ある調査によると、新入社員が感じる入社前のイメージと実務とのギャップは、「仕事内容や配属について」が全体の30.0%と最も多く、次いで「組織の特徴や社風について」が21.3%、「成長環境やキャリア開発について」が19.2%となっていたそうです。
回答者のコメントを見ると、
「希望していた部署とはかけ離れた部署に配属された」
「平日休みで、週末や祝日には出勤の必要があるなど、勤務体系が特殊な部署があった」
「仕事に対する憧れだけで入社を決め、社内風土を調べずに入社した」
「歴史があって社内の平均年齢が高い企業だったので、新卒入社してもキャリアアップが難しい」
といった声がありました。
大卒の新入社員は入社3年以内に3割が辞めてしまうとされる「七五三問題」がありますが、これは決して最近だけの傾向ではなく、20年以上前から同じような比率で推移しています。ここから見ると、いま行われている新卒採用の枠組みの中では、それくらいのミスマッチが発生してしまうということでしょう。
この調査結果で、学生の意識とのギャップが大きいのは、「希望の会社に就職できても希望の仕事に就けるとは限らない」「仕事をする上で組織風土は意外に重要な要素である」ということです。
「必ずしも希望の仕事ができるとは限らない」というのは、今の日本企業で仕事をする限りは、ある程度やむを得ないことで、入社を決断した学生もそれなりに理解していることだと思います。「組織風土」についても同じで、就職活動では多くの学生が重視して研究しています。
ただ、いくら意識していてもそれを超えるようなギャップがあり、それが3年以内に3割辞める状況が続いてしまうことの一つの理由ではあるでしょう。
入社前後の認識ギャップは、本来であればまだ社会人経験がなく理解不足になりがちな学生より、経験豊富な企業側が埋める努力をすべきと思いますが、なかなかそういう形にはなっていません。それでも多くの企業は、真面目に自社のことを理解してほしいと考えており、嘘をいったり隠したりするつもりはないことがほとんどですが、リアルな実態を理解させるまでには至っていません。
その理由として、やはり企業は優秀な学生に数多く入社してほしいので、学生の希望の芽を摘むような話はしづらいことがあります。
社会の事情をきちんと知らせようと努力する企業は増えていますが、人材獲得を競っている限り、自分たちのすべてをさらけ出すことには、おのずと躊躇があるでしょう。
そうなると、学生も自力で多くのことを理解する努力が必要になります。「配属される可能性がある職種が、自分の許容範囲に収まるものなのか」「組織風土や企業文化は自分の価値観と合っているのか」といったことは、より一層意識しておく必要があるでしょう。
具体的に何をすればよいのかは、なかなか難しいところがありますが、自分なりに調べられることはいろいろあります。
例えば、その会社の事業計画を見て今後力を入れる分野を確認したり、組織図と人員構成を突き合わせたりすれば、どんな部門、職種に行く確率が高いのかは何となく見えてきます。
組織風土であれば、例えば歴史がある会社の方が保守的であったり、上下関係がはっきりしていたり、男社会の要素が強かったりしますし、平均年齢が高低によって、その年齢なりの一般的な雰囲気があります。伸び盛りの会社と成熟企業では当然様子が違います。業界特性や業績推移、社員数の増減といった情報を重ねていくと、実態をそれなりに推測することができます。
もう一つは、自分の想定範囲を広げておくという方法があります。特にポテンシャルを見込まれていることが多い新入社員では、本人の思いとまったく違う処遇になることがあるため、あまり一つのことへの思いが強すぎると、よけいにつらさを感じることがあります。
企業の中で、自分の裁量が使えるようになるまでにはそれなりの時間が必要ですし、それまでは思い通りにならないことが多いと思っていた方が正しいかもしれません。それがどうしても我慢できないとなれば、無理せずに転職した方が良いという考えもあります。
事前に調べてわかることがある一方、個人のキャリアは運や偶然の要素に左右されることが多いこともまた事実です。
「まあこんなもの」と許容する気持ちと、それが無理なら転職も辞さないという割り切りの両方が必要ではないでしょうか。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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