税法における住所ってドコですか?(8ユニマット高裁) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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税法における住所ってドコですか?(8ユニマット高裁)

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発表 実務に役立つ判例紹介
前回は地裁判決について紹介いたしましたが、
今日は、高裁判決を紹介したいと思います。

ユニマット事件では、高裁への控訴後、国税側から新たな主張として
1.住所認定の判断基準日を本件譲渡期日である平成13年1月12日ではなく、
株券の引渡日である平成13年1月6日が収入すべき時期にあたる
2.被控訴人が国内に引き続き1年以上居所を有していたこと
の2点を主張してきました。
1は主張の変更であり、2は追加的予備的主張です。

高裁は以下に示した点以外は地裁判決を引用したいわゆる引用判決で、
国税側の主張を退けました。

(1)判断基準時について
本件株式譲渡契約によれば、本件株式の譲渡の実行日を平成13年
1月12日とし、同日に本件株式の引渡しと本件代金の支払を同時履行
することが約定され、本件代金の支払は同日に行われたところ、
本件株式については、同契約が締結された同月6日に交付されているが、
これは上記約定を前提として譲受人であるUグループの要請により
行われたもので、契約の履行に先立って株券が預託されたものと
解されるから、これによって、同契約に係る株式の譲渡が行われたものと
評価することはでき(略)ない。

(2)原告の職業について
控訴人は、本件特別顧問契約書及び投資顧問契約書が譲渡所得に対する
課税を回避する目的のために将来の税務調査に備えてシンガポールでの
業務の必要性を仮装するための資料として日付をさかのぼらせて作成
されたと主張するが、被控訴人は、(略)シンガポールにおける2000年度の
所得(略)を書面で確定させておく必要があり、また、新事務所に移転
した費用の分担等に関しても書面にしておく必要が生じたために、
同12年12月4日時点において存在した口頭の契約内容を確認するために
上記各契約書を作成した旨の被控訴人の主張は、不自然な点はなく、
合理的なもので、採用することができ、被控訴人が日付をバックデートさせた
ことを自ら述べていることに照らしても、上記各契約書が将来の税務調査
に備えてシンガポールでの業務の必要性を仮装するために作成されたものと
認めることはできず、控訴人の主張は採用することができない。

(3)資産の所在について
これら(平注:国内)の被控訴人所有名義の不動産は、いずれも被控訴人の
居住用資産ではなく、本件譲渡日前後において、ほとんど管理がされて
いないか、又は被控訴人の関連会社又は不動産管理会社に管理を委ねて
いたものと認められる。

(4)まとめ
以上の検討の結果からすると、本件譲渡日当時における被控訴人の
住居が国内になく、むしろシンガポールにあったものと認められること、
被控訴人の職業についても、シンガポールにおいて株式取引を開始した
時点でその生活の本拠がシンガポールに移転したものと見ることができること、
国内において生計を一にする被控訴人の家族又は親族は存在せず、かつ、
被控訴人が継続して居住するに適する場所を有していなかったこと、
国内に所在する資産についても、シンガポールに居住しながら管理することが
困難とまではいえないと認められることなどを総合的に考慮すると、
本件譲渡期日当時、被控訴人が国内に住所を有していたと認めることはできない。

(5)租税回避目的について
被控訴人が我が国における課税を回避するためにその住所をシンガポールに
移転させたものとうかがわれる余地もあり得るが、上記各契約書の日付を
さかのぼらせて作成したことについては、(略)課税回避の目的で作成した
ものとまでいうことはできず、また、シンガポールではなく、香港において
契約の締結、履行をしたこと自体は、我が国における課税回避の目的の
有無とは関係がないものである。

(6)被控訴人が国内に引き続いて1年以上居所を有していたかについて
「国内に引き続いて居所を有する期間」(略)について所得税基本通達
2-2(略)は、居住者の該当性についての判断要素として相当であると
認められる。そうすると、(略)その間に在外期間が含まれる場合には、
在外期間中も、国内に、それまで生計を共にしていた配偶者その他の親族
を有し、再入国後生活する予定の居住場所を保有し、又は生活用動産を
預託していて再入国後直ちに従前と同様の生活をすることができる状態
にあるなどして、一時的な出国であることが必要になると解される。

被控訴人は、本件譲渡日前1年間に、平成12年11月8日から同月13日
まで、同年12月4日から同月17日まで及び同月30日から同13年
1月3日までそれぞれシンガポールに滞在し、同月6日に香港に滞在していた
ところ、それ以外の期間のうち、従前の国内住所を転出した同12年
11月28日から本件譲渡日までの間には、いずれもIホテル又はNに
宿泊していたものである。
Nは、被控訴人が平成5年に入会金を払って入会し、その後毎年年会費を
支払ってスポーツクラブとして利用していた施設であり、施設の一部として
宿泊用の部屋があり、これを含む施設を会員及び会員紹介のゲストが
施設利用料を支払って使用できるようになっていたものであって、
宿泊施設としての年間契約等は存在しないものであり、その宿泊は、
一般のホテルの宿泊と同様のものと解される。そうすると、被控訴人が、
Iホテル又はNに一定期間継続して宿泊している場合に、同所をもって
居所と認める余地はあるが、被控訴人がシンガポール等へ出国した在外期間中
においてIホテル又はNを居住場所として保有していたということはできない。

また、被控訴人は、国内に複数の不動産を有しており、また、その
経営する会社の事務所を賃借するなどしていたが、いずれも再入国後
生活する予定の居住場所ということはできないし、国内に配偶者その他
生計を一にする親族もいなかったものである。さらに、被控訴人は、
上記在外期間中に、帰国した際に使用する自動車を保有し、これを
成田空港駐車場に駐車させていたが、これをもって、上記通達にいう
生活用動産を預託していたということもできない。


高裁は、以上のように判断して、地裁判決を支持して、
国税側の主張を退けたのである。

内容をよく吟味してみると、武富士事件との相違が際立ってこよう。
武富士事件では、国内に生活用動産が残存しており、生計同一親族
とはいえないかもしれないが、少なくとも帰国時には同居する親族が
国内に残存している。しかし、ユニマット事件は国内に生活用財産も
生計同一親族も存在せず、帰国中もホテル住まいである。
高裁が明確に通達の規定を用いて否定している通り、ユニマット事件は、
外国に居住する者の一時帰国であって、多少の財産があるとしても
生活用財産でない以上、国内に住所があるとはいえないのである。
まさに、生活の拠点の認定として正当な判断であろう。

そして、租税回避目的があったとしても、租税回避=否認という図式は
租税法律主義に反し、憲法違反ともいえる暴挙であるから、
租税回避目的が認識されうるケースであっても、課税の公平を根拠に
否認することは法治国家として許されないのである。
不公平な状態となっていたとしても、それは政治家の怠慢のためであって、
そんな政治家を当選させ続けてきた国民の責任ではないのだろうか。
租税回避を全面的に容認するつもりはないが、
それは少なくとも早期の立法が求められる話であって、
法の効果を否定する危険と比べれば仕方がないことあろう。