コンピュータ・ソフトウェア関連発明の成立性(第11回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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コンピュータ・ソフトウェア関連発明の成立性(第11回)

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コンピュータ・ソフトウェア関連発明の成立性
 〜精神活動が含まれる歯科治療システムの発明〜(第11回) 
河野特許事務所 2009年2月27日
執筆者:弁理士  河野 登夫

(3)「審査基準」の
 第II部第1 章 産業上利用することができる発明における
 2.特許要件 2.1 対象となる発明
においては
 (1) 特許要件に関する審査の対象となる発明は,「請求項に係る発明」である。
 (2) 請求項に係る発明の認定は請求項の記載に基づいて行う。この場合においては,特許請求の範囲以外の明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載された発明を特定するための事項(用語)の意義を解釈する。
 と規定している。(なお,このように発明の成立性を請求項の記載に基づいて判断するのは米国及びEPO においても同様である。)
 而して本願発明1 について判決では,「判定する手段」,「策定する手段」には,人による行為,精神活動が含まれると解することができる,と認定しており,「発明特定事項」の発明の自然法則の利用性に関する意義は解釈されている,と認められる。そうであるとすれば,「審査基準」に則ってこの認定に従い,自然法則を利用していない要素を含むことを理由に,審決を維持する,との判断を下すことができたはずである。それにも拘わらず,これだけの理由では特許対象から排除されるものではないから,本願発明1 の本質について検討する,としたのである。
 「審査基準」の
 2.1 対象となる発明 (2)
から引用掲記したように,自然法則の利用性に関する発明の認定に際して,明細書,及び図面の記載を考慮して発明特定事項の意義が解釈される,としている。(これは特許法70 条2 項において特許発明の技術的範囲を定めるに際して,明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する,と規定しているのに符合する,と思われる。)しかしながら,本判決では「発明の本質」の検討のために明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌した。「発明の本質」の意義は判決からは明らかではないが,明細書の発明の詳細な説明を検討した結果として発明を総括したところは,「以上によれば請求項1 に規定された「要求される歯科修復を判定する手段」及び「前記歯科修復の歯科補綴材のプレパラートのデザイン規準を含む初期治療計画を策定する手段」には,人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となるものと考えられるものの,明細書に記載された発明の目的や発明の詳細な説明に照らすと,本願発明1 は,精神活動それ自体に向けられたものとはいい難く,全体としてみると,むしろ「データベースを備えるネットワークサーバ」,「通信ネットワーク」,「歯科治療室に設置されたコンピュータ」及び「画像表示と処理ができる装置」とを備え,コンピュータに基づいて機能する,歯科治療を支援するための技術的手段を提供するものと理解することができる。」,というにあり,この総括の結果「したがって,本願発明1 は「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たるものということができ,本願発明1 が特許法2 条1 項で定義される「発明」に該当しないとした審決の判断は是認することができない。」という結論を導いている。
 しかしながら判決における上述の総括は,本願発明1 の請求項の記載を追認しただけのものでしかない。「コンピータなどのハードウェア資源を備え,コンピュータに基づいて機能する技術的手段であり,精神活動それ自体に向けられたものであるとは言い難い発明」であったとしても,発明特定事項に,「人の行為により実現される要素が含まれ,また,本願発明1 を実施するためには,評価,判断等の精神活動も必要となる」ような物の発明(本願発明1)が,「全体としてみれば」自然法則を利用している,と判断できる根拠,または判断した根拠は判決には全く示されていないのである。

(第12回に続く)