田中弘「時価会計不況」(新潮新書2003) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

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田中弘「時価会計不況」(新潮新書2003)

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雑感 書評
今日は、昨日ちらっと紹介した、
田中弘「時価会計不況」(新潮新書2003)
を紹介したいと思います。

5年前に出版された新書ですが、今読み返してみると、
田中先生の危惧が、現実化されていることに気付かされます。

田中先生は、本書19ページで

「なぜ、規制緩和の時代に、会計だけが規制を強化されるのでしょうか。
それを理解するためには、金融ビッグバンのもう1つの柱である
「自己責任の原則」とはいったい何なのかを考えなければなりません。」

と問題提起した上で、22ページにおいて、

「東京都をはじめとする多くの都市では、条例によって犬の放し飼いは
禁止されています。散歩のときには、綱でつながなければなりませんし、
庭で飼うときも鎖でつないだり檻に入れたりしなければなりません。
これが犬を飼うときの「規制」です。「規制緩和」とは、飼い主に、
犬を放し飼いにする自由を与えることです。
 一方、「自己責任の原則」とは、「犬が放し飼いにされていますから
気をつけて下さい。もし噛まれたら、あなたが悪いのですよ。
自己責任ですから」ということを指します。「自由」を与えられた人と、
「責任」を課せられた人が、まったく別人なのです。人を噛むような
猛犬を放し飼いにする方が悪いはずなのに、噛まれた方が悪いなんて、
理不尽な話だと思いませんか。「規制緩和」と「自己責任の原則」は、
常識的に考えれば、成り立たない概念なのです。」

と指摘しています。

そして、これが会計ビッグバンに対しては、

「規制緩和の恩恵を受ける企業や金融機関に対し、「規制強化された
会計基準」に則った財務諸表の作成を義務付けた上で、財務状況や
商品の性能・性質などを正直にすべて「ディスクローズすることを
徹底」させるのです。それらの条件がそろって初めて、消費者・
契約者・預金者の「自己責任」を問えるようになるという考え方です。
 本来は成立しないはずの「規制緩和される側」(企業)と
「自己責任を求められる側」(投資家・契約者・消費者)の利益を
ともに成立させる命綱が、厳格な会計制度です。」(23ページ)

と言い換えるわけです。

この図式は、昨日のサミットでも問題視された
「指針」の厳格化の理由として説明できることになります。

また、時価会計の本質について、34ページで

「時価会計とは、持っている有価証券などを「期末に売っていたら」
ということを前提にして、財産と利益を計算することです。それも、
「期末時点の時価で売った」ことにして計算します。
 証券市場の知識が少しでもあるとわかることですが、市場で
成立した価格(期末の時価もそうです)というのは、遅れていった
バーゲンセールの特価みたいなものです。そのときに市場に参加
していなければ利益も特価も自分のものにできません。
 日常では、こうした「手にしていない利益」(株の含み益)を
「捕らぬ狸の皮算用」といいますが、時価会計では「狸を
捕ったことにして」皮算用するのです。」

と指摘している。

まさにこの点が重要で、アメリカ型の投資情報中心の時価主義会計は
株価という会社の価値(商品開発力や社員のモラルハザードは全部無視)
だけを重視して、全てを現在の金銭的価値で捉えようとするものでした。
ホリエモンの「金で買えないものはない」といった嘯いた態度も
このような価値判断から来ていたものでしょう。彼は、株価上昇のために
粉飾をしてでも株価を高めようとして、失敗したわけです。

また、本書の第3章のタイトルは

「株は時価で売れる」という妄想

今となっては至言としか言いようがありませんね。
アメリカの金融不安は、投資家が保有している株が、
時価で売れないかもしれないという不安が引き起こしたことと
いってもいいでしょう。
株が時価で売れないから売れる価格まで下がるわけです。

また、マネーゲームといわれて久しいですが、
本書の第4章のタイトルも

錬金術に毒されたアメリカ型資本主義

本書では、92ページから96ページにかけて
ワールドコムやエンロンの不正のトリックを紹介し、
98ページから102ページにかけて
V字回復のトリックを紹介しています。
数字のトリックを専門家を抱きこんで利用してしまえば、
会計上の利益は錬金術のように作り出せるものでもあるのです。

田中先生は、
「会計学者の一人として、自省の念をこめていいますが、
わが国の会計学は、その産物たる会計基準も、その基準の遵守を
生命線とする監査も、利益操作の抑止力としてはほとんど
機能してきませんでした。
 嫌われることを覚悟していえば、会計理論を担う学者も、
その理論を実践するはずの経営者も、理論や基準が遵守されて
いるかどうかを監査する会計士も、ネガティブにかポジティブにかの
差はあるでしょうが、何らかの形で、直接間接に利益操作に
加担してきたといってもよいかもしれません。」(129ページ)
と、実に耳の痛い指摘をしている。

会計数値というのは実にデリケートなもので、
価値判断を加え、選択可能な判断基準を、上手く利用することによって
いかようにも動かせてしまう代物です。
そのため、田中先生は、

「原価をベースとした会計情報には、その企業のよき経験も悪しき経験も
反映されますが、いまだ行われていないことや未決定のことは
反映されません。原価は、あくまでも、その企業に固有のデータであり、
その企業が経験したことの履歴です。したがって、原価によって
測定された収益力とかキャッシュフロー創出能力などは、
その特定の企業に固有の能力を示しているのです。」(131ページ)
「もちろん、「現在の実力はいかほどか」といった現在情報・時価情報が、
その企業の実力を知る上で役に立つことも否定できません。
しかし、それが、低下傾向にあるのか上昇傾向にあるのか、それとも、
フロック(まぐれ)なのかは、時価情報(現在の実力)だけでは
わからないのです。今日明日といった短期的なことは時価情報によって
知ることができますが、半年先、一年先、二年先といった中・長期的な
実力とか収益力を知るには、歴史情報・原価情報が必要なのです。」(133ページ)

と指摘するように、時価主義偏重の新会計基準に危惧を表明し、
取得原価主義への回帰を主張されていました。

猫も杓子も時価、の時代に、時価批判をされていた田中先生の
鋭い見識に感服する次第です。

私も法政大学時代、大下先生の下で時価会計を研究しておりましたが、
私の主張も、ダブルスタンダードとなったとしても、コンピュータ会計が
普及した現在では、時価会計と原価会計の2本立ての財務諸表を
作るべきではないか、というものでした。
今から思うと、あながち間違った方向性ではなかったかなと思っています。

田中先生は、最後に、時価会計がその時々の問題の解決のために
華々しく登場するも、失敗してきた歴史に触れ、ものさしである
会計基準がおかしくならないことを希望してきたのです。

アメリカ的時価偏重主義に破綻が見えた今だからこそ、
田中先生の指摘に今一度耳を傾けようではありませんか。

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