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日経記事:『国際仲裁にコロナ特需 ビジネス紛争解決で利便性向上 アジアが人気、日本出遅れ』に関する考察

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皆様、

こんにちは。

グローバルビジネスマッチングアドバイザー 山本 雅暁です。


10月7日付の日経新聞に、『国際仲裁にコロナ特需 ビジネス紛争解決で利便性向上 アジアが人気、日本出遅れ』のタイトルで記事が掲載されました。


本日は、この記事に関して考えを述べます。


本記事の冒頭部分は、以下の通りです。

『シンガポールは国際仲裁の人気度でロンドンと並ぶ(シンガポールの仲裁施設)

新型コロナウイルス禍が、ビジネス紛争を解決する「国際仲裁」の世界的な特需を生んでいる。リモート対応などで裁判より使い勝手が良い解決手段として注目された。仲裁地としてアジアの人気が高まるが、日本の出遅れが目立つ。企業に「地元で戦う機会が少なく不利」と懸念も広がる。。。』


この記事では、新型コロナが国際仲裁の特需を生んだと書いています。しかし、ベンチャーや中小企業の海外事業展開を支援している経営コンサルタントの視点からは、そのような実感はありません。


国際仲裁は、一般的に企業間の紛争が起こった時に、処理するやり方の一つになります。企業間、特に海外企業との紛争は、注意深く検討して対応する必要があります。


企業間のクレームや紛争の解決方法は、話し合い、仲裁、訴訟による3つの方法に分けられます。一番簡単な方法は、話し合いによる解決です。


しかし、一般的に海外企業とのクレームや紛争は、当事者同士の話し合いでは解決しません。この場合、仲裁か訴訟での対応を行うことになります。


訴訟を選んだ場合、裁判では特定の国の裁判所を利用します。海外企業との裁判では、手続や言語を当事者が選択することはできません。



また,裁判官がその分野の商慣習に通じていなかったり,原則として公開審理であるため企業秘密が守られなかったりといったリスクがあります。


海外企業との交渉した結果、日本の裁判所にて日本で訴判決を得ても,外国判決承認制度が存在しないため、その判決に基づいて外国で強制執行することが難しいという課題とリスクもあります。


このように、特に国内のベンチャーや中小企業が、紛争解決に訴訟を選ぶと、長期間高い弁護士費用を払いながら対応する必要があり、上記します課題やリスクが発生します。


このような状況下、多くの国内企業は、海外企業との取引や事業連携;アライアンスなどの協働活動を行う時に結ぶ各種契約書では、国際仲裁の仕組みを選ばれています。この状況は、新型コロナ前から数多く見受けられます。


この国際仲裁の仕組みは、1966年に国連総会によって設置され、国際商取引法の分野では国連システムの中心的な法律機関である、「国際連合国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law (UNCITRAL))」が策定した「UNCITRAL国際商事仲裁モデル法」がベースになっています。


さらに、「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)なる多国間条約の整備により※,仲裁判断の執行が世界的に容易であるという利点があります。

こうした利点に鑑みて,国際的なビジネス紛争の解決には,仲裁が世界的に多用されるに至っています


【注】ニューヨーク条約:,1958年に国際連合において策定され,1959年に効力を有するに至った外国仲裁判断の承認執行のための条約であり,現在,160カ国以上が加盟している条約です。日本は,1961年より加盟しており,日本の仲裁判断であっても,同条約の加盟国(アメリカ,イギリス,中国などを含む)における承認・執行を可能としています。

出典元;経済産業省 国際仲裁

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/toshi/kokusai_chusai/chusai.html


国際仲裁のメリットは、以下の通りです。

・当事者(企業)が判断権者である仲裁人を、専門知識を持った中立な仲裁人を選ぶことが選定できる。紛争の特性に応じて専門的な知見を有する者を判断権者にすることで,質の高い判断を得ることが可能となる。


・一審限りで手続を終了するのが通常であり,審問の期日を連続的・集中的に設定することができる。


・手続や言語を当事者が自由に選択できる。


・審問が原則非公開で企業秘密が守られる。


・仲裁判断に基づく外国での強制執行が容易となる。など


国際仲裁を利用するためには,当事者間の合意(仲裁合意)が必要であり,「仲裁条項」として契約書に規定される必要があります。


国内のベンチャーや中小企業の中には、海外企業と契約するときにこの仲裁条項を明示化せず、一般的な訴訟での紛争解決を選んである契約書に署名する場合があります。


これは、主に海外企業から提示された契約書原稿を明確に理解しないまま、相手先を信用して署名する場合に数多く見受けられます。


国内のベンチャーや中小企業が、海外企業と契約を締結する場合、当該契約書の内容を詳細に吟味検討して署名することは極めて重要であり必要なことです。


一般的な事例として、仲裁条項は以下のようになります。

「第xx条 仲裁

 本契約またはその違反に起因して、または関連して、両当事者の間に生じるすべての紛争、論争、または相違は、日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従い、日本国東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。

 仲裁人が下した裁定は最終的なものであり、両当事者を拘束するものとする。


第yy条 準拠法

 本契約は、すべての点において日本法に準拠し、日本法に基づいて解釈されるものとする。」


上記事例では、日本の商事仲裁協会の利用と準拠法として日本法を出しています。


多くの海外企業と交渉した結果、残念ながら上記条件に同意した相手先は極めてまれです。


このような場合、他の商事仲裁協会を選ぶことになります。仲裁機関は、日本商事仲裁協会、アメリカ仲裁協会、ロンドン国際仲裁裁判所、国際商業会議所国際仲裁裁判所、シンガポール国際仲裁センター、香港国際仲裁センターがあります。


どの仲裁機関を選ぶかは、相手先との力関係や交渉力で決まります。私の場合、海外企業が欧米に拠点を置いている場合、ロンドン国際仲裁裁判所を選ぶケースが多いです。これは、今までの利用実績やり用意した企業の情報などを参考にしていることによります。


アセアン、中近東など他地域に拠点を置く海外企業の場合、迷わずにシンガポール国際仲裁センターを選んでいます。


シンガポール国際仲裁センターでは、多くの手続きを電子化しており、オンラインでの会話や交渉できるので、使い勝手が良い仲裁機関です。


私の場合、最近では欧米企業であっても、シンガポール国際仲裁センターを仲裁機関に選んで、契約書の仲裁条項に入れるよう相手企業と交渉します。


仲裁手続きが、対面ではなくオンラインで行えるのは、新型コロナウイルスの影響拡大に関係なく大きなメリットです。


国内企業にとっては、日本商事仲裁協会が使えれば良いのですが、なかなか相手企業が同意しませんので、当面の間諦めています。


海外企業と契約する場合、紛争解決のやり方は、仲裁条項を契約書の中に明示化して書くことが基本の基本になります。


「クレームなどの紛争解決のための仲裁に関する説明」は、下記JETROのWebサイトが参考になります。

https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000918.html


よろしくお願いいたします。


グローバルビジネスマッチングアドバイザー GBM&A 山本 雅暁




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