「栄転」と「左遷」を区別する意味はあるか
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知り合いが、ある会社の中核と言われる営業所の所長になりました。全国にたくさんの営業所があって、その数と同じだけの営業所長がいるはずですが、その中にもいろいろな格付けがあり、結構格が高い営業所長のようです。
周りからは「おめでとう」「ご栄転ですね」などとお祝いの言葉を掛けられ、本人もうれしそうにしています。誰が見ても出世なのでしょうし、本人もそういう希望があったのでしょう。
これに対して、俗に「左遷」と言われるような異動もあります。明らかに給料が下がったり、肩書が下がったり無くなったりする降格のようなものであれば、本人が望んでいるはずはありませんし、誰が見ても左遷なのでしょう。
それ以外、例えば「地方に飛ばされた」などという言い方で左遷のような表現をすることがあります。しかし、勤務場所が地方に変わっても、営業所長であることに変わりはありません。そこには、大きな営業所が上で小さい方が下だとか、業績の良いところが上で悪いところは下だとか、他にも部下の数が多い少ない、予算の大小など、いろいろなことで上とか下とかを言い出す格付けの話が関連しています。
そういうことを言いだすと、例えば大きい営業所で業績が良くないところと、小さい営業所で業績が良いところと、いったいどちらが上なのかといった話が出てきてしまいます。さらに有名企業の課長が中小企業の社長になったら、部下20人の営業課長が部下5人の総務部長になったら、それが「栄転」なのか「左遷」なのか、何に注目するかでとらえ方は変わってきます。
その異動が「栄転」か「左遷」かというのは、本人や周りの人たちはわりとはっきり区別しているように見えますが、その基準は結構あいまいなものです。一見すると合理的に切り分けているように見えて、実際には人間の主観によるところが大きいでしょう。
そう考えると、「栄転」はプラス方向のとらえ方なので、良いエネルギーにつながっていくと思いますが、「左遷」というマイナス方向のとらえ方をして、それを理由にやる気を失っているとしたら、それはかなりもったいないことのように思います。
ある書籍には、「左遷」と思っていることの8割は勘違いだという記述がありました。人事異動の理由をきちんと説明していないことが問題で、特に日本の企業には、あえてそういうことを言わない慣行があるそうです。そういえば、政治家が左遷と言われている官僚人事について質問され、「人事に関わることは答えない」と言っていましたが、これと同じような話でしょう。
もし、「左遷」と思うのは主観によるところが大きいとすれば、本人の気持ち次第でそのとらえ方は大きく変えられることになります。
そこから考えれば、本人が勝手に「左遷」と思い込まないこと、会社も異動の前向きな意図を伝えて「左遷」と思われないようにすれば、異動の際の本人の気持ちを、かなりの頻度で前向きにすることができるはずです。
そもそも「栄転」や「左遷」といって、異動を二択で区別しようとすること自体が実はナンセンスです。やる気をなくして損をするのは結局は自分自身です。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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