- 中舎 重之
- 建築家
対象:老後・セカンドライフ
法隆寺の柱=エンタシスの話
金堂は二重基壇の上に正面五間、側面四間、重層入母屋造(じゅうそう いりもや づくり)の大建築で
飛鳥の様式を備え、我が国の古建築の頂点にある貫禄と気品を備えています。
金堂の屋根の美しい勾配、上層と下層との巧妙な釣り合い、軒まわりの大胆な破調、
上層の匂欄(こうらん)に卍(まんじ)くずしの組子や人字形割束を配した点など、
飛鳥様式の特色を表している。
特に、上下両層の差を大きくとり、高くそびえさせているのに、
そこに強い安定感を生むことに成功している事は見事であり、
大いに学ぶべき点があります。
何の技巧もない一枚板の大扉を見て、内部に入ると目につくのが太い円柱です。
気持ちの良い ふくらみ を持ったエンタシスの柱が見事にならび、
非常に落ち着いた雰囲気をつくっています。
エンタシスはギリシャの神殿建築に端を発しており、
仏教の東伝と共に、わが国にも伝えられたものです。
エンタシスには、力学的な理由があると同時に、眼の錯覚を矯正するのに大きな効果があります。
むしろ後者の理由により、ふくらみを持たせたと思われます。
柱は重い屋根を支える役目がありますから、物理的に上部の重量に対して
十分に耐えるものでなければ成りません。 視角的にも弱々しくてはいけません。
柱は、やはり堂々と力強くあるべきです。
一般的に独立した柱は、中央の上部では内側に削げて見えます。
柱が長ければ長いほど、その歪曲の度が強くなるものです。
そこで中間に ふくらみ を持たせる事により、 柱がいかにも力強く ふんばって、
上部の重みを支えている様に見せたのです。
金堂の内部には、釈迦如来像および両脇侍立像があり、
名工・止利仏師の作として異彩をはなっています。
薄暗いお堂の中では中尊のお顔を僅かに拝するのみでした。
あの特徴ある ほほえみ に接すると ”ほとけくさい” 荘厳さなどは感じられず、
唯 うつくしいの一言につきる思いが致しました。
堂内には、ほかに薬師如来座像とか、四天王立像があり、
飛鳥・白鳳の作品として一見に価するものがあります。
特に、四天王立像は我が国の最古のものとして重要です。
1964年 春 中舎重之
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