住宅ローン控除の上乗せ分が認められた裁決 - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

住宅ローン控除の上乗せ分が認められた裁決

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 会計・経理
  3. 会計・経理全般
発表 実務に役立つ判例紹介
今日は、住宅ローン控除をめぐる裁決を紹介したい。
住宅の夫婦共有持分を離婚に伴い取得した夫が、妻の債務も引き受けたところ、
妻の分の住宅取得控除は「家屋を2以上有する場合」に該当するため、
受けられないとされた処分を争った裁決が、全部取消となった
平成21年2月20日裁決(TAINSコードF0-1-311)です。

裁決の要旨は以下の通りである。

本件は、妻と共有していた居住用の家屋(マンション)に関し、住宅借入金等
特別控除を適用して所得税の確定申告をしていた請求人が、その後離婚し、
財産分与により取得した前妻の持分を含めて同特別控除を適用して申告をした
ところ、原処分庁が、家屋の共有持分の追加取得は「家屋を2以上有する場合」
に該当するから、追加取得に係る特別控除を重複して適用することはできない
として更正処分等を行った事案である。

マンションの取得に係る借入金は、請求人と妻との連帯債務となっていたが、
財産分与のとき前妻の債務を引き受け、本件借入金は請求人の単独債務と
なっている。

措置令26条1項及び2項は、住宅借入金等特別控除について、居住の用に
供する家屋を2以上有する場合には、これらの家屋のうち、主として
その居住の用に供すると認められる一の家屋に限る旨規定しているところ、
これは、本件控除制度が持家取得の促進を図ることを主な目的としているため、
既に持家を取得し、本件控除の適用を受けている者が、別荘など主として
居住の用に供さない家屋を取得した場合にまで重ねて本件控除の適用を
認めることは相当でないことから、主として居住の用に供さない家屋に
ついての本件控除の適用を制限するために規定されたものであると解される。

共有の場合の各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用を
することができる(民法249条)ことからすると、既に居住の用に供する
家屋に係る共有持分を有する者が他の者の共有持分を追加取得したとしても、
それは、新たに別の家屋を有することとなるものではなく、既に居住の用に
供する家屋の持分を追加取得したことにすぎず、共有持分の追加取得後の
所有権の及ぶ対象は当該家屋の一個のみである。
また、その場合、観念的には、当初は持分に応じた当該家屋を居住の用に
供する権利を得ているのみで、いまだ完全なる所有権(居住の用に供する
一の家屋)を取得していなかったものが、持分を追加取得したことにより
更なる権利を得ることになっただけであり、持分の追加取得の前後を通じて、
当該家屋を主としてその居住の用に供している実態に変わりはない。
したがって、共有持分を追加取得した場合、措置令26条2項に規定する
「家屋を2以上有する場合」には該当しない。

さらに、措置法41条の2は、居住者が、その適用年において、2以上の
居住年に係る住宅借入金等の金額を有する場合には、所要の計算調整により
その適用年の控除額を計算する旨規定している。
そうすると、同条の規定は、一の家屋において、2以上の住宅の取得等がある
場合を前提にしていると解されるから、一の家屋の共有持分を追加取得した
場合も、本件控除をいずれの共有持分についても適用することとしても
本件控除の制度の趣旨には反しないと解される。

以上の結果、原処分庁の主張には理由がなく、本件各更正処分は、
いずれもその全部を取り消すべきである。



住宅自体の名義が夫婦共有名義かどうかはともかくとして、住宅ローンを
夫婦共有で借り入れ、夫婦がそれぞれで住宅ローン控除を受けているという
方は多いのではないでしょうか。

こういう夫婦が円満にローンを返済し切れればいいのですが、
紹介した事例のような離婚や死別により、一方配偶者が住宅の名義を
引き継ぎ、ローンの残債を引き継ぐケースは少なくないであろう。

これまでは、1つの住宅であるにもかかわらず、権利が2つになることから、
後から取得した分をそれまでの住宅取得控除に上乗せすることが認められず、
それまでの自分の名義の分のみを控除するか、一方配偶者の名義のもののみを
引き継ぐか(つまりそれまでの自分の分を捨てることになります)を
選択しなければなりませんでした。

しかし、今回紹介した平成21年2月20日裁決は、1つの住宅であることを
認め、後から取得した分を住宅取得控除に上乗せすることを認めたのです。

普通に考えると、至極当然な裁決のように思いますが、法律の文言を
厳密に解釈するべき法律家の常識からは画期的な裁決だと思います。

文言通りに捉えれば、2つの権利であることは明白で、住宅に居住する
権利は1つしかありえないと読みますので、従来通りの取扱いが考えられます。

しかし、共有名義の住宅ローンは本当に2つの権利なのでしょうか。

民法上の議論がどうなるのかがわからないので、土地法や区分所有法を
専門とされている方に是非ご意見を聞かせて頂きたいところですが、
私の理解では1つの権利を分割しているだけだ、と考えます。
ですから、分割されていた権利が元の1つに戻るだけなのだから、
2つの権利ではなく、1つの権利である、
したがって、住宅取得控除の上乗せが認められて当然である、と考えます。

この論理構成は、今回の裁決に近しいものだと思いますが、いかがでしょうか。

最近は、審判所にも民間人の登用による人事交流も出始め、
審判所が話のわかるところになってくると期待しております。

このような庶民感覚に近い裁決を積極的に下して頂きたいものです。