- 中舎 重之
- 建築家
対象:老後・セカンドライフ
法隆寺五重塔の話
「奈良県生駒郡斑鳩町大字法隆寺」というのが、此のお寺の住所です。
奈良盆地の水を集めた大和川の流れが、生駒山脈の南の端をすり抜けて、
河内平野から大阪湾に注ごうとする頸部が、斑鳩の里です。
此のお寺は、推古15年(607)に完成した、という記録があります。
ところが、日本書紀に天智9年(670)に焼失したとあり、
今では、若草伽藍の発掘調査と相まって、遅くとも和銅年間(708~714)の頃に、
再建されたとみられています。
いずれにせよ、明治以来の再建論争は脇においても、
現存する飛鳥様式を伝えた世界最古の木造建築であることは、動かす事は出来ないのです。
さて、五重塔を見ることにしましょう。
五重塔は二重石壇上に建っています。
塔は初層の柱間が三間の寸法ですが、五重の層だけ二間四方としている。
初重の寸法の2とすると、五重の寸法が1になるいるように、設計されています。
此の2:1の比率が塔全体の安定感を生み出しています。
屋根の勾配がゆるく、優美な線を描き出しています。
軒の出が大きい割には軸部の背を低くくして、塔身の高が、
その広さに対して最低限の均衡を保っているのが、良いのでしょう。
今度は、軒の出の比率の話です。
五層の軒の寸法を1としますと、初層の軒の寸法は1.4=√2となります。
この√2:1も、先ほど2:1=√4:1も、
黄金比率としてギリシャ・エジプトに遡る地球的比率です。
高さの話です。
高さは、基壇より相輪の宝珠までが32.6mです。
飛鳥時代の建築は、後の奈良時代の建築と比べると相対的に小振りなのが、特徴です。
比率は、塔身の高さを2とすると、相輪部は1となります。
相輪の高さが塔全体の1/3を占める五重塔は、他にはありません。
ここに、此の塔のどっしりとした落ち着きの要因があり、
味わい深い美しさの秘密が潜んでいそうです。
比類なき品格さえ感じられます。
法隆寺の伽藍には、塔は一基のみです。
これも飛鳥時代の特徴です。
塔の心柱の根本には、お釈迦様のお骨(舎利)を納めております。
すなわち、信仰の大本は、お釈迦様であり、五重塔そのものなのです。
奈良時代の初期に建てられた、薬師寺は、東と西に三重塔、中央に金堂があります。
ここでは金堂の薬師如来様(仏像)を拝む事になります。
法隆寺には、仏教本来の祈りがあります。
此の古式を黙々と護り続けて来た1300年の重みには、驚嘆します。
今年の春に、40年ぶりに再会した当方の心を、
今も掴んで放さない、大好きな五重塔のお話でした。
2014年 春 中舎重之
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