全員が「競争して上を目指す」でなければダメなのか
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これは「企業の業績を上げる」「事業を発展させる」ということを支援、協働する立場のコンサルタントとしては、あまり言うべきでないのかもしれません。ただ、企業で働く多くの人たちを人事の立場から見ていて、いつも考えてしまうことです。
それは決してエースでもエリートでもない、普通にコツコツ働いている、言葉は良くありませんが「その他大勢」の人たちです。どちらかといえば上昇志向はそれほどなく、あまり競争を好みません。
たまにサボったり、物足りなかったり、期待通りでなかったりしますが、その人なりの役割を担っていて、おおむね真面目に働いています。
管理職になる人もならない人もいますが、そこまで目をかけられるわけでもなく、どちらかといえば現場に近い立場で仕事をこなします。
努力家とはいえなせんが、かといって努力していないわけでもなく、高い成果が出ているわけではありませんが、成果がないわけでもない、評価で言えば平均以下も含んだ中の中周辺のイメージです。
こういう人たちの中には、競争の結果そうなってしまった人や、出世欲満々でもそれがなかなかかなわない人もいますが、私が接する多くの人たちは、それほど上昇志向があるわけでなく、かといって成長意欲がないわけではなく、人を蹴落とすようなことを避け、仲間と良好な関係を保ちながら仕事をしようとします。
こんな真面目で普通に働く中庸の人たちが、実態以上に低い価値で見られているのではないかと思うことがあります。
ある経済誌のウェブサイトに「今日の名言」というコーナーがあり、著名な企業経営者を中心に、語られた言葉が毎日掲載されています。
その中から、私の偏見であえて上昇志向を意識していると思うものをピックアップしてみると、こんな言葉がありました。
「もう一段上を目指す」
「真剣勝負」
「ぬるま湯体質の脱却」
「ナンバーワンにこだわる」
「成長し続ける」
「戦闘モード」
「戦う」
「チャレンジの炎」
「金メダル」
「勝利」
「成功」
これを見てあらためて思うのは、企業のトップとその立場に近いリーダーは、上昇志向が強くて競争が好きで、なおかつそれを得意とする人たちが多いということです。そもそも資本主義は競争が基本であり、競争に負けることは退場させられることを意味しますから、この思考がなければ成り立たないことは確かでしょう。
ただ、企業の中には必ずしも競争が得意ではない、またそんな競争には興味がないという人たちがいます。私が見てきた中では、こちらの方が多数派のようにも思えます。
ある会社で、人事評価の結果がかれこれ15年以上ずっと標準のC評価という人がいます。企業の評価制度には、上昇志向と競争心を刺激するという一面がありますが、それには乗ってこないような人です。会社の仕組みなので仕方ないですが、こういう評価を半ば事務的に続けることに、果たして意味があるのかと思ってしまいます。
私があまり良くないと思うのは、上昇志向や競争心を持つ人は、それを持たない人を軽蔑したり無能扱いしたりする傾向があることです。しかし、上を目指そうとする人が必ずしも有能とは限りませんし、そんな人ほどパワハラ上司になる傾向も感じます。
最近言われる「多様な働き方」の中では、このような仕事の向き合い方での個人差も含まれます。
「競争を好まない」「上を目指さない」という人であっても、その人に合った動機付けができ、能力を活かせる職場にしなければなりません。上を目指さない人も決して無能ではありません。
日常の職場で「常に戦いだ!」などと言われてしまうと、私もさすがに違和感を持ってしまいます。
人それぞれの職業観は、もっと尊重する必要があると思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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