米国特許判例紹介:米国ビジネス関連発明の保護適格性 - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:特許・商標・著作権

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

米国特許判例紹介:米国ビジネス関連発明の保護適格性

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 特許・商標・著作権
  3. 特許・商標・著作権全般

米国ビジネス関連発明の保護適格性

~Alice最高裁判決以降の裁判所の判断基準~

米国特許判例紹介

2014年11月28日

執筆者 河野特許事務所 弁理士 河野 英仁

 

BUYSAFE, INC.,,

Plaintiff- Appellant,

v.

GOOGLE, INC.,

Defendant- Appellee,

 

1.概要

 米国特許法第101条は「新規かつ有用な方法,機械,製造物若しくは組成物,又はそれについての新規かつ有用な改良を発明又は発見した者は,本法の定める条件及び要件に従って,それについての特許を取得することができる」と特許保護適格性について規定している。

 

 特許保護適格性に関しては、これ以上の規定はなく、最高裁判例[1]により、自然法則、物理的現象、及び、抽象的なアイデアの3は、保護適格性を有さないとされている。2014年6月に下されたAlice最高裁判決[2]では、金融問題及びリスク管理に適用される方法クレームが抽象的なアイデアに過ぎないとして米国特許法第101条により無効とされた。

 

 Alice最高裁判決では、最初にクレームが特許適格性のない抽象的アイデアに向けられているか否かを判断し、次いで、クレームの構成要素が、クレームの本質を特許保護適格性のある応用に変換しているか否かを判断している。

 

 本事件では、当事者のオンライン取引実績を保証する方法クレームが米国特許法第101条の要件を満たすか否かが争点となった。CAFCは、本クレームは契約関係を真っ向から規定するものであり、またコンピュータの使用も発明概念(インベンティブコンセプト)を追加していないことから、抽象的なアイデアに過ぎず米国特許法第101条の規定に基づき、特許無効との判決をなした。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 オンライン商取引のシステム開発を行うbuySafe(原告)はU.S. Patent No. 7,644,019(019特許) を所有している。019特許は、当事者のオンライン取引の実績保証を行う方法及び記録媒体をクレームしている。参考図1は019特許における実績保証の概要を示す説明図である。019特許は2003年4月21日に出願され2010年1月5日に登録された。

 

 

 参考図1 019特許における実績保証の概要を示す説明図

 

(2)訴訟の経緯

 2011年原告は、Google(被告)が、019特許の1,14,39及び44を侵害するとして、デラウェア連邦地方裁判所に提訴した。一方、被告は、米国特許法第101条に基づき、主張されたクレームは無効であると反論した。

 

 問題となったクレーム1及び14は以下のとおりである。

 

1.

 安全取引サービスプロバイダのコンピュータで実行する少なくとも一つのコンピュータアプリプログラムにより、オンライン取引完了後にオンライン商取引に対して取引実績保証サービスを取得する第1当事者からリクエストを受信し、

 

 安全取引サービスプロバイダコンピュータで実行する少なくとも一つのコンピュータアプリプログラムにより、取引実績保証サービスを第1当事者に提供するために第1当事者を保証することによりリクエストを処理し、

 

 安全取引サービスプロバイダコンピュータは、コンピュータネットワークを通じて、オンライン商取引完了後に、第1当事者の実績を保証すべく、取引実績保証と第1当事者に関わるオンライン商取引とを結合する取引実績保証サービスをオファーする

 ことを特徴とする方法。

 

14.

 前記取引実績保証は、安全取引サービスプロバイダに、保証書、特別な銀行保証、特別な保険ポリシー、または、安全取引保証の形態で提供される

 ことを特徴とするクレーム1に記載の方法。

 

 

3.CAFCでの争点

争点: 抽象的アイデアに何を追加すれば発明概念テストをパスするか

 本事件ではAlice最高裁事件と同じく、クレームに係る発明が抽象的アイデアに向けられているか否か、また発明概念テストをパスするための何かが抽象的アイデアに追加されているか否かが問題となった。

 

 

4.CAFCの判断

結論:クレームのコンピュータの使用は何ら発明概念を追加しておらず、米国特許法第101条により無効である

 CAFCは最高裁判例に基づき、保護適格性を有さない抽象的アイデアに属するか否かについては、以下の2点が重要であると述べた。

 

(1)最高裁はどのような事項が抽象的アイデアのカテゴリーに属すると決定してきたか。

 

(2)抽象的アイデアに関わるクレームにおいて、どのようにコンピュータを使用すれば、そのようなアイデアの出願において、発明概念(インベンティブコンセプト)テストをパスするのか。

 

(1)第1の質疑:

 最高裁判例は、主に契約関係に係る特定の取り決めにおける抽象的なアイデアに関するものである。Bilski事件[3]は、商品価格におけるリスクをヘッジするための契約を行う方法に関わり、Alice事件は、「解決リスクを低減すべく第三仲介者を利用することで、当事者間の金融義務を交換する」方法及びシステムに関わる。

 

 CAFCは、これら2つの事件において争点となる契約関係は、「商業システムにおいて長らく普及してきた基本的な経済プラクティス」を構成しており、本事件におけるクレームも同様に取引保証を行う抽象的なアイデアであると判断した。

 

(2)第2の質疑

 Alice最高裁判決において、最高裁は、抽象的アイデアを対象とするクレームに「単に、汎用コンピュータの導入を要求する」だけでは、米国特許法第101条の要件をクリアすることができないということを明確にしている。

 

 このように判断することにおいて、最高裁は、「普遍性の高いレベルにて規定される慣習のステップを単に付加するというだけでは、発明概念を提供するのに十分でない」というMayo事件[4]の判示に依拠した。

 

 当該抽象的アイデアを、特定の技術環境へ限定しようとする試み、または、全体としての汎用コンピュータの導入のどちらも、十分ではない。

 

(3)本事件のクレームの保護適格性

(i)第1の質疑について

 CAFCは、本事件におけるクレームは、真っ向から契約関係を生成することについて記載していると判断した。CAFCはこのような長らくありふれた商業取引は、抽象的なアイデアであると判断した。

 

(ii)第2の質疑について

 CAFCは、クレームにはコンピュータの使用が記載されているものの、なんら発明概念を追加していないと判断した。クレームに記載されたコンピュータは、取引保証のためのリクエストを受信し、これに応じて保証のオファーを送信する、というものにすぎず、一般的なものであり、明細書にもこれ以上詳細な説明は記載されていない。コンピュータがネットワークを通じて情報を受信して送信する、ということは疑いなくインベンティブではない。

 

 Alice事件におけるコンピュータは、ネットワークを通じて、情報を受信し、送信し、仲介業者を他の関係する機関に接続するものであったが、最高裁はクレームされたコンピュータの役割は十分でないと判断した。

 

 本事件のクレームは、保証された取引そのものはオンラインでの取引であるが、それだけでは十分ではない。当該限定は、抽象的な保証アイデアを、特別な技術環境に適用したにすぎない。

 

 以上の理由により、CAFCは、米国特許法第101条に基づき、本事件のクレームを無効と判断した。

 

 

5.結論

 CAFCは米国特許法第101条の規定に基づき無効と判断した地裁の判断[5]を支持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 Alice最高裁判決以降、契約、金融及び取引保証を発明の骨子とするビジネス関連発明が相次いで無効とされている。本事件のクレームではコンピュータを使用し、またデータの送受信をオンラインで行う旨記載されていたが、当事者の保証、取引実績保証サービスのオファー等、技術的な側面とは無関係な事項が発明のポイントとして記載されていた。Alice最高裁事件におけるクレームよりも、より抽象的にクレームが記載されていることから、本CAFCの判断は妥当といえる。

 

 参考図2は保護適格性の判断基準を示す説明図である。Bilski事件及びAlice事件以降の判例を分析するとおよその傾向が見えてくる。第1に契約及び金融取引に関する発明が、抽象的アイデアか否かを巡る議論を巻き起こすことが多い。

 

 第2に、このような発明について、保護適格性の要件を満たすためには発明概念(インベンティブコンセプト)を付け加えなければならず、その程度も抽象的アイデアを遙かに超えるもの(significantly more)でなければならない。単にコンピュータを使用する、特定の技術分野に適用する、または単に慣習ステップを追加するだけでは不十分である。

 

 コンピュータ自身の性能改善をもたらすものは明らかに保護適格性を有する。またコンピュータのハードウェアを用いて特定環境の使用に意味のある限定がなされている場合も、保護適格性を有するが、どの程度限定がなされていれば当該要件を満たすかは個別案件毎に相違する。今後の最高裁及びCAFC判例を分析し、そのおよその基準を探っていくほかない。

  


 参考図2 保護適格性の判断基準を示す説明図

 

判決 2014年9月3日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/13-1575.Opinion.8-29-2014.1.PDF



[1] Diamond v. Chakrabarty, 447 U. S. 303, 308 (1980)

[2] Alice Corp. Pty. Ltd. v. CLS Bank Int’l, 134 S.Ct. 2347 (2014),

[3] Bilski v. Kappos, 561 U.S. 593 (2010) Alice, 134 S. Ct. at 2356

[4] Mayo Collaborative Servs. v. Prometheus Labs., Inc., 132 S. Ct. 1289, 1301 (2012).

[5] buySAFE, Inc. v. Google, Inc., 964 F. Supp. 2d 331 (D. Del. 2013).



米国特許に関するお問い合わせは河野特許事務所まで

 

 

 |  コラム一覧 |