米国特許判例:複数人が特許を侵害した場合(第2回) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
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米国特許判例:複数人が特許を侵害した場合(第2回)

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米国特許判例紹介:複数人が特許を侵害した場合、誰が責任を負うか?(第2回) 
〜オークション特許と特許権侵害〜

       Muniauction, Inc.,
         Plaintiff-Appellee,
         v.
         Thomson Corp., et al.,
      Defendants-Appellants.

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年10月14日


4.CAFCの判断
「被告に成り代わって」基準の採用
 本事件の審理中に、この争点に関連する重要な判決がなされた。これが冒頭で述べたBMC事件である。以下にBMC事件の概要を説明する。

(1)BMC事件
 BMC事件で問題となった特許はU.S. Patent No. 5,715,298(以下、298特許)及び5,870,456(456特許)である。これらは暗証番号を入力することなく、金融決済を可能とするビジネスモデル特許である。

 298特許等のクレームの一部にも、金融決済を行うユーザの行為が構成要件に含まれていた。直接侵害が成立するためには、被告が方法クレームの全ての構成要件を実施していることが必要とされるのが原則である。

 その一方で、当該原則を貫くと、ある構成要件を、意図的に他の当事者に実施させることにより、直接侵害の責を逃れ得るという法の抜け穴が生じてしまう。CAFCは直接侵害に係る当該原則と、これに対する例外との法バランスを考慮した上で、被告及び当事者による共同実施に基づく直接侵害が成立するためには、
「被告が当事者に対し方法クレームの各ステップの実施に関し管理または指示」
 を行っていることが必要とされると判示した。

(2)本事件
 CAFCは、新たに”on behalf of defendant(被告に成り代わって)”の基準を持ち出し、直接侵害は成立しないと結論づけた。

 直接侵害が成立するか否かは、BMC事件で判示された如く、オークションの管理者である被告が、入札者に対し管理または指示を行っていたか否かを判断する必要がある。

 クレームの一部が入札者により実行されているということに関しては当事者間で争いはない。原告は、オークション運営者である被告がオークションシステムへのアクセスを制御しており、また、当該システムの使用に関し、被告は入札者を指導していたと主張し、BMC事件で判示された「管理または指示」の要件を満たすと述べた。

 しかしながら、CAFCはかかる被告の行為は直接侵害を構成しないと判断した。BMC事件における「管理または指示」は、被告自身がクレームの全てのステップを実行していたと言わしめるほど、第3者(本事件では入札者)を管理または指示していることが必要であると述べた。

 すなわち、被告に成り代わって、第3者が一部のステップを実行している場合にのみ直接侵害が成立すると判示した。


5.結論
 CAFCは、直接侵害が成立するとした地裁の判決を取り消した。


6.コメント
 BMC事件を解説した際にも述べたが、クレームの作成にあたり大変参考となる事件である。共にいえることは、
 クレームの構成要件はOne Partyが実行する要件のみを記載すべし
である。

 BMC事件で判示された「管理または指示」の適用要件は、厳格であることが本事件で明らかとなった。筆者はこの要件は厳格に過ぎるのではないかと考える。

 本事件においては、被告であるシステム管理者は、オークションシステム全般を運営・管理している。また、入札者に対するアクセス制限も行っている。その上、入札者に対し、入札の仕方等を指導していることから、被告は入札者を管理または指示している蓋然性が極めて高いと考えられる。

 それにもかかわらず、CAFCは第3者が被告に成り代わって一部のステップを実行した場合にのみ、当該第3者を「管理または指示」の要件を満たすと判示した。またCAFCはクレーム作成者が、クレーム作成の際に注意すればよいとまで述べている。

 この要件の下では、例えばA乃至Cステップからなるある物の製造方法について権利が付与されている際に、本来A乃至Cステップの全てを被告が実施すべきであるところ、被告の管理または指示下で、第3者がCステップを被告に成り代わって実行した場合にのみ直接侵害(米国特許法第271条(a))が成立するといえる。

 逆に本事件の如く被告の成り代わりとまで言えない場合、すなわち被告と第3者との役割分担が明確となっている場合は、たとえ被告が、第3者に侵害を手助けさせるべく管理・指示していたとしても侵害の責を負わないことになる。

 米国特許法第271条(b)(C)に規定する寄与侵害(間接侵害)の適用も考えられるが、米国では本事件の如く直接侵害が成立しない以上、寄与侵害は成立しない。

 本事件により生じる問題は、クレーム作成の際に注意することで回避することができる。例えば、「ユーザが情報を入力するステップ」をクレームに記載する代わりに、「サーバが情報を受け付けるステップ」とする等、サーバ側の視点に立ったクレームを記載する。こうして、第3者の行為をクレームから徹底的に排除する。また、方法クレームだけではなく、サーバ、すなわち装置クレームも第3者の行為を排除した上で作成することが必要であろう。

 なお、紙面の都合上割愛したが、099特許のクレーム1が、自明か否か(米国特許法第103条)も争点の一つとなった。KSR最高裁判決が引用され、クレーム1は自明であると判断された。IT関連発明において、組み合わせが自明か否かを議論した判決であり、自明性の面においても本事件は参考となる判決である。

判決 2008年7月14日                                以 上