民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(7) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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民主党政権誕生による税制改正のゆくえ(7)

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税制改正 平成22年度税制改正
今日、明日は法人税について検討します。

法人税改革の大枠について検討するに当たり、
「法人税改革の推進」
「租税特別措置透明化法の制定」
「国境連帯税の検討」
の3点について、見ていきます。

まずは、民主党政策集INDEX2009の文章を見ておこう。

「法人税改革の推進」
租税特別措置の抜本的な見直しを行いますが、これを進めて課税ベースが
拡大した際には、企業の国際的な競争力の維持・向上などを勘案しつつ、
法人税率を見直していきます。
なお、租税特別措置の見直しにあたっては、研究開発の促進など真に必要な
措置については、現在の時限措置から恒久措置へと転換していきます。
また、温暖化を中心とする環境対策、雇用の維持・拡大、自治体の工夫や
努力などによる地域活性化などの重要課題への対応を法人税制の中で
図ることも検討します。
欠損金の繰戻還付制度は凍結を解除します。

「租税特別措置透明化法の制定」
租税特別措置について、減税措置の適用状況、政策評価等を明らかにした上で、
恒久化あるいは廃止の方向性を明確にする「租税特別措置透明化法」を制定します。
特定の企業や団体が本来払うはずの税金を減免される点で、租税特別措置
(租持)は実質的な補助金であると言えます。
しかし、民主党の調査の結果、税務当局も要求官庁も各租特の必要性や
効果を十分に検証しておらず、国民への説明責任を全く果たしていない
実態が浮かび上がってきました。
租特の透明化を進める中で、租特を含めた実質的な負担水準を明らかにし、
それにより課税ベースが拡大した場合には、法人税率の水準を見直していきます。

「国際連帯税の検討」
国境を越える特定の経済活動に課税し、集まった収入を貧困撲滅・途上国支援
などを行う国際機関の財源とする「国際連帯税」について検討を進めます。


民主党の税制改革案の最大の特長は、税制の簡素化・透明化にある。
ここにおいて、「租税特別措置透明化法の制定」を打ち出していることに
その特長が鮮明に現れてくる。
租税特別措置法は、法人税の特別措置に限らず、あらゆる税目を網羅するが、
圧倒的に法人税の減免のための特別措置が多く、本当に必要性があるものか、
疑問が残るものも多いだけに、まず最初に手をつけるところであろう。

昨日も書きましたが、特別措置や暫定措置はせいぜい2~3年の短期間の
時限立法であるべきで、継続すべき措置であれば、本法を改正して恒久化
するのがスジであろう。
しかし、従来までの自民党政権は、法案の原案を役人に任せ、政治家主導で
改正をさせてこなかったため、改悪の責任を取らされることを恐れる官僚では
おいそれと特別措置の恒久化に手をつけられなかったのが実情であろう。
国民の手に政治を取り戻すと言い切った民主党政権においては、法案の原案も
政治家主導で行われることになるだろうから、万が一悪法を作ってしまえば、
当然に次の選挙でその責任を取られることであろう。
それだけに、国民のためになる法が整備され、無駄になった法が整理されると
期待したいところである。

租税特別措置法を踏まえた法人税の実質負担率は公表されていないだけに、
従来の法人税法が大企業重視であった実態が詳らかにされる可能性は高い。

また、時代に合わなくなった特別措置が温存されていたものを廃止することで、
法人税収は大きく増える可能性もある。
民主党の懸念材料とされる財源問題の一部は、租税特別措置の見直しによって
解決される可能性もある。
それだけに、どこまで踏み込んで整理・統合ができるのか、注目したい。

国際的な潮流からすれば法人税率の引下げを行わなければ、わが国経済の
国際競争力を削いでしまう危険もあろう。
自民党政権は、大企業を保護することによって経済成長を促し、その結果、
雇用を生み出し、所得を増やしてきたが、民主党はどうしたいのか、
その辺は曖昧模糊としており、方針を明確に打ち出さないと、雇用維持を
優先する労働者政策を重視する政治なのか、経済成長を優先する企業家政策を
重視する政治(自民党がコッチ)なのか、よくわからないのだ。
自由経済を意識して結果の不平等への対応を考えるのか、格差の是正を意識して
景気のマイナス効果への対応を考えるのか、どっちに振れていくのだろうか。

法人税改革の場合には、大企業だけではなく、中小企業対策も含めて
考えなければバランスが取れないところで、その点については、明日検討する。

また、国境を越える取引においては、各国の税制度の盲点を突いた租税回避
スキームが、外資系投資銀行を中心に日夜開発されている。
例えば、オウブンシャホールディング事件では、当時外国への現物出資が
含み益を吐き出さないで帳簿価格を引き継げること、オランダにはキャピタル
ゲイン課税がないこと等を利用して、含み益の多かったテレビ朝日株等を
現物出資して設立した会社と、オウブンシャの親会社(財団)がオランダに
設立した子会社との取引によって、譲渡所得が課されないまま結果として
テレビ朝日株が日本に戻ってきたことに対して、租税回避であるとして
課税してきた事件でした。
(私はMJS租税判例研究会で判例研究しています。
MJS租税判例研究会HP
http://www.mjs.co.jp/kenkyukai/index.html)
この事件における取引の実在性については、非常に疑問があるのだけれども、
それはともかく国境を越える租税回避行為についてはどこかで歯止めを
かけておかないと、わが国に入るべき税金が入ってこないどころか、
税金自体を払わずに逃げ切ってしまうケースも出てきかねないだけに、
対応措置を整備して頂く必要はあろう。

ここでいう「国際連帯税」の原資が明らかにされていないために不明な点も
多いけれども、一定の財源を貧困撲滅・途上国支援のために用いることは、
結果として日本のためになるのではないかと思われる。