年金関係課税事件(2・特約年金二重課税高裁判決) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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年金関係課税事件(2・特約年金二重課税高裁判決)

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発表 実務に役立つ判例紹介
昨日は、納税者勝訴の地裁判決を紹介したが、
高裁では一転して逆転敗訴でした。
高裁判決を検討してみよう。

1.控訴人の主張
(1)所得税法9条1項15号は、「相続により取得するもの」
については、所得税を課さない趣旨を規定している。
そして、相続税法3条1項は、同項各号に掲げる場合において、
当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は
遺贈により取得したものとみなす旨規定しているから、
所得税法9条1項15号にいう「相続により取得したものと
みなされるもの」とは、相続税法3条1項所定のみなし相続財産
を指していることは明らかである。
相続税法3条1項1号の立法趣旨は、実質的に相続又は遺贈
による財産の取得と同視すべきものを相続税の対象とする
ものであるところ、同号にいう「保険金」は、金銭そのもの
ではなく、相続開始時において存在する保険金請求権を
意味するものである。そして、被相続人の死亡により、
生命保険契約に基づき、相続人その他の者が年金受給権等を
取得した場合においては、その相続開始時に存在するのは、
基本権としての年金受給権等のみであって、基本権に
基づいて発生する支分権としての受給権は未だ発生していない。
そうすると、その後に発生する支分権及びその行使として
給付される個々の年金等それ自体は同号にいう「保険金」に該当しない。

(2)所得税法9条1項15号の趣旨は、相続税法の規定により
相続税又は贈与税の課税対象となる財産の取得に対し、
相続税又は贈与税と所得税の二重課税が生じることを排除
するため、当該財産の取得に係る所得には所得税を課さない
ようにする点にあるものと解される。同号の規定は、
その名文で規定する範囲を超えて、「実質的・経済的」な
二重課税なるものを排除することを目的として、相続税又は
贈与税の対象となる財産とは法的に異なる財産の取得に
対しても所得税を課することを禁止する趣旨ではない。

(3)所得税法9条1項15号の立法に際しても、生命保険契約に
基づく死亡保険金として支払われる年金は、所得税の課税対象
となると解されていた。現行法は、税制調査会の昭和38年
12月6日付「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」を
踏まえて立法された法律であるところ、同答申は、被相続人が
掛金を負担した年金契約に基づく年金受給権は、相続財産として
時価により評価し、相続税の課税が行われ、さらに相続人が
その年金受給権に基づき支払を受けるときは、その年金から
被相続人が負担した掛金を控除した残額に対して所得税が
課税されることになっていることについて、所得税と相続税とは
別個の体系の税目であることから、両者間の二重課税の問題は
理論的にはないものと考えるとしており、これによれば、
当時、既に、旧所得税法上、生命保険契約に基づく死亡保険金
として支払われる年金に対し所得税が課税されるという解釈が
定着しており、現行の所得税法が定められたといえる。

2.被控訴人の主張
(1)基本権と支分権とは、民法上は別個の債権ではあるが、
2個の財産的価値が存在するのではなく、一対として基本的価値を
実現させる債権である。したがって、確かに、受給権(基本権)を
取得する権利・所得と支分権に基づく年金の所得は、形式的・
表面的には別異と認識できるが、2個の財産的価値があるとは
到底考えられない。このような場合は、租税原則及び法の趣旨に
則り、たとえ形式的には別異の権利・所得に該当するとしても、
実質的・経済的には同一の資産に関して二重に課税することは
明らかであり、所得税法9条1項15号の趣旨により許されない。

3.裁判所の判断
(1)相続税法3条1項柱書は、同項各号のいずれかに該当する場合に
おいては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続
又は遺贈により取得したものとみなす旨を規定し、同項1号は、
被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保険金を取得した
場合においては、当該保険金受取人について、当該保険金のうち
被相続人が負担した保険料の金額の当該契約に係る割合に相当する
部分を掲げている。その趣旨は、被相続人が自己を保険契約者
及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人
と指定して締結した生命保険契約に基づく死亡保険金請求権は、
その保険金受取人が自ら固有の権利として取得するものであり、
被相続人の相続財産に属するものではないが、相続財産と
実質を同じくするものであり、被相続人の死亡を起因として
生ずるため、公平の見地から、これを相続財産とみなして
相続税の対象としたものと解される。

所得税法9条1項15号は、相続、遺贈又は個人からの贈与により
取得するものについては、所得税を課さない旨を規定している。
その趣旨は、相続、遺贈又は個人からの贈与により財産を取得した
場合には、相続税法の規定により相続税又は贈与税が課される
ことになるので、二重課税が生じることを排除するため、
所得税を課さないこととしたものと解される。
この規定における相続により取得したものとみなされるものとは、
相続税法3条1項の規定により相続したものとみなされる財産を
意味することは明らかである。そして、その趣旨に照らすと、
所得税法9条1項15号が、相続ないし相続により取得したもの
とみなされる財産に基づいて、被相続人の死亡後に相続人に
実現する所得に対する課税を許さないとの趣旨を含むものと
解することはできない。

(2)本件年金受給権は、乙を契約者及び被保険者とし、
被控訴人を保険金受取人とする生命保険契約に基づくものであり、
その保険料は保険事故が発生するまで乙が払い込んだものであって、
年金の形で受け取る権利であるが、乙の相続財産と実質を同じくし、
乙の死亡を基因として生じたものであるから、相続税法3条1項1号
に規定する「保険金」に該当すると解される。そうすると、
その取得は相続税の課税対象となる。

被控訴人は、将来の特約年金の総額に代えて一時金を受け取る
のではなく、年金により支払を受けることを選択し、特約年金の
最初の支払として本件年金を受け取ったものである。本件年金は、
10年間、本件年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて、
被控訴人が受け取った最初の現金である。
そうすると、本件年金は、本件年金受給権とは法的に異なるもの
であり、乙の死亡後に支分権に基づいて発生したものであるから、
相続税法3条1項1号に規定する「保険金」に該当せず、
所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しないと解される。

(4)本件年金受給権と個々の年金の取得とは、別個の側面がある。

まず、後者についてみると、被控訴人は、本件保険契約において、
将来の特約年金を受け取るものであるが、これは、被控訴人が
自ら年金契約等の定期金給付契約を締結して自ら掛金を負担し、
年毎に年金等の定期金を受け取る場合と異なるところはなく、
いずれにしても所得があるのである。そうすると、両者を
区別することはできず、これらの所得は所得税の対象となる。

前者についてみると、被控訴人は、本件保険契約において、
自ら保険料を支払ったものではないのに、乙の死亡により、
本件年金受給権を取得したのであるから、これは、前者とは別個に、
相続税の対象となる。このように考えると、本件年金受給権の
取得に相続税を課し、個々の年金の取得に所得税を課することを、
二重に課税するものということはできない。