もう数年前になりますが、ある会社の社内懇親会に参加したときのことです。私はそこまで深いお付き合いの会社ではありませんでしたが、少しだけ仕事上のつながりがあり、その時の担当者から招待して頂きました。私以外にも取引先の方など、社外の人が数名いらっしゃいました。
参加者は50~60名くらいの宴会で、会長、社長、専務に事業部長が2名の、計5名がメインテーブルに座っていて、この人たちが経営陣の中心のようでした。
少し違和感があったのは、その5名に若手社員が一人ずつ、お世話係のように付き添っていることでした。社内の宴会でそこまでする必要はないように思いますが、たぶん今までもそういうしきたりがあって、そのまま流れてきたのでしょう。
役員の方々は、特に威張っている訳でも傲慢な訳でもありませんが、周りが世話を焼いてくれるので、いろいろ用事を頼んでいて、気遣ってもらっているのでリラックスできるのか、それなりにご機嫌の様子です。
ただ、この役員の方々と他の社員たちの様子を見ていると、その間にはどうも壁があるように見えます。社員は自分から挨拶に来て会話を交わしていきますが、世間話で長続きするような話ではありません。一度話せば義務は果たしたという感じで離れていき、もう二度と近寄ってきません。
上席者に対するこの手の気配りや気遣いというのは、当事者が強制しているようなことはあまりなく、周りの誰かが気を回したところから始まっていることがほとんどです。それがいつの間にか社内のしきたりになっていたりします。
ただ、こういう特別な気配りや気遣いは、その度合いが大きければ大きいほど、一般社員との間に心理的な壁を作ります。本人たちは威張ってもいないし普通にしているだけなのに、社員との心の距離は広がっていきます。
これを解決する方法はとても簡単で、経営陣や役職者、上席者の側から「過度な気遣いは不要」「もう止めてもいいよ」と宣言するだけのことです。ただしこういう気遣いを受けている側は、壁ができていることや距離が広がっていることを自覚するのは意外に難しく、この解決策が実行されることは少ないです。
これは別の会社の例ですが、社内の宴会では社員の日ごろの働きをねぎらいたいということで、社長と役員数人は、必ずバーカウンターに入って社員に飲み物のサービスをするところがありました。そもそもは、みんなが集まってくるバーカウンターにいれば、いろいろな社員と話せるだろうという社長の考えが発端だったようです。
もともと上下の壁はあまりない会社でしたが、社長自らが社員のお世話をすることで、さらに壁は低くなって会話しやすい雰囲気が生まれていました。
組織の中で、上下のケジメは確かに必要ですが、フラットな上下関係の中で育ってきた世代が増えてきている中では、それが行き過ぎるとデメリットが大きくなります。
また、上下の間に壁があったり、社員との距離が広がっていたりする原因は、必ずしも本人の行動によることだけではありません。そのせいで実態が自覚しづらいこともあります。
それでもこういう場合は、上の立場の者が自分で気づいてアクションしなければ、なかなか解決はできません。
社長、役員、管理職などの立場にいる人は、今一度「自分が祭り上げられていないか」「チヤホヤされ過ぎていないか」を気にしてみる必要があります。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
組織が持っているムードは、社風、一体感など感覚的に表現されますが、その全ては人の気持ちに関わる事で、業績を左右する経営課題といえます。この視点から貴社の制度、採用、育成など人事の課題解決を専門的に支援し、強い組織作りと業績向上に貢献します。
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