- 今林 浩一郎
- 今林国際法務行政書士事務所 代表者
- 東京都
- 行政書士
対象:労働問題・仕事の法律
最近では、特に中国語の無資格ガイドが暗躍しており、2010年3月25日、九州運輸局はJTB九州に対し、同社が昨年中国人留学生を対象に「クルーズ船用ガイド募集」として、中国人観光客に対する添乗員を募集した際に業務内容に観光バスのガイディングが含まれていたうえ、本年も宮崎市において同様の募集を行ったことが「通訳案内士法違反の行為につながる恐れがある」として、再発防止を徹底するよう口頭で厳重注意しました。しかしながら、観光庁によれば、同法違反で摘発された例はこれまで一件もなく、「厳重注意された案件が公表されたのは全国でも初めて」とのことです(Exciteニュースより)。
この点、通訳案内士法第36条は「通訳案内士でない者は、報酬を得て、通訳案内を業として行ってはならない。」と通訳案内士業の業務独占に関する規定を置いており、同規定に違反して無資格ガイド業務を行った場合には、同法40条3号で「50万円以下の罰金」を課しています。これは刑事罰であり、同規定違反は法律上警察署及び検察庁に告訴・告発する理由になります。
ところが、摘発例が一例もないというからには、警察や検察が通訳案内士法違反の摘発に消極的であるというのみではなく、告発する者も僅少であるということが推定されます。すなわち、刑事訴訟法第230条は「犯罪により害を被った者は告訴することができる」と規定しており、また、同法231条1項は「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる」と規定しているからです。もっとも、個々の通訳案内士を無資格ガイドの被害者と見ることには困難があるので、告発のみが可能であると思われます。確かに、同法231条1項は「何人でも、犯罪があると思料する」者は告発できると規定するのですから、個々の通訳案内士も告発できるはずです。
また、通説的見解は、記載事実が不明確な告訴・告発、事実が特定されていない告訴・告発又は犯罪が明らかに成立しない告訴・告発等でない限り、検察官・司法警察員が告訴・告発を受理する義務を負うと解します(東京高裁昭和56年5月20日判決・判例タイムズ464号103P同旨)から、無資格ガイド行為を通訳案内士法違反とする法律規定がある以上、告発者が相当数いれば立件された事件もあったはずです。にもかかわらず、摘発例が一件もないというのは、この問題に対する社会の意識がかなり低いだけではなく、通訳案内士も全般的に自ら摘発に関与することには消極的であると考えられます。
ところで、現行検察審査会制度では、検察審査会の11名中8名による起訴相当議決(検察審査会法39条の5 第1項1号)に対する検察官による再度の不起訴処分が出た場合、検察審査会は当該審査の当否に対する再審査をしなければなりません(検察審査会法41条の2 第1項)。そして、検察審査会の11名中8名による起訴議決が再度為された場合(検察審査会法41条の6 第1項)、裁判所が指定する弁護士が公訴を提起し、当該事件について検察官の職務を行います(検察審査会法41条の9)。したがって、単に警察及び検察庁の動向を座視するのではなく、通訳案内士及びその支援団体が告発し、積極的に摘発を推進すれば、摘発例も増えるものと考えます。
(http://blogs.yahoo.co.jp/marvellous157/3955920.html)参照。
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