粉飾決算に基づいた投資判断に対する株主代表訴訟 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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粉飾決算に基づいた投資判断に対する株主代表訴訟

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雑感 業務その他
粉飾決算の影響で上場廃止となった会社の増資により受けた損害に対して、
株主が出資した投資会社の社長らを相手取り、株主代表訴訟を提起した。
8日8時5分産経新聞ネット記事はこう報じた。

粉飾決算で上場廃止となった企業の増資をめぐり、上場廃止を予測できた
のに出資に応じて会社に損害を与えたとして、出資した投資会社、
ユニオンホールディングスの女性株主が、ユニオン社の社長らを相手取り、
出資した44億9000万円をユニオン社に弁済するよう求める
株主代表訴訟を起こしていたことが7日、関係者の話で分かった。

訴状によると、ユニオン社は平成17年3月から3回に分けて、電気通信
工事業、TTGの第三者割当増資を引き受けて、計44億9000万円を
出資した。
その後、TTGが17年3月期の有価証券報告書で、実際は約18億
5000万円の債務超過だったのに約3000万円の純資産があるように
みせかけるなどの粉飾決算をしていたことが発覚。
19年1月、ジャスダック市場を上場廃止となった。

株主側は、増資を引き受けるにあたり調査会社から提出された資料で、
TTGが粉飾決算をしていることが指摘されていたと主張。
ユニオン社の経営陣は、粉飾決算を原因とするTTGの上場廃止を予測できた
のに、出資した後にTTGの株が無価値となって社に損害を与えたとしている。

TTGへの増資をめぐってはユニオン社が「TTGが違法行為をしていないか
調査する義務があった」として増資の仲介をした三井住友銀行と大和証券
SMBCに対し、計44億9000万円の賠償を求めた訴訟を起こしている。




44億9000万円の出資が悪質な粉飾決算の結果、紙切れになってしまった
事件について、株主から株主代表訴訟を提起されるまでに至った。
出資した投資会社が増資の仲介をした銀行と証券会社を相手に出資額の
全額の賠償を求めて提訴している事件でもあり、投資した責任がいずれに
あるのか、裁判所の対応が注目されるところである。

小泉改革の中で主張されていたキーワードとして「自己責任」があった
ことを覚えているだろうか。

小泉さんは、あらゆることを自己責任の下で行う社会を目指していたわけで、
投資に対する自己責任は、その中でも最たるものの1つであろう。

しかし、自己責任社会というのは、情報の不均衡が是正されない限り、
達成することが不可能である。
少なくとも、情報の不均衡を是正するための措置が機能しないことには
自己責任を取りようがないのである。

本件は、まさにそこが焦点である。

自己責任であるならば、株主が投資に踏み切った経営陣に損害賠償を
求めたとしても、経営陣の投資判断の誤りの責任は、クビにすることは
あっても、損害賠償を求めるのは、利益供与の強要にあたることになろう。
また、会社が銀行や証券会社を訴えたとしても、投資判断を誤った会社の
判断ミスになるのだから、損害賠償を求めることは筋違いということになろう。

しかし、自己責任がとれるためには、正しい判断材料が提供されてこその
ことであり、そもそも増資の仲介をする際に、対象会社の実態調査が
徹底されていないのであれば、不良投資案件の販売ということですから、
詐欺にあたることにあろう。
少なくとも、銀行や証券会社が詐欺の共犯ではないことを証明する責任は
あるのではないだろうか。
詐欺に基づいた情報により投資の自己判断が誤っていたとして、投資した
側が自己責任を問われるのであれば、投資情報の信頼性が損なわれるどころか、
誰も信用しなくなるのではないのか。

それを防ぐために、アメリカでは、公認会計士による監査が保証となり、
公認会計士もプロフェッショナルの矜持を持って、自己責任社会の要請に
応えてきたのである。

本件においては、TTGの粉飾の事実を調査する義務があったのか、
ということになろうが、それは銀行や証券会社ではなく、監査証明をした
公認会計士の責任ではないだろうか。

その意味では、ユニオン社は被告適格を失した訴訟を提起しているような
気がする。

近年は、公認会計士による不正行為がかつてないほど摘発されている。

金融庁が公認会計士の増員を求める背景にも理解できる面はあるけれども、
私が受験勉強していた当時から考えると、受験生の質の低下が感じられて
仕方がない。
それだけではなく、監査人員の確保という観点が重視されすぎて、
監査法人内でも行われていたはずの初期研修、公認会計士としてのあるべき姿を
プロフェッショナルとしての矜持として持たせるための職業倫理教育が
おざなりにされてきた感がある。

税理士の質という部分では言うまでもないことであるが、研修の質の向上が
求められるだけではなく、税理士に至っては、研修制度自体が努力目標に
過ぎず、継続研修を受けていないとしても罰則すらない。

税理士にしろ、公認会計士にしろ、試験合格して数年はかなり高いレベルに
あると考えられるが、もし継続研修を10年受けてこないとすれば、レベルを
維持できる者は少数派になってしまう。
私のような試験免除にさえ、歯が立たないレベルまで落ち込んでしまうのだ。

私はダブルマスターであることを公言していますし、
「ダブルがお嫌いなら結構です。ダブルから学ぶことはないんでしょ。
だったら私がやる研修には来てくれなくて結構です」と発言して、
無茶苦茶怒られたこともありました。

しかし、国家資格というものは、スタートラインに過ぎず、継続研修こそが
プロフェッショナルであり続けるために必要なことなのだ。

本件のような事件が報道されるたびに、小泉さんの功罪を考えてしまうのだが、
その根底にあることは、自己責任の問題というよりも、プロフェッショナルの
専門家としての責任が果たされていないことではないのかと感じている。

税理士という専門職業をプライドを持って行っていくためにも、
プロフェッショナルとしての矜持を忘れてはならない。