プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲解釈4 - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲解釈4

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 米国特許判例紹介:プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲解釈
      〜限定解釈へ統一指針(大法廷判決)〜(第4回) 
   河野特許事務所 2009年6月10日 執筆者:弁理士  河野 英仁

          Abbott Labs., et al.,
           Plaintiff-Appellant,
              v.
         Sandoz, Inc., et al.,
           Defendant-Appellee.

4.CAFCの判断
プロダクト・バイ・プロセスクレームの権利範囲は、記載したプロセスに限定解釈される。
 CAFCは過去の最高裁判決及び開示の代償として独占権を付与する法趣旨を総合的に勘案し、権利範囲はクレームに記載したプロセスに限定され、他のプロセスにより製造したイ号製品は特許権侵害とならないと判示した。

 Smith事件(最高裁判決)においては、
 「詳述されたプロセスは、製品が組み立てられる材料のように、それによって発明の一部となる。」と判示された。

 また、Goodyear事件(最高裁判決)においては、
 「特許の侵害といえるためには、歯科用プレートが作られる原料と、プレートを作るためのプロセスとの両方を備えなければならない。」と判示された。

 つまり、これら最高裁判決は、クレーム内の製品を定義するプロセスが発明の一部であり、権利範囲の解釈においても構成要件の一つとして参酌されるべきであることを示している。

 またCAFCの前身であるCCPA(The United States Court of Customs and Patent Appeals)は、In re Hughes事件において、
 「”製品クレーム”は、”プロダクト・バイ・プロセスクレーム”よりも権利範囲が広い」と同様の解釈を判示した。

 CAFCはプロダクト・バイ・プロセスクレームが限定解釈されるべき理由を、以下に示す具体例を挙げて説明している。

 方法により特定される化合物を想定する。発明者はこの化合物のいかなる構造または特徴をも記載することを拒み、プロダクト・バイ・プロセスクレーム、
「Yプロセスにより得られる化合物X」を作成した。

 プロダクト・バイ・プロセスクレームが、そのプロセスによって限定されないとすれば、
「Zプロセスによる得られる化合物X」を製造する被告は依然として侵害の責を負う。

 CAFCはかかる解釈は妥当でないと述べた。発明者は単一のプロセスしか開示しておらず、具体的な構造・特性は開示していない。当該開示したプロセスの共通性は侵害の判断要素とせず、開示のない構造・特性の共通性により侵害を追及することは到底認められないと述べた。特に、「Zプロセスによる化合物X」が「Yプロセスにより得られる化合物X」よりも優れた方法で製造できる可能性がある場合に、第三者の製法Zの実施を否定する根拠を見出せないと判示した。

 米国特許法第112条パラグラフ2は以下のとおり規定している。
「明細書は, 出願人が自己の発明とみなす主題を特定し,明白にクレームする1 又は2 以上のクレームで終わらなければならない。」

 CAFCは、プロダクト・バイ・プロセスクレームが、記載したプロセス以外のプロセスにより製造した物にも権利範囲が及ぶとすれば、米国特許法第112条パラグラフ2の「特定し,明白にクレームする」法定主題を超えて特許の保護範囲を拡張することになると判示した。

 以上のとおり、CAFCは、プロダクト・バイ・プロセスクレームは、記載したプロセスに権利範囲が限定されると結論づけた。これにより、Scripps事件は覆された(Overrule)。

5.結論
 CAFCは、異なるプロセスにより製造されたイ号製品は、507特許のクレーム2〜5を侵害しないとしたバージニア州連邦地方裁判所及びイリノイ州連邦地方裁判所の判断を支持した。

                                   (第5回へ続く)