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ソフトウェア関連発明特許に係る判例紹介(第四回)
~副引用例の記載事項の認定に誤りがあるとして審決が取り消された判例~
平成25年(行ケ)第10109号
2014年6月10日
執筆者 河野特許事務所 弁理士 田中 伸次
1.概要
本件は、発明の名称を「経路広告枠設定装置、経路広告設定方法及び経路広告枠設定プログラム」とする発明について、引用例1及び2から容易想到であるとして請求を不成立とした拒絶査定不服審判の審決の取り消しを求めたものである。
2.背景
1) 特許の内容
本件特許出願(以下「本願」と記す)に係る発明(以下「本願発明」と記す)は、ナビゲーション装置に表示する経路情報を送信する際に、広告情報を併せて送信するものである。請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
通信ネットワークを介して接続された広告主の端末から、地図上の経路に関する線描写によって前記端末で設定された経路情報を受信する経路情報受信手段と、
前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し、記憶部に有する経路データベースに記憶する広告枠設定手段と、
前記経路情報に広告枠が設定された後に、ユーザの端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報取得手段により取得された前記位置情報を含む前記経路を、前記経路データベースから特定する経路特定手段と、
前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから、前記経路特定手段により特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と、
を備える経路広告枠設定装置。
本願発明は、予め広告主が経路情報に広告枠を設定し(図1参照)、ユーザの端末から位置情報を取得した場合、取得した位置情報を含む経路情報及び当該経路情報に設定された広告枠に対応した広告情報をユーザの端末に送信するものである。
図1 本願の図3
2) 審査経過
本願の審査経過は、以下のとおりである。
平成20年 1月11日 出願(特願2008-4123)
平成21年 6月16日 審査請求
平成23年 6月 7日 拒絶理由通知書送達
平成23年 8月 5日 意見書、手続補正書提出
平成23年 9月27日 拒絶査定書送達
平成23年12月21日 審判請求書、手続補正書提出
(不服2011-27507)
平成24年 3月 1日 前置報告
平成24年11月 9日 拒絶理由通知書送達
平成25年 1月11日 意見書、手続補正書提出
平成25年 3月19日 審決書送達
審判段階で拒絶理由通知されているのは、審査段階で示された副引例(引用例3)を主引例(引用例1)とする進歩性(第29条第2項)違反を通知したためである。
3.訴訟での争点
1) 争点
争点は以下の5つである。
a)手続違背
b)引用例1発明の認定の誤り
c)一致点及び相違点の認定の誤り
d)引用例2の記載事項の認定の誤り
e)容易想到性の判断の誤り
判決では、d)、e)についての判断がされている。
2) 本願発明の解決課題及び解決手段について
車等の移動体に搭載されたナビゲーション装置を介して、移動体が走行する経路等の周辺の施設等に関する広告情報を提供する移動体広告システムにおける経路広告枠設定装置に関する発明である。従来の移動体広告システムは、移動体の位置や、予めユーザが目的地を登録することにより決定された経路に応じて広告情報を配信するものであったが、配信する広告情報が地図上の各エリアに対応付けられていたため、移動体が所定の経路を外れても、エリア内であれば、エリアに対応付けられた広告情報が配信されてしまうという解決課題があった。本願発明は、エリアに代えて地図上の経路に応じて広告情報を配信可能な経路広告枠設定装置を提供することを目的とするものである。
上記の課題を解決するために、本願発明に係る経路広告枠設定装置は、
「前記経路情報受信手段により受信した前記経路情報に広告枠を設定し、記憶部に有する経路データベースに記憶する広告枠設定手段と」、
「前記広告枠に対応する広告情報を記憶する広告データベースから、前記経路特定手段により特定された前記経路に関連する広告枠の広告情報を抽出して前記ユーザの端末に送信する広告情報送信手段と」を備えている。
3) 引用例2の記載について
引用例2には、次のような記載がある。
「区域108に示すように、地理的領域100内の道路の各々は、1つ又はそれ以上の道路区間122からなる。道路区間122は、道路の一部を表す。各々の道路区間122は、2つのノード123と関連付けられるように示される。すなわち、一方のノードは道路区間の一端の地点を表し、他方のノードは、道路区間のもう一方の端部の地点を表す。道路区間のいずれの端部におけるノードも、例えば、交差点又は行き止まりの道路のような、道路が別の道路と交わる位置に対応することが可能である。」(段落【0007】、下線は筆者、以下同様)
「位置に基づく広告メッセージの伝達を容易にするための別の方法は、広告メッセージを伝えることができる位置に通行可能な道路沿いの地点を指定することである。この方法により、地理的領域内の道路に沿った「仮想広告掲示板」の位置が設けられる。」(段落【0060】)
「ユーザ入力などによるエンドユーザのコンピューティング・プラットフォームに関連した測位装置(例えば、GPS、内部センサなど)のような何らかの手段を用いて、エンドユーザの位置が求められる。地理的領域内の道路を表すデータにエンドユーザの位置を突き合わせる。道路を表すデータはまた、広告メッセージが与えられることになる道路沿いの位置(例えば、仮想広告掲示板の位置)を表すデータを含む。エンドユーザの位置が仮想広告掲示板の位置を通過すると、広告メッセージがエンドユーザに与えられる。」(段落【0061】、図2参照)
図2 引用例2の図11
4) 広告枠が対応付けられる対象について
上述のように、本願発明は、経路情報に広告枠が設定されている。それに対して主引例に記載の発明は広告枠を地図のエリアと対応付けている。そこで、被告は、引用例2を用いて次のような主張を行った。
本願発明における「経路」とは、現在位置から目的地まで移動する場合の、地図上の道路、線路、航路等の「区画」であり、一般的な用語の意味からして「区間」にほかならない。他方、引用例2における、一方のノードから他方のノードに至る「経路」は「道路区間」であるから、引用例2における「道路区間」は本願発明における「経路」に相当する。
引用例2の「仮想広告掲示板」は、道路沿いあるいは道路上の特定の位置を通過するエンドユーザにのみメッセージを伝えるものであるから、本願発明と同様に、地図上のエリアではなく、「経路」に応じて広告を設定することを意図したものである。
よって、広告枠を設定する対象を経路情報とすることは、当業者であれば、容易になし得たとであると主張した。
4.裁判所の判断
裁判所は、引用例2に記載について、次のように認定した。
「広告メッセージを伝えることができる位置として、通行可能な道路沿いの特定位置を「仮想広告掲示板」の位置として指定し、ナビゲーション・サービス・プロバイダは広告主との契約に基づき、設けられた「仮想広告掲示板」の位置を通過するエンドユーザに広告メッセージを伝えるとの技術事項が記載開示されている。」
そのうえで、引用例2に記載された技術は、「通行可能な道路沿いの特定位置を通過するユーザに対して、広告メッセージを伝えるものであり、広告メッセージが送信されるのは、ユーザが特定の位置を通過した時点である。」として、引用例1に記載の発明及び引用例2に技術を組み合わせたとしても、本願発明の「地図上の経路に広告枠を設定するとの構成に至ることはない」とした。
また、被告の引用例2における「道路区間」が本願発明における「経路」に相当し、引用例2には「道路(経路)に対して広告を設定すること」が記載されているとの主張については、「「道路区間」の語は、仮想広告掲示板を設定する「道路区間」沿いの位置を特定する文脈の中で用いられたものであって、広告枠を設定する対象を意味するものとしては用いられた語ではない。」とした。さらに、「引用例2においては、移動体が当該道路区間上を移動中であったとしても、当該特定位置に至らない限り、広告メッセージは配信されないのであるから、「広告枠を経路情報に設定」することが記載されている」とはいえないとした。
5.結論
裁判所は、審決の引用例2の記載事項の認定及び容易想到性の判断には誤りがあるため、審決を取り消した。
6.考察
引用例2に記載の発明において、広告枠は道路区間に対応付けられているのか、または、広告枠は道路沿いの特定位置に対応付けられているのかが、争いとなった。引用例2には、データベース構造が図示されているが、広告枠が道路区間と対応付けられているか否かは定かではない。
しかし、広告メッセージを伝えることができる位置として、「道路沿いの地点」を指定することから、広告枠と道路区間とを対応付けする構成に至らないとは言い切れないと、筆者は考える。
ナビゲーション装置では、測位装置の測位誤差により、車の位置が道路上とならない場合、近接する道路の上に位置を補正するということは、公知技術である。車はほとんどの場合、道路上を走行するという前提があるからである。
引用例2において、測位誤差により、ユーザが「道路沿いの地点」を通過したとしても、それをナビゲーション装置が認識できないことも考えられる。それを改善するために、引用例2においても、ユーザは道路上に位置することを前提にして、「道路沿いの地点」を通過したか否かを判定する方が、精度が向上すると考えられる。そのためには、「道路沿いの地点」を「道路区間」と対応付けること、すなわち「広告枠」を「道路区間」と対応付ける構成は、当業者であれば容易に相当し得たのではないかと、考える。
なお、本判決により審決が取り消されたため、拒絶査定不服審判の審理が再開されている。IPDLの経過情報によれば、直ちに審決はされておらず、新規性、進歩性違反についての新たな拒絶理由が通知され、応答待ちの状態となっている。(2014年5月13日現在)
以上
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