「派遣会社の事業主が、自分自身を派遣できるか?」 - 経営戦略・事業ビジョン - 専門家プロファイル

小岩 広宣
社会保険労務士法人ナデック 
社会保険労務士

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閲覧数順 2016年12月02日更新

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「派遣会社の事業主が、自分自身を派遣できるか?」

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 個人事業主の方が人材派遣業を行なう場合、自分自身が派遣社員として働くことはできません。その理由は、派遣の対象とする派遣社員は、「労働者」である必要があるからです。

 労働者派遣法では、派遣労働者の定義について、「事業主が雇用する労働者であって、労働者派遣の対象となるものをいう」(2条2項)と規定しています。したがって、「労働者」ではない人を派遣の対象とすることはできないのです。
 
 「労働者」の定義は、簡単にまとめると、
 (1)事業主に雇用され、
 (2)事業主の指示によって仕事を行ない、
 (3)事業主から賃金を支払われる者であること。
 ということです(労働基準法9条)。
 
 したがって、個人事業の場合、個人事業主本人が「労働者」と判断されることはありえないため、事業主自身が派遣労働者として派遣先で就業することは認められません。

 労働者派遣は、派遣元と派遣先というふたつの独立した権利主体が、派遣法に基づく派遣契約を取り交わすことによって成立します。そのため、個人事業における事業主は、事業の権利主体そのものであるため、派遣労働者として派遣されることは許されないわけです。

 事業主そのものが「労働者」として扱われてしまうと、そもそも、その事業について従業員の雇用に責任を負う存在がなくなってしまうから、問題です。なおかつ、労働者派遣については、法律で決められている勤怠管理や災害補償などの多くの派遣元事業主の責任が、事業主自身が派遣されることによって不在になることにより、曖昧になってしまうことがあったとしたら、問題です。とイメージしていただければ、分かりやすいと思います。

 なお、一人親方のような形で個人事業主が派遣先で就業する場合は、労働者派遣ではなく、派遣先に直接雇用された「労働者」になったと見なされるケースと、「業務請負」もしくは「業務委託」の契約だと判断されるケースがあります。

 もっぱら派遣先の管理と指揮命令を受けて仕事に従事し、自らの裁量権がほとんどないような場合は、実質的に(派遣先)会社と雇用契約関係に入って、その会社の「労働者」となったと判断される可能性が高いでしょう。
 逆に、派遣先の指揮命令は受けることがなく、(派遣先)会社からの注文や委託に基づいて、自らの判断で業務を処理するような場合は、「業務請負」もしくは「業務委託」と見なされる可能性が高いでしょう。

 「労働者」であれば、基本的には(派遣先)会社の雇用責任に基づいて仕事をすることになります。もはや個人事業主ではなくなるわけです。
 「業務請負」もしくは「業務委託」であれば、独立事業主として、すべて自らの責任と裁量で、委託や注文を受けた業務を処理することになります。

 いずれにしても、契約関係や業務の実態の違いによって、(派遣先)会社との関係が大きく変わることになり、負担すべき義務の内容がまったく変わってくるわけです。

 気づいたら、「「派遣」のつもりが、「雇用」されていた」なんていうことにならないよう、注意しないといけないですね。


 個人事業主については以上の通りですが、これが会社(法人)の役員(取締役等)の場合ですと、少し話がややこしくなります。

 会社の役員は、会社の経営全般について責任を負っているのが一般的ですから、基本的には経営側の人間であり、労働者とは見なされません。
 しかし、役員ではあっても、もっぱら名目的な肩書に過ぎない場合であったり、もっぱら会社の指揮命令を受けて業務に従事しているような場合は、実態は労働者としての性格が強いものと判断され、「労働者」としての地位も併せて持っているものとして、取り扱われることになります。

 このような場合は、「労働者」と判断されるわけですから、派遣労働者として派遣先で就業させることが可能となります。
 
 取締役が「労働者」と判断されるかどうかについては、業務の内容、指揮監督の有無や程度、報酬や給与の支払い状況等を総合的に勘案して判断すべきものとされています。

 もともと従業員であった人とはいえ、会社によって役員に任命される人は、それなりに業務を行なう上での権限と経営への影響力がある人だと思われます。一般的には、派遣元としての経営責任の中核を担う人だといえることが多いでしょう。

 したがって、役員である人を派遣労働者として派遣就業させることについては、よほどの事情がないかぎりは、人事管理の側面からも、会社として慎重であった方がよいといえるでしょう。