税務調査(2・本坊事件の与える影響) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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税務調査(2・本坊事件の与える影響)

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税制改正 現行制度批判
前回に引き続き、税務調査のことについて、話をしたい。

今回と次回とで、税務代理権限証書を添付していたにもかかわらず、
税務代理契約を締結する税理士に事前告知せずに税務調査を強行され、
その結果、税務委任契約さえ破棄されてしまった税理士が、
国家賠償請求をした大阪高裁平成17年3月29日判決
いわゆる本坊事件を通じて、税務調査の問題点を検討する。

神戸地裁平成16年2月26日判決(TAINSコードZ254-9572)
大阪高裁平成17年3月29日判決(TAINSコードZ999-0089)

事件の概要は、次のようなものである。

 本件は、税理士である原告が、熊本西税務署員や宇土税務署員らによる
下記主張の違法な職権行為によって、A株式会社他1社との各税務委任契約に
基づく税務代理権を侵害されるとともに、両社が同契約を解除するに至り、
契約を破壊された旨主張して、同契約に基づく3年間の顧問料540万円の
70%である378万円及び原告の信用を毀損されたことによる非財産的
損害として300万円の合計678万円の損害につき、国家賠償法1条1項に
基づく損害賠償を請求した事案である。
 原告は、熊本西税務署員及び宇土税務署員の違法な職権行為として、
原告が税務委任契約を締結している2社に対して、原告が遠方に居住
しているため調査立会が困難であると知りながら、事前通知のない
税務調査を行ったこと、調査の際、税理士の代理権を無視する発言を
行ったこと、調査を不当に打ち切ったこと、調査理由を開示しなかったこと、
納税者である2社に対し脅迫的言辞を行ったこと、調査の際、
承諾なく建物内に進入することを容認しなければならないような威勢を
示したこと等を主張している。

神戸地裁の判断は以下のようなものである。

そもそも、税務署員には課税処分に必要な資料の取得収集が可能となるように、
課税要件事実関係者に質問し、帳簿書類その他の関係物件を検査する権利が
与えられているところ、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の
定めのない実施の細目については、前記の質問検査の必要があり、かつ、
これと被調査者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる
限り、前記権限を行使する収税官吏の合理的な選択に委ねられていると
解するべきであり、税務調査の日時、場所の事前通知、調査の理由及び
必要性の個別的、具体的告知が法律上、税務調査の一律の要件とされている
ものではないと解すべきところ(最高裁昭和58年7月14日第1小法廷判決)、
本件で事前通知なく税務調査のため臨場した税務署員らの行為が、調査の
必要性と被調査者の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度を
超えているとみるべき事情が認められないから、事前通知がないことを
違法事由とする原告の主張に理由はない。
 また、本件においては、税理士である原告が兵庫県西脇市に在住している
という事情があったが、被調査者は、遠隔地に居住する税理士と税務委任契約を
締結している場合でも、電話等で連絡をとって対応を相談することは可能であり、
そのような場合に事前通知を欠く調査が相当な限度を越えていると解すべき
理由はない。

 原告は、熊本西税務署員や宇土税務署員が、当初から原告の税務代理権を
侵害する意図に基づいて、(1)原告と委任契約を締結していたA及びBに対して
不意打ち調査を強行しようとし、(2)両社が税理士である原告に対処を求めた
のに対し、「税理士は関係ないので社長さえよければ調査します。」などと
原告の税務代理権を無視する発言をし、(3)原告の立会いの下で行われた
税務調査を正当な理由なくして打ち切り、(4)その後も原告がなぜ両社を
調査する必要があるのかを明らかにするよう求めてもこれに応じず、
原告が税務代理権の趣旨を双方で確認することを求めたのに対しても
全くまともな対応をとろうとせず、(5)両社に対し、反面調査を強行して
青色申告の取消しや消費税等の更正処分を強行するとの脅迫的発言をする
などし、そのような一連の行為によって、原告の税務代理権を甚だしく
違法に侵害したと主張する。
 しかしながら、本件において、熊本西税務署員及び宇土税務署員につき、
原告主張のごとき違法行為ないし違法事由を肯認できないことは既に
認定説示のとおりである。
よって、同税務署員らが原告の税務代理権を違法に侵害したとは認められない。

熊本西税務署員及び宇土税務署員が、両社の調査に際し、税理士は
関係ないと述べた事実が認められないことは既に認定説示のとおりであるし、
熊本西税務署員及び宇土税務署員が、原告と両社との税務委任契約が解除
されることを意図し、あるいはその恐れを認識しつつ、敢えて原告と両社
ないし乙ら関係者との信頼関係を破壊するような行為をなし、もって
税務委任契約が解除されるに至らしめたことを認めるに足る証拠はない。
かえって、前記認定事実に照らすと、原告が両社から税務委任契約を
解除されるに至ったのは、両社が熊本西税務署長及び宇土税務署長から
青色申告承認の取消処分や消費税等の更正処分等を受け、多額の税金の
追加納付を余儀なくされたことが主たる原因であり、税務署員らの行為により
信頼関係を破壊されたことが原因であるとは認めがたい。

前記税務調査の際、原告らが調査現場をビデオカメラで撮影し、
税務署員らが中止を求めても応じなかった事実も認められるところ、
国家公務員の守秘義務の対象であると考えられる税務調査の様子が
一般私人によって不特定多数の部外者に明らかにされる危険が予想される
状況において、守秘義務を負う国家公務員が撮影されることを回避するため
撮影中止を求め、それに応じない場合には撮影の対象となっている
当日の税務調査自体を打ち切るということも相当な判断として是認できる。
加えて、仮に税務調査の打切りがあったとしても、そのことが税理士の
代理権を侵害するものと解すべき理由はないから、いずれにせよ、
同職員らが税務調査を中止したことが不当であるとの原告の主張には理由がない。

神戸地裁は、以上のように判示し、原告の全面敗訴となった。
神戸地裁の判断は、事前告知なしに行った税務調査に違法はなく、
税理士にも、社長にも任意に調査に協力してもらうよう、
努力を尽くした上で、守秘義務等の問題から調査継続不可能として
調査を打ち切ったものであるから、本件税務調査に違法性がないので、
原告の主張に理由がないとして、退けたのである。

また、本件訴訟が注目された理由である、税務代理権の侵害についても、
事前告知なしに違法なく、調査理由の開示の法的義務はなく、
調査打ち切りにも違法性がない以上、原告主張の侵害行為には違法性はない、
と判断されたのである。

高裁は引用判決ではなく、高裁でも事実認定に基づいた判断がされており、
次回は高裁判決を紹介し、本件に基づく税務調査について、私見を述べる。