中国特許判例紹介(35)中国における標準特許とFRAND義務の適用(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介(35)中国における標準特許とFRAND義務の適用(第2回)

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中国における標準特許とFRAND義務の適用

~公正、合理的、かつ、非差別的なライセンス条件とは~

中国特許判例紹介(35)(第2)

 

2014年8月1日

執筆者 河野特許事務所

弁理士 河野 英仁

 

 

インターデジタル通信有限公司

                   上訴人(一審被告)

v.

ファーウェイ技術有限公司

                           被上訴人(一審原告)

 

(2)FRAND義務の解釈

 被告は、フランス法に基づけば,“FRAND”義務とは、知的財産権所有者の一方がすでに「公平、妥当かつ差別なく(fair, reasonable and non-discriminatory)」基本特許を準備し、取り消すことのできないライセンスを付与することの声明にすぎず、必ずしも締結を強制的に要求するものではなく,当事者が合意に至っていない協議前にそれについて人民法院が契約を制定すべきではないと主張した。

 

 これに対し人民法院は以下のとおり判断した。

(i)最初に,被告はフランス法の“FRAND”義務の含意に基づき解釈を行っているが依拠はない。上述したとおり,本案は中国の法律を適用すべきであり,フランスの法律を適用すべきではない。

 

(ii)被告自身も上訴時に指摘しているが、たとえ国外であっても,“FRAND”義務の基本的な含意については、現在のところ定論が存在しない。従って、被告の“FRAND”義務の解釈も同様に権威のないものであり,フランス法上確かなFRAND条項に関する規定が存在することの証拠証明を何ら提供していない。

 

(iii)第三に,本案に関する“FRAND”義務は実際上《欧州標準会》(ETSI)及び米国信工業協会(TIA)中の知的財産権政策及び関連承である。原告及び被告員として,上述した協議制約を受けるべきである。

 

(iv)第四に,“FRAND”義務の含意は上述した協議中明確なものである。《欧州電信標準化協会》知識産権政策第6.1条は以下のとおり明確に規定している:

 

「6.1 特定の規格または技術仕様に関連する必須IPRがETSIに知らされた場合,ETSIの事務局長は,少なくとも以下の範囲で,当該のIPR における取消不能なライセンスを公正,合理的かつ非差別的条件( fair, reasonable and non-discriminatory terms and conditions)で許諾する用意があることを書面で取消不能な形で3か月以内に保証することを,所有者にただちに求めるものとする。」

 

 米国電信工業協会の知識産権政策もまた権利者にできるだけ早く取り入れる標準特許を開示するよう勧めており、かつ、権利者に合理的かつ非差別的な原(RAND)に基づきその特許を許可するよう要求している。

 

(v)第五に,中国法律は具体的に“FRAND”の含意を規定していないが,類似の規定は存在する。訴訟において,双方当事者が契約条項または協議中の文言の解釈に相違が生じた場合,人民法院は関連法律法規等に基づき、それに対し解釈を行うことができる。

 

《中華人民共和国民法通則》第4条は以下のとおり規定している。

「民事活動は、自由意思、公平、等価有償、誠実信用の原則を遵守しなければならない。」

 

《中華人民共和国契約法》第5条及び第6条は以下のとおり規定している。

「第5条 当事者は公平原則を遵守して双方の権利及び義務を確定しなければならない。」

「第6条  当事者の権利公司、義務履行は、誠実信用の原則を遵守しなければならない。」

 

 これらの規定は双方当事者が争っている“FRAND”義務の含意に対する解釈に用いることができる。

 

(vi)第六に,“FRAND”義務の含意は、“公平、合理、非差別”ライセンスの義務であり,合理的な使用費の支払いを希望する善意の標準使用者に対しては,標準必要特許権者は、直接ライセンスを拒絶すべきではなく,特許権者が術革新の中から十分なリターンを得ることができることを保証し、同時に標準必要特許の権利者が標準により形成された優勢な地位を利用して高額の許率を請求しまたは不合理な条件を附加することを避けることである。“FRAND”義務の核心は合理、非差別の許可費または許可費率の確定にある。

 

 高級人民法院は、上述の理由に基づき、標準特許権者の利益と、標準特許の使用許諾を受ける第三者との利益を総合的に勘案し、被告はFRAND義務に基づき被告に使用許諾すべきであると判断した。

 

争点2:原告に対する標準特許使用費率は0.019%が妥当である。

 被告は、上訴において、一審法院が確定した使用費率は妥当ではないと主張した。その理由としては、原告と被告との間には必ずしも締結した許可契約が存在しない;契約が成立していない情况下で,原審法院が直接許可費率を判定したことは依拠がない;原審判決は如何に0.019%の許可費率を確定したかいかなる説明もない;原審判決は簡单に被告がアップル公司に与えた“許可費率”を参考として処理したのは妥当ではない;原審法院は参照研究機構Strategy Analyticsが公布した全世界携帯電話市場分析データを参照したのも妥当ではない;ということである。

 

 これに対し高級人民法院は以下のとおり判断した。

(1)最初に、標準必要特許使用費または使用費率の確定問題に関し,当事者が協議を達成できない情况下,双方は、人民法院に確定を請求することができる。中国の法律は直接標準必要特許の使用費の問題について規定していないが,《中華人民共和国専利法》は特許の強制許可使用費の問題に対し規定している。

 

 専利法第57条

「強制実施許諾を取得した機関又は組織又は個人は、特許権者に合理的な実施料を支払うか、又は中華人民共和国の加盟した関連国際条約の規定に基づいて実施料の問題を解決しなければならない。実施料を支払う場合、その額は双方が協議して定める。双方が合意に達することができないときは、国務院特許行政部門が裁決する。」

 

 専利法第58条

「特許権者が国務院特許行政部門の強制実施許諾の決定に不服がある場合、特許権者及び強制実施許諾を得た機関又は組織又は個人が国務院特許行政部門の強制実施許諾の実施料に関する裁決に不服がある場合、通知を受領した日から3ヶ月以内に人民法院に提訴することができる。」

 

 本案は特許強制実施許可の分類には属さないが,特許強制実施許可について,実施を申請する者は国務院特許行政部門に提出しなければならない。標準必要特許に関していえば,実施者は行政機関に実施許可請求を必ずしも提出する必要は無く,逆に特許権者が加入している関連標準協会がなす承諾に基づき直接特許権者に提出し,特許権者は直接拒絶してはならない。しかしながら使用費または使用費率を確定するに当たり,両者に似通っている部分があれば,双方共に自ら進んで協議することができ,協議が成立しない場合,関連機構に裁決を請求することができる。

 

 本案において,原告及び被告は共に欧州電信標準化協会のメンバーである。上述した《欧州電信標準化協会》知識産権政策第6.1条の規定に基づけば、「公正,合理的かつ非差別的な条件で許諾する」必要がある。

 

 それゆえ、被告は原告にその標準必要特許を実施することを許可する義務を負い、使用費または使用費率の問題に関し,双方は公平、合理的及び非差別的条項に基づき,すなわちFRAND”条項に基づき協議を行うべきであり,協議が成立しない場合,人民法院に裁決を請求することができる

 

(2)その次に,標準必要特許使用費数額の確定は,“FRAND”条項“公平、合理和非差別”の条件に適合しなければならない。標準必要特許の特徴に基づき,原審法院は、合理的な使用費を確定する場合、少なくとも以下の要素を考慮しなければならないと判断している:

 

(i)許可使用費額の高低は該特許或いは類似特許を実施することにより得られる利潤を考慮すべきであり,該利潤は被許可人の関連商品の販売利潤或いは販売収入に占める比率を考慮すべきである。技術、資本、被許可人の経営労動等の要素は共に、一製品の最後の利潤を創造し,特許許可使用費は、製品利潤の一部分となり、逆に全部ではなく、かつ、特許権者が製品の全部の技術を提供しておらず、それゆえ該特許権者は単にその特許比率に相応する利潤部分に対し取得する権利を有するだけである。

 

(ii)特許権者がもたらした貢献はその作り出した技術であり,特許権者はただその特許権によって利益を得るべきであり、標準によって額外の利益を得ることはできない。

 

(iii)許可使用費の額の高低は、特許権者が技術標準中の有効特許の多少を考慮すべきであり,標準実施者に、非標準必要特許の許可使用支払いを要求することは、合理的ではない。

 

(iv)特許許可使用費は、製品利潤の一定比率範囲を超えるべきではなく,特許許可使用費の特許権者間における合理的分配を考慮すべきである。

 

 高級人民法院は、これら第1審の判断に同意した。“非差別”条件の問題に関し,標準必要特許許可使用費の費用取得モデルは多種多様であり、あるモデルでは固定許可使用費であり,販売額の比率に基づく使用費モデルもあり,かつ異なる取引基礎もまた異なる許可費率となる。しかし,取引条件が基本的に同一である情况下では,基本的に同じ費を取得すべきであり、または、基本的に同じ可使用率を採用すべきである。非差別的条件に適合するか否かを判断する場合,往々にして比較方法を通じて確定する必要がある。基本的に同じ取引である条件下,標準必要特許権者がある一の被可人に比較的低い費を設定した場合,他の被可人に比較的高い費を付与し対比を通じて,後者は、差別待遇を受けていると考える理由がある。標準必要特許権者は、まさに非差別許可の承諾に違反していることとなる。

 

(3)第三に,被告は原告と標準必要特許使用費の協議過程において,被告の複数回にわたるオファーは共にFRAND条件に符合しなかった。その上、協議過程において,被告は2011年7月,米国関連裁判所及び米国国際貿易委員会に対し、原告製品の米国での差し止め請求訴訟を提訴した。IDC公司が提示した条件及び訴訟行為は,明らかにFRANDの要求に反し,双方の協議継続を難しくし、終始標準必要特許使用費について一致した意見を達成することができない。

 

(4)第四に,原審法院が確定した標準特許の許可使用費率は妥当である。原審法院は標準特許使用費を確定する過程において,最初に,FRAND条項の内包について十分に説明しており、十分に以下の要素を考慮している。許可使用費額と、関連製品販売利潤または販売収入との関係;標準必要特許の技術創新に対する貢献率;非標準必要特許及びその他知識産権が支払うべき許可使用費の控除;標準必要特許権利者が特許技術に組み入れることができない関連標準により獲得する超過利益;標準必要特許の数量及び質等の要素が使用費に与える影響。

 

(5)第五に,原審法院は原告とアップル公司及びサムスン公司との通信領域標準必要特許の許可使用費を参考とし,本案の使用費に対し確定したことは公平、合理的及び非差別条項に符合するものである。誰もが知っているように,アップル、サムスン、ノキア、モトローラ、ファーウェイ公司は共に携帯電話機等の通信設備を生産及び販売しており,かつ統計数から見れば,アップル、サムスン、ノキア、モトローラ公司の携帯電話機販売量は長年成績上位にあり,これらの企業は通信設備を生産する際に、必然的に原告の標準必要特許を使用する必要があり,双方とも相応の標準必要特許使用費を確定した。

 

 従って被告が同様の標準必要特許を実施する場合原告と、アップル公司、サムスン公司等との間の標準必要特許許率は、重要な参考価値を有する。原審法院はまた本案の実際情况を考慮しており,サムスン公司と原告との特許許可費率の達成は訴訟背景の元で達成されたものであり,アップル公司と原告との間の特許許率は完全に双方平等、自由意思での協議で達成したものであることを考慮しており,それ故,主に、原告とアップル公司との間の特許許可費率を参考とすることは適当である。

 

第3回に続く



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