インド特許法の基礎(第19回)~外国出願許可と秘密保持命令(1)~ - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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インド特許法の基礎(第19回)~外国出願許可と秘密保持命令(1)~

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インド特許法の基礎(第19回)

~外国出願許可と秘密保持命令(1)~

2015年1月6日

執筆者 河野特許事務所 

弁理士 安田 恵

 

 

1.はじめに

 国防に関連する機密情報の国外流出を防ぐため,外国へ直接特許出願を行おうとする者に対して,外国出願許可(FFL: Foreign filing License)の取得を義務付ける国がある。インドもその一つである。インドに居住する者は,原則として外国出願許可を取得しなければインド国外で特許出願を行い,又はさせてはならない(第39条)。また,インド特許庁の長官は,国防目的に関連する発明の公開又は伝達を制限する旨の秘密保持命令を発する権限を有する(第35条~38条)。外国出願許可の規定に違反した場合,対応するインド特許出願は放棄されたものとみなされ,付与後の特許は第64条に基づいて取り消される。また,秘密保持命令又は外国出願許可の規定に違反した者は,禁固又は罰金に処される(第118条)。

 外国出願許可の制度は米国,英国等にも存在するが,外国出願許可の取得が義務付けられる対象は各国で異なる点に留意すべきである。

 

2.外国出願許可

(1)関連条文

 外国出願許可に係る規定は次の通りである。

「第39 条 居住者に対する事前許可なしのインド国外の特許出願の禁止

(1) インドに居住する何人も,所定の方法により申請し長官により又は長官の代理として交付された許可書での権限による以外は,発明につきインド国外で特許付与の出願をし又はさせてはならない。ただし,次の場合はこの限りでない。

(a) 同一発明についての特許出願が,インド国外における出願の6 週間以上前にインドにおいてされていた場合,及び

(b) インドにおける出願に関して第35 条(1)に基づく指示が一切発せられておらず又は当該指示が全て取り消されている場合

(2) 長官は所定の期間内に各当該出願を処理しなければならない。

ただし,当該発明が国防目的又は原子力に関連するときは,長官は中央政府の事前承認なしに許可を与えてはならない。

(3) 本条は,保護を求める出願がインド国外居住者によりインド以外の国において最初に出願された発明に関しては適用しない。」

 

(2)外国出願許可の取得義務を有する者

(a)インドに居住する者

(ⅰ)居住者の定義

 外国出願許可の取得が義務付けられる者は「インドに居住する何人」(person resident in India)である。インドに居住している者が対象であり,インド国籍,市民権の有無は無関係である。例えば,インド国籍を有する発明者が外国に居住している場合,外国出願許可を取得する必要はない。また「人」(person)には,法人であるか否かを問わず,会社又は個人からなる団体若しくは組織が含まれる(一般約款法第3条[1])。

 

 出願人がインド居住者に該当するか否かが問題になるが,インド特許法には「インドに居住する者」に関する定義規定は存在せず,判例も存在しない。「インド居住者」の解釈の手掛かりの一つとして,1961年所得税法[2]が挙げられる。1961年所得税法によれば,課税年度中に連続又は合計で182日以上インドに滞在している個人,又は課税年度中に連続又は合計で60日以上滞在し,かつ当該年度以前の4年間で合計365日以上滞在している個人は,「インドに居住する者」とされる(所得税法第6条(1))。また,インド企業又は課税年度中における業務の指揮管理が専らインドにあった企業は,「インドに居住する者」と定められている(所得税法第6条(3))。1999年外国為替管理法[3]にも「インドに居住する者」に関する同様[4]の定義規定が存在する。

 上述の定義規定が裁判所で採用される可能性はある。しかし,所得税法において定義されるインド居住者は課税区分のためのものであり,発明の秘密保持規定を扱うインド特許法第39条の「インドに居住する者」を所得税法の定義規定に依って解釈することには不合理な点もある。例えば,課税年度中に182日間インドに滞在した個人は外国出願許可取得の義務が課されるのに対して,課税年度を跨いで合計182日間インドに滞在した個人は外国出願許可取得の義務を負わないことになる。同期間滞在した者に対する取扱いが,その課税年度の基準日によって左右されることは秘密保持に関する規定上,不合理と思われる。

 インド特許法と同様の規定(第23条)を有する英国における「居住者」の取り扱いも参考になる。インドにおける法的拘束力は勿論無いが,英国の特許実務マニュアル(MoPP: Manual of Patent Practice[5])によれば,英国に通常居住している者が数ヶ月の間,外国で生活をしている場合,その間英国の居住者では無くなっていたとみなされると説明されている(MoPP 23.01)。また,外国(英国外)に通常居住している者であるが,英国に居所(residential address)を有する場合,英国特許法第23条における英国の居住者とみなされる旨が説明されている(MoPP 23.01)。

 インドにおいても,英国実務と同様に,インドに滞在する居所の有無に基づいて「インドに居住する者」であるか否かが判断される可能性も十分にあると考える。

 

 所得税法上の定義は絶対的なものでは無く,所得税法上の居住者に該当しない場合であっても,例えばインドにおいて一定期間,継続的に滞在している居所があるような場合など,インド特許法第39条の適用対象になる可能性があることに留意すべきである。

 

(ⅱ)共願

 インド居住者と,インド非居住者が共同で外国へ特許出願を行う場合の取り扱いについての規定は無い。しかし,秘密保持規定に関連する第39条の性質上,共同出願の少なくとも一人が「インドに居住する者」であれば,インド国外へ出願する前に,外国出願許可を取得する必要がある(表1参照)。英国においては,共同出願人の一人が英国居住者である場合,外国出願許可の取得が求められており(Mopp 23.01),インドにおいても同様に取り扱われると考えられる。

 

表1 外国出願許可の要否

出願人

外国出願許可の要否

インド居住者のみの単願又は共願

インド居住者及び外国居住者の共願

外国居住者のみの単願又は共願

不要

 

(ⅲ)企業及び従業者の居住地の関係

 従業者である発明者が完成させた発明を,使用者である企業へ譲渡し,その発明を当該企業が特許出願することは通常行われている。企業及び従業者の居住地と外国出願許可の要否の関係を表2に示す。

 

 従業者の居住地と企業の所在地の関係を表3に示す。インドに居住する従業者の発明をインド国内の企業が外国へ特許出願する場合に外国出願許可が必要であることは明らかである。また,インド国外に居住する従業者の発明を外国企業がインド国外へ特許出願する場合,外国出願許可は不要である(第39条(3))。

 

 インド国内企業に雇用されるインド国外居住の従業者が完成させた発明を,インド国内企業の名義で外国へ特許出願する場合の規定は存在しないが,外国出願許可が必要であると考えられる。この場合,発明の実質的な所有者はインド国内企業であり,「インドに居住する者」(person resident in India)に該当する可能性があるためである。

 

 外国企業に雇用されるインド居住の従業者が完成させた発明を,外国企業の名義で外国へ特許出願する場合についての規定は存在しないが,外国出願許可が必要であると考えられる。この場合,「インドに居住する者」が,外国企業に対して当該発明をインド国外で特許出願させる(cause to be made any application outside India)ことに該当する可能性がある(第39条)。外国出願時点で発明を所有しているのはインド国外の企業であるが,発明の原始的所有者はインド居住の従業者である。当該従業者が外国特許出願を行う際は,機密情報の国外流出を防ぐため,外国出願許可の取得が求められる。特許出願権を雇用者の外国企業に移転することによって,外国出願許可を取得する必要が無くなるとすれば,インド居住者の発明について,外国特許出願による機密情報の国外流出を容易に許すことになり,不合理と思われる。なお,英国の特許実務マニュアルによれば,外国組織に雇用された英国居住者は,最初に外国特許出願することを要求する雇用契約の条項にかかわらず,英国特許法第23条(インド特許法第39条に対応する条項)に従わなければならないとされている。

 

表2 企業及び従業者の居住地と外国出願許可の要否

 

インド国内企業

外国企業

インド国内居住の従業者

要(※1)

インド国外居住の従業者

要(※1)

不要

※1 確立した解釈・判例は見当たらない。

 

(b)発明の完成場所

 居住地及び発明完成地と外国出願許可の要否の関係を表3に示す。発明が行われる場所は,インドにおける外国出願許可の要否と無関係である(第39条)。例えば,発明者が外国出張中に完成させた発明であっても,当該発明者がインド居住者であれば,外国出願許可の取得が求められる。逆に発明者がインド国内で完成させた発明であっても,当該発明者が外国居住者であれば,外国出許可許を取得すること無く外国へ特許出願を行うことができる。「合衆国において行われた発明」について外国出願許可が必要な米国と異なる点である(35 U.S.C. 第184条)。

 

表3 発明完成地と外国出願許可の要否

 

インド国内で発明

インド国外で発明

インド居住者

外国居住者

不要

不要

 

(c)発明の内容

 外国出願許可の取得が必要な発明の内容については特に限定されておらず,国防,国家安全保障に関連する発明に限定されるものでは無いと解される。英国、米国等と異なる点である。

 

 外国出願許可の制度を規定する第39条は,第Ⅶ章「一定発明の秘密保持規定」(第35~第42条)の一規定であり,国防目的に関連する発明の秘密保持に関する規定第35条~第38条の文脈で捉えると,外国出願許可の対象となるべき発明の範囲も国防目的に係る発明に限定すべきと解釈できるようにも思える。

 しかし,インド特許法の条文上,対象を国防又は国家安全保証に関連する発明に限定する明文の規定又は文言は存在しない。他の諸外国,例えば英国特許法はインド特許法第39条と同様の条文を有するが,対象を軍事技術及び安全保障に関連する発明に限定する規定が存在する(英国特許法第23条(1A))。また,インド特許法第39条(2)には,発明が国防目的又は原子力に関連するときは,長官は中央政府の事前承諾無しに,外国出願許可を与えてはならない旨がただし書きとして規定されてり,国防目的以外の発明についても外国出願許可を行うことが想定されていると考えられる。更に,2005年改正前のインド特許法第39条には対象を限定する文言が存在していたが,2005年改正によって当該文言は削除されている[6]。外国出願許可の対象となる発明の範囲が特定のものに限定されるものでは無い旨を示した判例もある[7]

 以上の通り,外国出願許可の取得を要する発明の分野は特に限定されないと解釈すべきである。

 

(d)外国への特許出願を伴わない技術提供等

 ところで,秘密保持の趣旨からすると,外国出願許可の規定が適用され得る発明の情報を外国企業へ提供する際にも何らかの許可が必要になると思われるが,第39条によって禁止されている行為は特許出願であり,特段の許可無く,当該発明の情報を外国企業へ提供することが許される。第39条は,国防又は国家安全に関連する発明が外国政府に伝達され,広く一般に公開されることを制限するものであると考えられる。

 例えば,インド居住者が完成させた技術のノウハウ移転契約を外国の企業と締結し,その情報を当該企業に提供することについては,少なくとも第39条の許可は不要である。

 

2回へ続く



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[1] The General Clauses Act, 1897

[2] Income-tax Act, 1961

[3] Foreign Exchange Management Act, 1999(FEMA)

[4] 所得税法の定義と若干異なる。

[5] http://www.ipo.gov.uk/downloads/practice-manual.pdf

[6] 2002年改正 Section 21(URL: http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patentg.pdf),及び2005年改正 Section 31(URL: http://ipindia.nic.in/ipr/patent/patent_2005.pdf)参照。

[7] W. P. (C) 1631/2013

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