小説『ちっちゃな家』#2/3 - 住宅設計・構造設計 - 専門家プロファイル

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小説『ちっちゃな家』#2/3

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<短編小説集>
SCENE-2:Bar

「‥ったくナニさまなの、あの福元ってキザな建築家!」 と、ゆみがきりだした。
 取材をおえたわたしたちは、ウエスタンスタイルのビールバーのカウンターに陣取り、
 ハーフ&ハーフの中ジョッキをかたむけはじめていたのだ。

「ナンであの先生使うかな、あのメタポオヤジ‥。」
 ゆみがメタポオヤジと揶揄したのは、うちの編集長、三谷原末吉のことだ。
 男性誌の編集にいた彼の感性は、主婦の生活感覚からは、もっとも遠いところにある‥。
 ゆみもわたしも、すでにそう感じはじめていた。

「ツガッチはうわさ聞いてる? 今回の特集であの福元さんに白羽の矢がとんだわけ。」
「ううん。ゆみはなにか知ってるの?」
「ほら、あるでしょ。『解決!リフォーム大魔王』ってテレビ番組。あれなんだって。」
 その番組なら、私も知っている。建築家と工務店とが “ナンとかの名工” と称して、
 住宅一軒まるまる改修工事しちゃう、という企画の番組だ。
「編集長の奥さんがね、その番組に出てる福元さん見て “このイケメンの建築家さん、
 いいわね!”って一言もらしたんですって。編集会議でもその番組の話題が出てね、
 あの、たいこ持ちのヒガちゃんが、“主婦の意見は大事っす。その線でしょ!”って、
 それだけ。それだけで決まっちゃったのよ!」
 そんなクダらない理由じゃないことを願いたいが、まあ事実なんだろうな‥、きっと。

「ツガッチはどう思った、さっきのあの住宅の設計。ちょっと、あっれはないよねえ。」
 わたしもゆみと同じく、さっき訪れた『コトノハ舎』という住宅には違和感を覚えた。
 少しでも緑がある小さな庭、ひなたぼっこができる縁側、たとえばそんな、自然と触
 れあえる場所があの住宅にはどこにもない。

「わたしの理想の家はね‥」 わたしが、きりだすと‥
「『サツキとメイの家』‥でしょ! 『となりのトトロ』のね。」と、ゆみがつづけた。
 私の地元ちかく、自然あふれる狭山丘陵のあたりが舞台となった『となりのトトロ』。
 公開されたのは1988年。私もその年、主人公のサツキと同じ、小学校4年生だった。
「『サツキとメイの家』をつくって!」ことあるごと、わたしは父に、せがんでいた。
 いま思えば、そのことは、父の心に大きなの負い目をつくっていったかもしれない。
 父の仕事は建築家でも大工さんでもない。建具や家具の職人にすぎなかったからだ。

 “そういえば、また『さやま本舗』のお茶。おとうさんから届いてたな‥。”

 気がつくとゆみは、テーブル席の大学生らしい四人組の男の子達に手を振り返していた。
 ただ、男の子達のお目当てが自分でなく、わたしの方だと気がつくと、ゆみはわたしに
 目だけでつぶやいた…  ワ・タ・シ・ノ  ホ・ウ・ガ  ワ・カ・イ・ノ・ニ! 

 つづく

 ※この文章は、フィクションです。
 『コトノハ舎』という住宅が存在すること以外、設定や登場人物はすべて架空です。

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