公的資金投入で落ち着きを取り戻すか
なんと言っても大きな話題は、意を決した公的資金の投入であろう。
9月7日、米政府は、経営難に陥っていた連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)(この2社をGSEという)を政府の管理下に置くと共に、2社合計で2000億ドル(21兆円)の優先株購入枠を設定、経営状況に応じて段階的に公的資金を投入する。まずは、2社に対し20億ドル(約2120億円)の公的資金を投入することを発表した。これをうけて、両者の経営陣を刷新、株主にも一定の責任を求めることとした。
サブプライム問題浮上から約1年での公的資金投入の決断であった。(日本では10年かかった)その背景には、まさに鬼気迫る世界金融市場の混乱を回避することが第一の目的であった。
ファニーメイとフレディマックは、買い取った住宅ローンを、住宅ローン担保証券(RMBS)として証券化するほか、自らが資金調達のため債券を発行している。これらRMBSや債券は政府機関債と呼ばれ、海外の中央銀行が外貨準備として大量に保有している。(機関投資家も大量保有している)その保有残高は約1兆6000億ドル(約170兆円)にものぼり、もし両者が破綻するようなことがあれば、世界市場が大混乱をきたし、世界的な金融システムが揺らぐ可能性があった。
任期満了を目前にして、国民の理解を得られない公的資金投入にこれだけ早く踏み切ったということだけで、如何に今の事態が深刻化しているかということを如実に物語っている。
しかし、この決断を早めさせたのは、他でもない中国である。中国の四大銀行の中国銀行が、6月末から8月にかけて両社の債券の保有額を29%減らしたと先月末明らかにした。これで米財務省は危機感を募らせたのだ。(市場が混乱するであろうことがわかっていながら保有する債券を売るという行為は、今まではどの国もやりたいと思っても実行してこなかった。さすが、中国。その行動は怖い)
この緊急処置により、翌日の日米株式市場は大きく値を上げた。しかし、喜びも1日だけであった。翌日からは再び反落。その原因は、次なる標的、リーマンブラザースの経営危機説である。
このように、GSEの救済策は、世界市場にとっては大歓迎されるべきものであり、心理的にはかなり好転するもののように思えるのだが、現実的には、今回の救済策も急場しのぎに過ぎないというのが、マーケットの見方である。金融システム不安の根源である住宅市場の底入れが絶対条件となろう。
まだまだ回復が見えない住宅市場
その住宅市場であるが、調整が続いている。住宅価格指標は軒並みマイナス幅が拡大。この最大の原因が、過度に積み上がった住宅在庫の存在である。住宅着工が抑制され、販売が増加する反面、差し押さえ物件の増加により在庫削減が進展しないことが問題となっている。
雇用環境も思わしくはない。8月の非農業部門就業者数は前月比8万4000人の減少となった。失業率も前月の5.7%から一気に6.1%に跳ね上がっている。2003年9月以来5年ぶりの高水準である。
唯一個人消費は、減税の効果もあって失速は逃れられたが、その効果は2001年や2003年の減税に比べると非常に小さい。
このように、米国ではGSEの救済策はタイムリーヒットであったが、余りにも点差が広がっているため、逆転に向けて意気が上がるというものではなかったようだ。今後は、各金融機関の決算毎に神経を尖らせる時期が今年いっぱい続きそうだ。