人を育てる上で、「褒めることが大事」という意識は、一般常識としてずいぶん定着してきました。それと同時に、実際に褒めることの難しさを訴える人も増えています。
企業で人材育成にたずさわる人たちや、リーダークラスの人たちが良く言うのは、「褒めることが大事なのはわかるが、それが逆効果になることもあるのではないか」ということです。“褒めて育てる”が強調されるあまり、「ただむやみに褒めることで良いのか」という疑問です。
真偽のほどはわかりませんが、「私を褒めて育てて下さい」と発言した新入社員がいたという話もあります。もし実際にそんなことがあったとしたら、「褒めるばかりで良いのか」と考えてしまうのは当然でしょう。
そんな悩みへのヒントになる話が、以前放送されたあるテレビ番組にありました。
「奇跡のレッスン」というNHKの番組で、その当時フットサル日本代表の監督だったミゲル・ロドリゴ氏が、ある少年サッカーチームの指導をしていた中での言葉です。
ロドリゴ氏は「どこまで褒めればよいのか?」という問いに対して、
「ルールと規律を持って接すること、褒めるタイミングとバランスが大切であり、褒めすぎても効果はあまりない」
「褒められることが当たり前になると、子供は天狗になりがちなので、そんな様子が見えて性格に変化が現れてきたら、目標を達成したところで褒めることを止める」
「全ての子供は皆、能力も性格も違っているので、それぞれに目を配る事が大切である」
「勇気ある決断をしたらしっかり褒め、それによって子供はまた勇気ある決断をしようとする」
「幼い頃は自信をつけさせるために、とにかく褒めることを優先するが、11~12歳では次の段階として、間違った判断をした時には失敗の責任も問うようにする」
「それを繰り返すことで、自らがリスクを負って決断すべき場所が理解できるようになっていく」
という話をしていました。
「良い判断を褒めることと、失敗の責任を問うことで、たくさん頭を使わせ、判断力を磨く練習を続けて欲しい」というメッセージがありました。
これらは、企業の人材育成を行う上でも、多くのことが共通しているように思います。
特に「褒めることと責任を問うことのバランス」「すべての人に目を配る」ということは、実際にはなかなかできていないのではないでしょうか。
企業の人材育成でよく見かけるのは、「ミスや欠点の指摘」「すべての人への画一的な指導」という場面です。これは学校教育の段階から共通しているのかもしれません。
「ミスや欠点の指摘」では、それによって必然的に褒める頻度は減り、そのために判断力を磨くことができず、その結果、自分では決められずに何でも指示を求めるようになってしまいます。
「すべての人への画一的な指導」では、能力の高い人はそれを伸ばせず、逆にそれが苦手な人はついて行くことが難しくなります。ある人では才能の芽を摘み、またある人では、苦手意識を植え付けることになってしまいます。
こういった課題への取り組みは、すでに始めている企業はまだまだ少数派で、なおかつ確信をもって進めているというよりは、いろいろ試行錯誤をしている様子が見られます。
企業の人材育成とサッカーの指導は、取り組む対象や内容は違っても、経験豊富な指導者の言葉からは、何か共通点があるように思います。
褒めるばかりではダメなことは間違いありませんが、「良いタイミングでしっかり褒める」ということは、あまりできていないのではないでしょうか。
そうだとすれば、褒めることに疑問を持つよりも、「意識的に褒める」ということが、まだまだ必要な段階ではないかと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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