「予定されていないものこそ“未来”である」という話
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何年か前のことですが、東京大学名誉教授で、「バカの壁」の著者として知られる養老 孟司さんの講演を聴く機会があり、そのお話からです。
養老氏は、初めに「過去」「現在」「未来」の、それぞれの定義ということからお話されました。
ここでは、「現在」を単純に“今”としてしまうと、「現在」はほんの一瞬なので、すぐに「過去」となって流れてしまって実質的でなく、本来言っている「現在」とは「手帳に書けるもの」、すなわちすでに予定されているものということで、先のことでもそれに向けて物事が動き出しているというのは「現在」であるというようなお話でした。
その時は、例えば東京オリンピックはまだ先のことだが「現在」であると言っていましたが、オリンピックはもう1年後なので、今でいえばリニア開業などが、先のことだがすでに予定された「現在」にあたるのでしょう。
さらに、最近よく子供たちの「未来」がない、「未来」が暗いなどと言われるが、それは何でもレールを敷き、見通しを立て、計画しようとするせいで、予定されていないからこそ存在する「未来」を、大人たちが「現在」に変えてしまっているのだと言っていました。
一昔前までは大人になる前に死んでしまう子供たちがたくさんおり、先がどうなるかわからなかったがゆえに、子供たちの先の予定を立てる事をあまりせず、おかげで「未来」がたくさんあったのだということでした。
何でも予定されていることが安心で良いことのようになっているが、人の死や病気など、絶対に予定できないことは確実にあり、本来の人間らしく生きるためには、予定されている「現在」と、予定されていない「未来」のバランスが取れていることが必要で、特にビジネスの世界では、何でも計画をして見通しを立てようとするが、そうやってわかったことばかりやろうとするのは、自分たちの「未来」をなくしているのだということでした。
この話で印象的だったのは、「自分たちで“未来”をなくしている」というところです。確かに計画として予定されている範疇では、新しいものは生まれてこないでしょうし、不確定だからこそ、それが夢や希望であるともいえます。
これはビジネスでも同様で、何でも計画的に、見通しを立てて行うことばかりが良いことのように言われますが、「予定されていないからこその“未来”」を狭めているともいえます。
「未来」に抱く夢や希望、ワクワク感、どうなるかわからないという良い意味での楽しみがなくなっているということです。
予定する、計画するということは大事ですが、未確定で見通しがない、「予定されていないからこその“未来”」を少しでも持っていることは、人として必要なことではないでしょうか。
「わからないから心配」ばかりでなく、「わからないから楽しみ」という考え方が、もっとあっても良いと思います。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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