軽油引取税のみなす課税(その2)(補佐人事例) - 会計・経理全般 - 専門家プロファイル

平 仁
ABC税理士法人 税理士
東京都
税理士
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軽油引取税のみなす課税(その2)(補佐人事例)

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発表 実務に役立つ判例紹介
前回は、完敗した地裁判決について紹介致しましたので、
今日は、全部取消逆転勝訴判決となった高裁判決について、
準備書面を含めて紹介致します。

まず、我々が行ったのは、事実認定の見直しでした。
そこで、気付いたことがありました。
人名の酷似です。

本件軽油取引の首謀者の1人である辛の苗字と
本件取引の名義として後半用いたF商会の代表者(H)の苗字が
同音であることに改めて気付きました。
そのつもりで調査調書や証人尋問を読み直してみると、
辛とHとが混同されているのではないかという疑問が出てきたのです。

また、本件取引の法的な名義人はA社であり、F商会であるにもかかわらず、
課税庁は、A社やF商会の存在を無視して、いきなり原告に課税している
事実に対して、何ゆえに法律上の名義を無視できるのかについて、
反論させることを提言しました。
つまり、A社の代表者である原告が責任を負うなら、
F商会の代表者であるHが全く責任を負わないのは何ゆえか。
Hについては地裁でも弁護士から調査調書の開示請求が出ていたのですが、
地裁では無視されましたので、高裁では正式に争点に挙げようとしたわけです。
そこで、第二次納税義務や連帯納税義務だけでなく、
実質課税、法人格否認の法理まで持ち出して、
控訴人準備書面で主張し、課税庁側の反論を要求しました。

また、地裁から継続して主張する点として、
調査不尽による不当課税であることを主張し、
B社については少なくとも実体があることを主張・立証しました。
B社事務所で行われた調査調書およびその際の担当責任者であるU氏の
証人尋問証言によると、B社の実体さえ疑わしい旨を答弁していることから、
B社に実体があることを反証し、本件調査の不尽を訴えたのである。

さらに、失敗すれば自爆の可能性もありましたが、
課税額3億円超の課税事件でありながら、
脱税事件として告発されていない点を追求しました。
この点は地裁でも追及しましたが、判決には取り上げられませんでした。
ちなみに乙は課税額8000万円の別件の軽油引取税脱税事件において、
共犯として、懲役2年の実刑判決を受けていますから、
8000万の共犯でも2年の実刑にもかかわらず、
3億超の主犯(課税庁の主張)が刑事告発されない点の矛盾をつきました。
この点については、Uが「告発要件に至りませんでした」と
地裁で証言しておりますので、こちらとしてはこの証言が証拠でした。

その上で、西野国士舘大学教授の鑑定意見書を提出いたしました。
この鑑定意見書がくわせもので、課税するためにはどうすればよいかについて、
延々と書かれた意見書でした。7頁中5頁が課税のための要件を書いたもので、
その点、西野先生の国税時代の経歴(徴収畑出身で、裁判所調査官も経験)
が生きたのでしょうか。ある意味、先生の鑑定意見書で書かれたような
課税のされ方をしていたら、我々は手も足も出なかったでしょうね。
先生の指導もあって、私が原案を作った控訴人準備書面では、
この方法で課税すべきだったのではないか?、という視点で作りました。

結局、1年で5回の公判が開かれて結審、のはずが、
判決が出るはずだった4月に弁論再開、
課税庁側に、なぜ本件軽油の原始取得者が乙ではなく原告であるのかについて、
求釈明が出されました。
求釈明に対する反論を出した6回目の公判で結審、
7月10日に逆転勝訴判決を頂きました。

判決を見ると、原告の主張が大幅に追加されたが、
控訴人準備書面で主張してきたことには殆ど何も応えていない。
むしろ、求釈明で求めてきた本件軽油の原始取得者が誰であったかのみで
本件課税の違法性を指摘し、全部取消判決となったのである。
すなわち
「本件において被控訴人は、控訴人がE社に委託して軽油を製造した、
出来上がった軽油は出来上がったと同時にその所有権を控訴人に取得させるとの
黙示の合意があったと主張し、これに対し、控訴人は、E社に製造を委託した
ことはなく、E社との間で製造された軽油の所有権が原始的に控訴人に帰属する
旨の合意をした事実もないと争っているから、具体的にはE社によって製造
された経由を控訴人が原始取得したと認められるか否かが問題となる。
 この点、甲3号証(被控訴人による弁明書)には、茨城県庁からの通報資料から、
控訴人が原料をE社に供給して軽油の製造を委託したことが確認できたとの記載
があり、また、乙23号証(乙の刑事公判における控訴人の証人尋問調書)には、
乙の刑事事件公判廷での証人尋問において、E社の石油精製工場に重油と灯油を
持ち込み、1リットル当たりいくらという加工賃を払って経由を加工してもらう
取引を乙とした旨を控訴人が供述したとの記載部分がある。」

「しかし、同調書に記載された控訴人の供述はこの取引の具体的な内容を
ほとんど説明しておらず、E社の石油精製工場で製造された軽油を控訴人が
原始取得することを直接認めるに足りるだけの中身があるものとはいえない。
これによって、被控訴人が主張している軽油の所有権の取得に係る黙示の合意を
認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。むしろ、
同調書によれば、持ち込んだ重油と灯油の合計量と同量の軽油を持ち帰るという
取引であったとされていることに加え、乙28号証(乙の刑事事件第一審判決)
によれば、E社の石油精製工場においては、同時期に複数の者から重油及び
軽油の持ち込みを受け入れていた可能性があるものの、それらの重油等を
分別管理できるだけの施設があったとは必ずしも認められない(略)上、
同工場での軽油製造には相当程度の時間が必要であると認められるのに(略)、
被控訴人が控訴人とE社の取引であると主張しているA社名義での取引に係る
タンクローリーの運転手は、重油10キロリットルと灯油6キロリットルを
同工場に搬入し下ろし終わると、すぐに軽油16キロリットルの荷積みをしていた
旨を公判廷で証言していることが認められる(略)。」

「これらによれば、E社は、あらかじめ重油等の原料を加工して軽油を製造
しておき、その中から、新たに原料である重油と灯油を持ち込んだ顧客に対して
その合計量と同量の軽油を引き換えに渡し、これとともに1リットル当たりいくら
として定めた金額を加工賃と称して取得するという取引をしていた可能性が高い
といわざるを得ない。その場合、特段の事情がない限り、E社が製造した軽油は
ひとまずはE社の所有物となると考えられるところ、この特段の事情を認めるに
足りる証拠はない(略)。そうだとすると、控訴人がE社と軽油製造に関わる
取引をしていたとしても、製造された軽油を控訴人が原始取得したと認める
ことは困難であるから、控訴人が製造したと認められない。」

この判決内容は、地裁から一貫して弁護士が主張していた主張であって、
このような判決であれば、なぜ地裁で負けたのか、まったく疑問である。