ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第8回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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対象:特許・商標・著作権

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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第8回)

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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第8回)

~方法クレームの記載順に権利範囲が限定解釈された判例~

平成25年(ネ)第10099号

 

控訴人(原告):株式会社ジーピーシーコリア

被控訴人(被告):株式会社千趣会 

2015年2月13日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 田中 伸次

 

1.概要

 本件は、発明の名称「Web-POS方式」とする特許権の専用実施権者である原告が、被告の提供するサービスに係るシステムが上記特許権を侵害している旨を主張して、被告に対し損害賠償請求(一部請求)を求めた裁判の控訴審である。

 なお、本件の控訴人は、昨年1月20日に取り上げた裁判例の原告と同一であるが、被控訴人(被告)が異なっている。

 

2.背景

1)     特許の内容

 本件特許に係る発明(以下「本件発明」と記す。)は、クライアント・サーバ型システムによるWeb-POS(Point Of Sales)方式に関するものである。本件発明の特徴は、サーバ(ストアコンピュータ)から商品メーカコードや商品アイテムコードをキーとして、対応する商品の価格情報を取得するPLU(Price Look Up)機能部分である。

 本件発明に係る制御方法は、

A「ハイパーテキスト転送プロトコルを用いてハイパーテキストマークアップ言語で記述された初期フレーム表示制御クライアント・プログラム、カテゴリーリスト表示制御クライアント・プログラム及びPLUリスト表示制御クライアント・プログラムを含むHTMLリソースを供給するWeb-POSサーバ装置を備えた」、

B「販売時点情報管理を行うためのWeb-POSネットワーク・システムの制御方法であって」、

C「該Web-POSサーバ装置からWeb-POSクライアント装置に対して送信された、初期フレーム表示制御クライアント・プログラムが、該Web-POSクライアント装置において実行されることにより、

少なくとも、

1)該Web-POSクライアント装置から上記Web-POSサーバ装置に対して、カテゴリーリスト表示制御クライアント・プログラムのダウンロードを要求するHTTPメッセージが送信される過程、

2)該要求に基づき、Webサーバ・プログラムがHDDの記憶媒体からカテゴリーリスト表示制御クライアント・プログラムを読み出し、上記Web-POSサーバ装置から該Web-POSクライアント装置に対して、上記カテゴリーリスト表示制御クライアント・プログラムが送信される過程、

3)上記Web-POSクライアント装置から上記Web-POSサーバ装置に対して、PLUリスト表示制御サーバ・プログラムの実行を指示するHTTPメッセージが送信されると、上記Web-POSサーバ装置が、PLU表示サーバ・プログラムを起動して、PLUリスト表示制御クライアント・プログラムを生成し、上記Web-POSクライアント装置に対して、PLUリスト表示制御クライアントプログラムが送信される過程、

4)及び、商品情報の入力毎に、それに対応するPLU情報が上記Web-POSサーバ装置に問い合わされる過程、

からなり」、

(中略)

G「商品カテゴリー、メーカー、商品名及び価格からなる商品基礎情報が記憶されている前記PLUマスターDBは前記Web-POSサーバ装置のみに設けられて」、

H「前記すべての商品基礎情報が前記サーバ装置のみによって管理されると共に」、

I「前記タッチパネル、キーボード、またはマウスからなる入力手段を有する表示装置において、商品カテゴリーに対応するPLUリストを表示する部分(第1フレーム)の表示過程と、該カテゴリー内の商品名が表示される、商品情報に対応したPLUリストを表示する部分(第2フレーム)の表示過程と、前記商品基礎情報と前記入力した商品識別情報とに基づいて出力される入力結果の注文商品明細を表示する部分(第3フレーム)の表示過程を経て」、

J「前記Web-POSクライアント装置における上記注文商品明細情報が該Web-POSクライアント装置から前記Web-POSサーバ装置に送信されることで、販売時点情報管理が行われることを特徴する」、

K「Web-POSネットワーク・システムの制御方法。」


ここでいう第1~第3フレームとは、図1に示すようなものである。

 

 

 第1フレームには「商品カテゴリー」、第2フレームには「注文商品」、第3フレームには「注文商品明細」が表示される。例えば、第1フレームで、商品カテゴリーとして「靴」を選択すると、第2フレームの「注文商品」には「靴」の商品名が表示される。第2フレームに表示された「注文商品」の一つを選択すると、第3フレームの「注文商品明細」にカテゴリー、メーカコード、商品番号、商品名、単価が表示される。ユーザが数量を入力すると商品毎の発注価格が計算され表示される(【図2】)。

 

 

 2)     審査経過

 本件特許に係る特許出願(以下、「本願」と記す。)は分割出願である。親出願(特願2000-331569号)は拒絶査定不服審判において登録すべき旨の審決がされ、登録されている(登録第号)。

 本願は、親出願が拒絶査定不服審判において、特許される見込みとなった後に、分割出願された。そのため、本願の審査においては、記載不備の拒絶理由のみが通知された後に、補正書・意見書が提出され、特許されている。

3)     その他

 本願について無効審判は請求されていない。

 本願は特許査定後に譲渡され、その後、専用実施権が原告対して、設定登録されている。

 

3.裁判での争点

1)     被控訴人の実施態様

原告が侵害している主張した楽天市場の注文システムである。本件訴訟においては2つの実施態様が対象となったが、共に判断内容は同様であるので、ここでは実施態様1について述べる。

 図3は第2画面を示している。被告システムにおいては、トップページである第1面には、ファッション、妊娠出産・ベビー・キッズ、ディズニー等の大カテゴリーのカテゴリーリストが表示されており、この大カテゴリーの下には、例えば、ファッションであれば、レディースファッション、女性下着・インナー、靴・バック・アクセサリー等の中カテゴリーが表示されている。そして、このうち、「レディースファッション」をクリックすると、第2画面に移行する。 

 

図3 第2画面(判決文より抜粋)

 

 第2画面のカテゴリー領域のトップには、中カテゴリーである「レディースファッション」という表示がされ、その下に、コート、ジャケット・ブルゾン、ワンピース・チュニック等の小カテゴリーが表示されている(第2画面の赤枠部分)。

 第2画面において、小カテゴリーの「コート」をクリックすると、第3画面に移行する。 

図4 第3画面(判決文より抜粋)

 

図4は第3画面を示している。その左側のカテゴリー領域のトップには、「レディースファッション」及び「コート」が表示され、その下に、最小カテゴリーのトレンチコート、ステンカラーコート、ノーカラー・スタンドカラーコート等が表示されている。

 

2)     争点

 第1審の争点は損害額を含めた8点であるが、裁判所により判断されたのは、「構成要件A、C、及びIに記載された各プログラムの実行手順及び実行内容に関する充足性」である。

 控訴審においては、両当事者からの補充の主張と、控訴人より、侵害を構成する被控訴人の実施態様が追加された。

 

4.第1審裁判所の判断

 第1審裁判所では、本件発明について、以下のように認定した(下線は筆者が付加したもの)。

 本件発明においては、初期フレームプログラムがクライアント装置において実行されて、カテゴリーリストの表示領域が表示装置に第1フレームとして表示された上で、引き続き、クライアント装置からサーバ装置に対し、第1フレームをターゲットとしてカテゴリーリストを表示するためのカテゴリーリストプログラムを送信するよう要求するHTTPメッセージが送信され(構成要件Cの1))、これを受けてサーバ装置が読み出したカテゴリーリストプログラムがクライアント装置に送信され(構成要件Cの3))、これが実行された結果、カテゴリーリストがWebブラウザに表示されるという過程を経て商品カテゴリーリスト

が表示されるというものである。

 それに対して、被告(被控訴人)システムについては、

利用者端末に表示される第2画面及び第3画面のカテゴリーリストは、いずれも、構成要件A、C及びIに記載されたプログラムの実行手順及び実行内容とは異なる手順を経て表示されたといわざるを得ないものである。」

と述べ、

 被告システムにおいて,構成要件A及びCにいう初期フレームプログラム及びカテゴリーリストプログラムが実行されたということもできないと解される。

として、被告(被控訴人)システムは、本件特許権を侵害しないと判断した。

 

5.控訴人(原告)の補充の主張と裁判所の判断

 控訴人は表示領域を確保するためには、frameタグ用いなければならないものではなく、tableタグを用いる方法や、画面を表構成にして領域を確保する方法、スタイルシートを用いて領域を確保する方法などが、原出願日当時、周知であり、これもまた本件発明における領域確保であると、補充の主張を行った。

 それに対して、裁判所は、控訴人の補充の主張については、

 控訴人の主張は,要するに,構成要件A,C及びI に記載された各プログラムの

実行手順及び実行内容としての領域確保は,単なる画面表示上の表現によって他と

区別できる部分が表示されることでも十分であるというものと整理される。

とした上で、本件発明に係る初期フレームプログラムの動作手順を再度述べた上で、以下のように控訴人の主張を退けた。

 画面上の表現の前提として観念的には当該部分の表示のための表示領域の確保が先行しているとみたとしても、構成要件の充足のためには、上記過程がその順序で順次実行されている必要があるところ、前記認定判断(原判決引用部分)のとおり、被控訴人システムにおいては、各画面は一つのHTML文書であって、サーバ装置からクライアント装置に対して一括して送受信されているものであり、各画面の各表示とその表示領域の確保とは同時にされているのであるから、本件発明の構成に従った過程が実行されているとみる余地はない。

 

6.結論

 上述のように、裁判所は、被告システムは、本件発明の構成要件A、C及びIに記載された各プログラムの実行手順及び実行内容を充足すると認めることはできないとし、原審の判断を維持した。

 

7.所感

 本件発明は方法の発明であることから、処理手順が厳密に検討され、充足性を判断された。控訴人(原告)は第1審で均等侵害も原告は主張しているが、裁判所は明確な判断をしていない。控訴審において、画面上における表示領域確保の方法は、様々なものがあるから、それらも権利範囲に含まれる旨の補充の主張を控訴人は行ったが、認められなかった。

 Webアプリケーションは高度化し、WebサーバからクライアントへHTMLファイルを送信するという単純な動作だけではなく、アプレットやスクリプトなどによるクライアント側で動作も多用されている。また、Ajaxのように非同期通信を利用した、リロードを伴わないWebページの書き換え技術も普及している。

 このようなことから、ソフトウェアの発明において、特にWebアプリケーションについては、処理手順を厳格に判断される方法の発明で保護を図るのは困難なってきていると考える。

以上

 

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