基本的な法律すら守らない「ブラック企業」の話題が相変わらず多いこともあり、その反面で「従業員満足」を重視する会社が増えています。
「従業員満足」は個人の主観による部分も多く、例えば給料が高ければそれだけで満足するというものではありません。「仕事が面白い」「人間関係が良い」「社会貢献できる」「福利厚生が充実」「企業の知名度がある」など、満足を構成する共通要素は存在するものの、それでみんなが満足するというものではありません。
満足を感じる優先順位は人によって千差万別で、すべての要素を高めなければ全体の満足にはつながりません。
この「従業員満足」は、会社側から見ても、何を重視しているかという価値観が違います。ここには「社員への優しさ」に関する視点の違いといったことも反映されるように感じます。
先日うかがった機器メーカーは、私から見るとかなり古いスタイルの人事制度を今でもそのまま運用しています。定期昇給は定年まで継続し、役職の異動はあっても降格はありません。社員数のわりに組織が細かく分けられていて、多くの役職ポストが用意されています。
社長に話を聞くと、降格などはやる気をなくすのでもってのほかだし、同じ発想で給料を下げるというような考えもないそうです。業績が悪ければできるだけみんなで分かち合い、良い時もみんなが頑張ったおかげと考えて、同じくみんなで分かち合います。
ただ、そこでは能力よりも年功を重視した役職任命によるマネジメント不足が起こっていて、これが会社の課題となっています。私にはマネージャーの完全な能力不足、資質不足と見えるので、降格も含めた異動や配置転換を考えなければ解決は難しいと思うのですが、それは避けたい意向らしく、できれば研修や個別指導によって改善したいと考えています。
そういう社員の活かし方がこの会社としての価値観で、「社員への優しさ」の一種とも言えますが、現状では組織の硬直化と守りの姿勢が目立ちます。
これに対して、社員との関係性がとにかくドライというあるIT会社があります。給与も賞与も、成果に応じた時価精算の色合いが強く、減俸や降格にはまったく躊躇がありません。
仕事をする場を重視して、オフィス環境の整備にはそれなりの投資をしていますが、その一方で仕事とは必ずしも直接つながらないと見られる福利厚生面などにはほとんど手をつけません。
この会社の価値観は、仕事は仕事、プライベートはプライベートとけじめをつけることで、会社が投資するのは直接仕事に関わることのみと割り切っています。その時その時の仕事ぶりを評価し、その良し悪しははっきりフィードバックし、会社と社員との信頼関係に基づいて処遇をすることが「社員への優しさ」ととらえているようです。
この会社で不満となるのは、評価の公正さという問題が多く、ともすれば人間関係が希薄になりがちなところもあります。ただし、慣れ合いを許さない雰囲気があり、不備や不満を放置しないので、組織としての活気はあります。
見れば見るほど正反対の会社ですが、それぞれ共通して「社員への優しさ」は持っていると自負しています。
私がこの両社から感じるのは、「注目している視点の違い」です。
前段の会社は、ベテラン社員が多いため、できるだけ変化を少なく、確実に雇用を維持し、安定的に働いてもらうことを主眼にしているように見えます。
これに対して後段の会社は、変化を恐れずに変えるべきものはスピーディーに変え、その場その場の成果を重視し、実力のある者が上の立場で指揮を執ることが当然と考えています。結果として人材流出はありますが、それもある程度やむを得ないことと許容しています。
どちらの会社が「社員への優しさ」が大きいかは、私には判断できません。考え方が違う背景には、業種の違いや企業ステージの違い、年齢構成の違いや業績の違い、その他様々な要素がありますが、一つだけ言えるのは、状況によってそれぞれどちらの考え方も必要になってくることです。
いつまでも現状を守ることでは会社は衰退していくだけですし、いつまでもドライでイケイケのやり方では、いつか頭打ちになる日が来るでしょう。
「社員への優しさ」というのは、ただ社員の言うことを聞けばよい訳ではなく、既得権を守ればよい訳でもなく、ただ甘やかすということでもありません。会社がなくても生き残ることができる、市場価値がある人材にするために、あえて厳しく育成するということも、ある意味では「社員への優しさ」です。
結局は、その会社の価値観に共感している社員が多いほど、「社員への優しさ」が大きい会社といえるのではないでしょうか。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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