次に、その健康上の目標達成のために必要かつ有効なツールを、医療者側から必要に応じ提示されるべきであること、そのツールの患者への適合性(合うかどうか)や、そのものの「品質」、さらには「売り方」が極めて重要であること・・などを解説しました。
悲しいことに現状では、患者の健康を増進すべきツールは全てが良質とは言えません。例えばサプリメントは、有効成分が充分に含まれていなかったり、添加物のような有害成分が多量に付加されていたり、或いは強引な売り方をしていたりと、到底一流とはいえないようなものが横行しているのが現実です。
その中でも、品質や安全性にとことんこだわり、良心的な販売形態で売っているサプリメントや健康食品は、少数ながら存在します。サプリ以外でも、優れた品質や有用性をもち、リーズナブルな価格で提供されているような商品・サービスの類は、限定的ながら市場に存在するのです。
疾患や患者の特性によって、必要なツールは当然異なってきます。メタボリック症候群の中年男性と、うつ傾向の若い女性とでは、本人の状態に適合するツールや好み、こだわりが違うのは、むしろ自然なことです。それらの個人的な差異を考慮せずに、画一的にツールを適用しようという態度は、逆に危険や患者の不満を生む元となります。
同じ腰痛や肩凝りがある方でも、男性の場合は整体やカイロプラクティックを好むかも知れないし、女性の場合はアロマセラピーやホメオパシーを好むかも知れません。また野菜摂取不足によるビタミン欠乏が疑われる患者の場合でも、人によっては総合ビタミン剤などのサプリメントを好むでしょうし、別の人はサプリは好まず、有機野菜などによる食事療法に活路を見出すでしょう。
ここでは一例として、最近急増しているメタボリック症候群に該当する、経営者の中年男性を想定してみます。肥満や中性脂肪の高値、軽度の高血圧がみられ、若干の疲れやすさや体の重さを自覚しています。外食や宴会が多く、運動不足が続いています。ストレスが常に多く、タバコや酒の量が増えてきています。連日残業が続き、疲労が蓄積しています。
こういう方々は責任のある立場に立っており、とても忙しい日々を送っています。病院に行ったり、時間をかけてトレーニングをしている時間はありません。また食事面での問題点は感じていますが、現実にはやむを得ないと、半ば諦め気味です。医師に相談したい気持ちはありますが、だからといって、病院で長時間待ったあげくに3分診療を受けるつもりはありません。
このような場合患者に対して、教科書的に「食事療法」「運動療法」の指示をしても、殆んど無意味です。多くの人は、過去に一度は何らかの健康法を試みており、知識はある程度持ち合わせています。ところが健康法の失敗体験を持つと、その後の非健康的な行動(酒・タバコ・運動不足など)の言い訳を無意識に考え付くようになります。その理由の代表格は、「忙しい」とか「今は健康だから大丈夫」などです。
そこで有効なアプローチ法が「コーチング」です。つまり健康への取り組みに対して当事者意識を持たせ、小さな成功体験を積み重ねさせるようなアプローチです。いくらダイエットに失敗したような人でも、何らかの過去の成功体験は誰でも持っているはずです。その体験や好みに合わせるようなツールを提供し、患者本人に選ばせ、利用させるのです。
忙しい経営者や管理職の場合、例えば運動療法を行なうにしても、スポーツクラブに行く時間がないかもしれません。時間がある場合でも、プライドが邪魔して行きたがらない人もいるようです。この場合もし患者の要望があれば、スポーツトレーナーを職場または家庭に派遣し、運動療法のデリバリー・サービスを提供するということも可能です。
また外食や宴会が避けられない要職の方の場合、外食でのメニュー選びを指南する方法や、家庭での食事(朝や夕食)の際に、奥様に栄養指導する方法、糖代謝や脂質代謝に効果のあるサプリメントを紹介する方法、などが考えられます。食事面でのフォローアップの補助ツールとして、インターネットによる予防医療システムを活用し、日常的なコミュニケーションを充実させます。
企業の経営者や社員などの健康増進を図るプロセスで、病院や各種代替医療機関、スポーツ施設などと提携し、ダイナミックな「健康コンサルティング」を提供することによって、会社を丸ごと健康体質にするばかりか、業績を大幅に向上させることも可能と予想されます・・(続く)
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このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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