「日本人は家に帰りたい気持ちが低い」という話で思い当たったこと
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長時間労働や残業削減に関する様々な対策は、多くの企業で試行錯誤を重ねながら進められています。
裁量労働制やフレックスタイム制、早朝出勤に定時消灯、残業の事前申告やノー残業デー、さらにはリモートワークなど様々なものがありますが、その効果が十分に発揮されているとまではいえない会社の方が多いでしょう。
少し前に読んだあるビジネス誌の記事に「日本人の残業、元凶は『家に帰りたくない』人たち」というものがありました。
そこには、日本企業で残業が減らない背景として、諸外国にはない二つの事情があり、一つは「残業時間と昇進確率が比例していること」、もう一つは「“家に帰ってもろくなことがない”と思っている人たちがいること」だそうです。
一つ目の「昇進」については、評価方法に関することなので、対処することはできそうですが、二つ目の「家に帰りたくない」は、記事の中でも「日本人は総じて“家に帰りたい気持ち”が低いように思われ、会社が仕事量を減らしたり業務効率化を進めたりしても、それだけでは残業削減が進まない」とあり、簡単には解決できそうにない問題です。
私も今までの経験の中で、これに思い当たることがいくつかありました。
一つは、当時40代後半から50代の先輩男性たちが、「家に帰りたくない」と真顔で言い合っていた姿です。みんな口を揃えて「奥さんが怖い」と言い、「怒らせると食事を作ってもらえなくなるから困る」のだそうです。自分で料理ができない人にとっては切実な問題なのかもしれません。
家にいても用事を言いつけられて面倒だし、共通の話題もそれほどないし、何となく居心地が悪いそうです。会社にいる方がよほど気楽だと言っていました。
もう一つは、まだ今ほど在宅勤務が一般的ではなかった頃、それに関するセミナーをやった時のことです。参加者に「在宅勤務をやってみたいか?」と尋ねると、半分近くの人が「やりたくない」と言います。そのすべてが男性です。
理由を聞くと、「家では落ち着いて仕事ができない」「公私のけじめがつかない」「他の社員とのコミュニケーションがとりづらい」「顔を合わせて仕事をしないと効率が悪い」など、仕事のやりづらさという一般的なこととともに、「“会社に出勤する”という最も正当な外出理由を奪われたくない」というものがありました。「会社に行く」「仕事だ」といえば、自分の行動を説明する必要がなく、一番詮索されずに済む理由だということでした。
最近は家族との時間を大切にし、家事や育児に積極的にかかわろうとする男性が増えてきています。共稼ぎの家庭が増えているという事情もあるでしょう。
ただその一方で、「家の居心地が悪い」「家に帰りたくない」と考える人が、今でも一定数いることは確かなようです。どちらかというと、子供の独立などで家族関係が変化する40代後半以上の世代の方が、こんな気持ちになりがちなように思われます。
記事では「帰ってもろくなことがない」と残業する社員を自主的に帰宅させるには、「残業する方がもっとろくなことがないようにするしかない」とありました。
ある会社では、残業の事前申請と事後の説明レポート提出を義務づけ、初めは過剰なくらい徹底的にレポートを添削して、何度も書き直しをさせたそうです。社員からは非難ごうごうだったそうですが、「こんな面倒な思いをするなら」と、必死で定時内に仕事を終わらせようと、仕事のしかたが徐々に変わっていったそうです。
いずれにしても長時間労働や残業削減というテーマは、一筋縄ではいかない難しい取り組みであることは確かなようです。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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