ある有名企業の経営者が、「社内異動なんかしている余裕はない」と言っている記事を目にしました。
世間に通用するような、一定の専門スキルを身につけようとすれば、関連性のない社内業務をローテーションしているようなことは、社会人人生の限られた時間の中では、そんな余裕はないという意味のようです。
私自身、この話については、確かに一理あるとは思いつつ、社内異動には、当然メリットもあります。
話に出てきた「専門性が積めない」ということは確かにデメリットですが、その一方、社内異動によって異なる業務経験を積むことができる、視野や人脈が広がるなど、一般的に言われるメリットがあります。また、異動で同じ人が長く同じ部署に留まらないということは、癒着や不正が起こりやすい土壌につながるということもあります。
結局、これら社内異動によるメリットとデメリットのバランスを考えて、効果的に活用していくことが大事ですが、別々の大企業に所属している人たちから聞いた話で、少し気になったことがあります。
それは、もともとは優秀な素養を持っているはずの人たちが、自分がやりたい仕事の希望や、将来の展望について尋ねても、それらに対して何のイメージも持っていなかったことです。
会社から言われる異動や職種転換については、「とにかく精一杯忠実に、出来る限り応えていきたいと考えている」と言っていました。
愛社精神が旺盛、従順、現状に肯定的などということはできますが、その反面、自分のキャリアを100%会社に委ねているといえます。自分の身の上は会社が決めるのが当然と思っていて、そのことに対する疑いは持っていません。
もちろん、自分のキャリアについて自分なりの危機感を持ち、異動に関する希望を出したり、自分なりに何かを学んだりという人もいますが、どうも会社に在籍し続けることが最優先で、自分の職種へのこだわりや専門性へのこだわりは、比較的薄いという人が多いように感じます。会社が存在し続けることは当たり前の意識です。
私は、年功序列も終身雇用も、その会社の企業文化に応じた使い分けだと考えているので、一方的に否定することはありませんが、このように、自分のキャリアへのこだわりが希薄なのは、「今の会社にずっといる、いられる」と思い込んでいる年功序列や終身雇用の弊害と思っています。
ただ、会社が存続し続けるからといって、自分の雇用も安定しているとは限りません。
専門性にはいろいろあり、現場技術や業務スキルの専門性は比較的意識されているところですが、経営知識、マネジメント、リーダーシップといったマネジメント面の専門性は、本当の意味で身に付いている人は、残念ながら少ない気がします。社内価値に意識が偏っていて、社外に出た途端に通用しなくなる人がほとんどだからです。
社内異動に関して、実際に辞令が出れば、基本的にはそれに従うしかありません。
ただ、そんな中でも、自分の専門性は何なのか、自分のスキルや経験は他へ行っても通用するのか、そもそも自分のやりたいことは何なのかなど、自分自身のキャリアを常に意識しておくことは必要です。
どんな組織に属していても、自分のキャリアを人まかせにすることだけは、絶対にするべきではありません。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
組織に合ったモチベーション対策と現場力は、業績向上の鍵です。
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