米国特許判例:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(2) - 企業法務全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
河野特許事務所 弁理士
弁理士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:企業法務

河野 英仁
河野 英仁
(弁理士)
村田 英幸
(弁護士)

閲覧数順 2016年12月04日更新

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

米国特許判例:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(2)

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 企業法務
  3. 企業法務全般
米国特許判例紹介:無人契約機特許の範囲はどこまでか?(第2回) 
〜パソコンでのローン申し込みに権利が及ぶか?〜

     Decisioning.com, Inc.,
      Plaintiff-Appellant,
          v.
  Federated Department Stores, Inc. et al.,
      Defendants-Appellees,

河野特許事務所 執筆者 弁理士 河野英仁 2008年7月25日


4.CAFCの判断
明細書及び審査経過を考慮する
(1)結論  
CAFCは、「遠隔装置」には、ユーザが所有するパソコンが含まれない点については同意した。従ってニ号システムが特許権侵害とならないことに関し、結論は同じである。

 逆に、CAFCは、地裁が「金融機関により提供され、かつ、金融取引専用の」コンピュータ端末であると限定解釈した点を誤りとした。この場合、地裁の判断と異なり、ハ号システムは特許権侵害となる。

(2)説明
 「遠隔装置」の解釈に関し、CAFCはまず明細書の記載及び審査経過に着目した。明細書中には、「遠隔装置」という文言はなく、一例として図1に示すキオスク40が示されていた。そして審査経過においてキオスクから、様々な装置を含む「遠隔装置」へと補正したのである。

 明細書中に、キオスク以外の個人所有のパソコンを含むとの記載または示唆が存在すれば、遠隔装置をキオスク以外の個人所有のパソコンまでをも権利範囲とする余地もあろう。

 しかしながら、明細書においては、首尾一貫して空港のターミナル、銀行、ショッピングエリア等、公衆に供される通常の意味でのキオスクを意図した記載がなされていた。明細書のどこにも、ユーザが所有するパソコンを使用しても良いとの記載は存在しない。

 また図1に示す如く、この装置は、家庭にあるユーザ所有のパソコンには存在しない、部品、つまりセキュリティカメラ110、電子ペン105及び署名パッド100等が含まれている。このような部品はユーザ所有のパソコンには、そもそも存在しない。これは、出願当初に出願人が、ユーザ所有のパソコンをも権利に含めることを意図していないことを示すものである。

 以上のことから、CAFCは、ニ号システムを構成する個人所有のパソコンは権利範囲に属さないと判断し、地裁の判決を支持した。

 しかしながら、遠隔装置が、「金融機関が提供するものであること」及び「金融取引専用」とさらに限定解釈した点については、誤りと判断した。クレーム及び明細書のどこにも、このように限定解釈する記載は存在しないからである。

 従って、デパート等の小売業者が店舗内で提供するパソコン、及び、金融取引処理以外、例えば天気予報のチェック処理を行うパソコンは、「遠隔装置」に該当し、権利範囲に属することになる。その結果、ハ号システムは権利侵害となる。

5.結論
 以上の理由により、CAFCは、遠隔装置が個人所有のパソコンを含まないと判断した地裁の判決を支持した。その一方で、CAFCは、「金融取引のみ」及び「金融業者が提供」と限定解釈した地裁の判決を誤りとし、さらなる審理を行うよう命じた。

6.コメント
 本事件は、以下2つの教訓を示す判例である。
(1)将来の使用形態を想定した明細書作成を心がける
 本特許明細書を見れば、出願当初はキオスク40の形態のみを想定しており、よもやユーザの自宅にて、ユーザのパソコンで自動契約システムを実施することまでは想定していなかったことが理解できる。

 出願人は出願後の補正で、あわてて「遠隔装置」と補正したが後の祭りであった。特許明細書作成者は、出願打ち合わせ時には現状のサービスのみならず、将来想定されうるビジネス形態をも発明者から聞き出して、また自らも発案して権利化しておくことが重要となる。

(2)補正可能な範囲(米国特許法第132条(a)*5)について注意する
 007特許の明細書には、「遠隔装置」の文言及び説明は存在しない。唯一キオスクがユーザ装置「user interface」であるとの記載があるにすぎない。この補正は日本の審査においては新規事項追加に該当する可能性が高い。しかしながら、米国の審査では当該補正が認められており、また、裁判所にて新規事項追加に関する被告の主張も存在しない。日本よりも柔軟な補正が認められている点にも注目すべきであろう。

    判決 2008年5月7日                     以 上
 |  コラム一覧 |