活するためには、温度が大事なことは言うまでもありません。しかし高気密・高断熱といった場合、温度に関する性能に関心が偏り過ぎているように思います。人間は部屋の空気を吸って生きているわけですから、空気の質が問題になります。石油やガスを燃やせば部屋の空気は汚れます。ですから換気が必要になります。しかしそうした燃焼器具がない場合でも、呼吸によって部屋内の酸素が減り、二酸化炭素が増えます。つまり換気なしでは、だんだんと息苦しくなってしまうわけです。

換気というのは、冷暖房した空気を外気と入れ換えるということですから、省エネルギーの観点からすれば無駄なことです。しかし生活していく上では絶対に必要です。最近は熱交換型換気扇が普及してきています。せっかく冷暖房した空気の熱を、無駄にしないようにするためです。でも熱交換の効率は100%ではありません。ですから換気は、エネルギー的にはやはりロスになるのです。

高気密・高断熱の建物では、すきま風による換気は期待できないので、冷暖房時は換気扇で換気を行います。換気量は、エネルギーのロスを少なくするために必要最小限に設定されます。計画換気と呼ばれる手法です。問題は、この必要最小限の換気量の設定です。

換気回数0.5回という数字をよく見かけます。これは1時間に部屋の容積の0.5倍の空気が入れ替わることを示しています。しかしこの換気量で本当に大丈夫なのでしょうか。0.5回という数字の根拠として、建築基準法の常時換気の規定をあげる人がいますが、それは間違いです。建築基準法の常時換気の規定は、建材から放散するホルムアルデヒドを希釈するのに必要な換気量であって、呼吸のために必要な換気量ではありません。

快適に過ごすためには、二酸化炭素の濃度を1000ppm以下に保つ必要があります。そのためには、1人1時間当たり30m3(立法メートル)の換気が必要です。20帖のLDKで、天井が標準的な高さだとすれば、容積は80m3程です。換気回数0.5回ならば1時間に40m3の空気が入れ替わることになりますが、これでは1人で住むには十分であっても、2人で住むには不足です。ましてや4人家族とかになれば、明らかに換気不足ですから、健康に良いはずがありません。

パンフレットなどで時々こんな例を見かけます。100m2(平方メートル)の家だと容積は240m3。換気回数0.5回で換気量は120m3。4人家族ならば、1人当たり必要な換気量30m3に4を掛けて120m3。一見収支があっているように見えますが、この計算が成り立つためには、LDKも寝室も収納もすべてが間仕切りのないワンルームになっていなければならず、まったく現実的ではありません。高気密・高断熱について語る場合には、パンフレットの数字をそのまま受け取るのではなく、実状に即した数字を使う必要があります。

高気密・高断熱でもうひとつ気を付けなければいけないのは、結露の問題です。実は断熱性を上げること自体はそれほど難しい話ではありません。困難は、断熱性を上げつつ、いかにして壁内結露(内部結露)を防ぐかにあります。壁内の結露は、柱や土台を腐らせたり、シロアリを招く原因になります。せっかく省エネルギーの家を建てても、建て替えのサイクルが短くなるのでは、トータルでのコストを減らすことにはなりません。

高気密・高断熱の建物では、外部に面する壁の室内側に、ポリエチレンなどのフィルムを張ります。室内の水蒸気が壁内に浸入するのを防いでいるわけです。理屈の上では、これで結露は防げるのですが、実際に現場で隙間なくフィルムが張るには、相当な技術が要ります。また、10年後20年後の経年劣化のことも考える必要があります。

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