税法における住所ってドコですか?(4武富士事件2) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

税法における住所ってドコですか?(4武富士事件2)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 会計・経理
  3. 会計・経理全般
発表 実務に役立つ判例紹介
武富士事件は、かなりボリュームがありますので、
判決そのものを読むのもなかなか苦労します。
前回は、事実認定を紹介致しましたので、
今日は、地裁判決の判断内容を紹介します。
地裁判決は次のような判断により、原告勝訴判決を下しています。

(1)住所について
法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、
反対の解釈をすべき特段の事由のない限り、住所とは、各人の
生活の本拠を指すものと解するのが相当であり(最高裁S29.10.20)、
生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、
全生活の中心を指すものである(最高裁S35.3.22)。

一般的には、住居、職業、国内において生計を一にする配偶者
その他親族を有するか否か、資産の所在等の客観的事実に基づき、
総合的に判断するのが相当である。これに対し、主観的な居住意思は、
(略)補充的な考慮要件にとどまるものと解される。

被告は、相続税の性質や課税体系の点から、外国における
勤務等が終わった後に日本に帰る予定である者の住所は
日本にあるものとすべきであると解しうる見解を紹介している。
しかしながら、かかる見解によれば、例えば、わが国における居宅を
引き払って、数年間外国に勤務し、その間にわが国に帰国せず、
日本国内に生活拠点を保持しなかった場合であっても、将来日本に
帰る予定があれば、国内に住所を有することになるが、このような
場合にまで住所が国内にあるというのは、(略)採用し難い。

(2)原告の住居について
原告は、本件滞在期間中、その26.2%に相当する日数は日本に滞在し、
その間は本件滞在期間前の住所である本件自宅に起居していたところ、
原告が日本出国日に香港へ携帯したのは衣類程度であったのであるから、
本件自宅は従前と同様、原告の住居として使用することができる
状態にあったと考えられる。

他方、原告は、本件滞在期間中、その65%余りの日数を香港で過ごし、
その間は専ら本件香港自宅で起臥寝食していたものである。
そして、本件香港自宅は、ホテルと同様のサービスが受けられる
サービスアパートメントであるが、当初の契約では、賃貸期間を24ヶ月とし、
(略)本件香港自宅は相当期間使用されることが予定されていたと
いうべきであって、原告の香港滞在が一時的なものであったことを
裏付けるものとはいえない。

被告は、本件香港自宅がサービスアパートメントであること、原告が
本件自宅から生活諸道具を運搬していないことを指摘しているが、
海外に転居する場合、引越し費用や通関手続等を考慮すれば
生活諸道具を運搬しないことも格別不自然なことであるとは考え難い。

(3)原告の職業等について
原告は、B社の取締役として、B社の取締役会その他の会議、新入社員
研修会、格付会社との面談やアナリストないしファンドマネージャー向けの説明会に
出席するなどしているものの、これらの業務はいずれも原告が
国内に常駐することを予定しているものであるとはいえず、
現実に原告が本件滞在期間中に国内にいた日数は全日数のうちの
4分の1程度にすぎない。
これに対し、原告は、B社の香港駐在役員、B社の子会社である
香港各会社の代表者の地位にあり、本件滞在期間中の6割以上の日数、
香港に滞在し、B社ないし香港各会社の業務として、香港ないし
その周辺諸国に在住する関係者との面談その他の業務に従事していた
ほか、欧米でのB社のIR活動等にも従事していたのであって、原告の
職業活動の点から、原告の生活の本拠が国内にあったとすることも
困難である。

被告は、原告の香港における活動は、実体の伴わないものであって、
香港における居住事実を作出するための作為的なものにすぎないと
主張するのであるが、香港における原告の本件滞在期間中の活動が
香港を中心としたものであったことは既に詳細に認定したとおりである。
そして、原告の活動が、一人前のベンチャーキャピタリストとしてのそれである
との評価に値するものであったかどうかには疑問があり、むしろ、
研修ないし武者修行としての色彩があることは否定し難いとしても、
研修ないし武者修行の場が香港であると認められる以上、
職業生活の場が香港であることには変わりがないのであるから、
いずれにせよ被告の主張を採用することはできない。

(4)親族について
被告の指摘する事実は、原告の両親と弟が本件自宅に居住することを
意味することにとどまるところ、原告は成年の男性であり、職業に
就いて自ら収入を得ているのであるから、香港に滞在している間は、
両親らから独立した生活を営んでいたといわざるを得ず、両親らが
本件自宅に居住していたことは、本件自宅が、原告の日本滞在中の
生活拠点であったことを裏付けるにとどまるものというべきである。

(5)資産の所在について
金額面で比較すれば、原告の資産は国内にあるものが主であるが、
香港でも生活する上で必要な資産を有しており、本件滞在期間中の
生活費等の支払も、日本国内、香港の双方の銀行口座からされている
から、資産の所在から、原告の生活の本拠が本件自宅にあったか否かを
判断することは困難である。

(6)居住意思その他原告の主観的事情について
金融機関等への住所変更届での状況は、数の上では届出をしなかった
金融機関等が多いが住所変更手続の手間を厭ったものと考えられない
わけではないし、現実に住所変更届出をした金融機関もあるのであるから、
直ちに原告の居住意思が本件自宅にあったものとは認められない。

原告は、B社の常務取締役就任時の取締役就任承諾書及び役員宣誓書に
本件自宅を住所地として記載しているが、他方で、本件香港自宅を
住所として記載した書類も多数残されており、(略)B社の常務取締役
就任時の取締役就任承諾書等の記載から、ただちに原告の居住意思が
本件自宅にあったと認定することもできない。

原告は、平成11年10月ころ、S公認会計士から本件贈与の実行に
関する具体的な説明を受け、本件贈与後、定期的に国別滞在日数を
集計した一覧表を作成したり、S公認会計士から香港に戻るよう
指導されるなどしていたのであるから、本件贈与以前から香港に居住
していれば多額の贈与税を課されないことを認識し、本件贈与日以後の
国内滞在日数が多すぎないよう意識していたものと認められる。(略)
原告は亡Bの実子であり、平成5年11月の贈与につき多額の贈与税を
負担し、また原告自身、平成9年5月8日にJ弁護士も交えた会合に
出席していることからすると、日本出国日時点においても、香港に
居住すれば将来贈与を受けた際に贈与税の負担を回避できることを
認識していた可能性もあり得るものと考えられる。
しかしながら、原告はB社の海外駐在役員ないし香港各会社の代表者の
地位にあって、現実にそれらの業務に従事していたものであり、
かかる業務が贈与税を回避するために作出された外形にすぎないとは
認められないのであるから、原告が本件滞在期間中に単に贈与税の
負担を回避することのみを目的として香港に滞在していたとは認定
し難い。また、原告の香港滞在の目的の1つに贈与税の負担回避が
あったとしても、現実に原告が本件香港自宅を拠点として生活をした
事実が消滅するわけではないから、原告が贈与税回避を目的としていたか
否かが、本件自宅が生活の本拠であったか否かの点に決定的な影響を
与えるとは解し難い。