監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを命ずる審判等に基づき間接強制決定をすることの可否 - 民事家事・生活トラブル全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを命ずる審判等に基づき間接強制決定をすることの可否

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相続

監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを命ずる審判等に基づき間接強制決定をすることの可否

間接強制決定に対する抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件
平成25年3月28日 最高裁第1小法廷決定/平成24年(許)第41号
裁判集民事243号261頁、判例タイムズ1391号126頁①事件
【判示事項】 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができないとされた事例
【判決要旨】 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の頻度等につき1箇月に2回,土曜日又は日曜日に1回につき6時間とする旨定められているが,子の引渡しの方法については何ら定められていないなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。
【参照条文】 民法766条1項、 家事審判法(平23法53号廃止前)15条、家事事件手続法75条、民事執行法172-1
【判決理由】     
 4(1) 子を監護している親(以下「監護親」という。)と子を監護していない親(以下「非監護親」という。)との間で,非監護親と子との面会交流について定める場合,子の利益が最も優先して考慮されるべきであり(民法766条1項参照),面会交流は,柔軟に対応することができる条項に基づき,監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましい。一方,給付を命ずる審判は,執行力のある債務名義と同一の効力を有する(平成23年法律第53号による廃止前の家事審判法15条)。監護親に対し,非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は,少なくとも,監護親が,引渡場所において非監護親に対して子を引き渡し,非監護親と子との面会交流の間,これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であり,そのような給付については,性質上,間接強制をすることができないものではない。したがって,監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当である。
 (2) これを本件についてみると,本件条項は,1箇月に2回,土曜日又は日曜日に面会交流をするものとし,また,1回につき6時間面会交流をするとして,面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの,長男及び二男の引渡しの方法については何ら定められてはいない。そうすると,本件審判においては,相手方がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから,本件審判に基づき間接強制決定をすることはできない。


間接強制申立ての却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成25年3月28日 最高裁第1小法廷決定/平成24年(許)第47号
裁判集民事243号271頁、判例タイムズ1391号126頁②事件
【判示事項】 非監護親と子が面会交流をすることを定める調停調書に基づき間接強制決定をすることができないとされた事例
【判決要旨】 非監護親と監護親との間において非監護親と子が面会交流をすることを定める調停が成立した場合において,調停調書に次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえず,上記調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることはできない。
(1) 面会交流は,2箇月に1回程度,原則として第3土曜日の翌日に,半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)とするが,最初は1時間程度から始めることとし,子の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。
(2) 監護親は,上記(1)の面会交流の開始時に所定の喫茶店の前で子を非監護親に会わせ,非監護親は終了時間に同場所において子を監護親に引き渡すことを当面の原則とするが,面会交流の具体的な日時,場所,方法等は,子の福祉に慎重に配慮して,監護親と非監護親間で協議して定める。
【参照条文】 民法766条1項、家事審判法(平23法53号廃止前)15条、家事審判法(平23法53号廃止前)21条1項ただし書 、家事事件手続法75条、 家事事件手続法268条1項、民事執行法172条1項
【判決理由】     
(2) これを本件についてみると,本件調停条項アにおける面会交流をすることを「認める」との文言の使用によって直ちに相手方の給付の意思が表示されていないとするのは相当ではないが,本件調停条項アは,面会交流の頻度について「2箇月に1回程度」とし,各回の面会交流時間の長さも,「半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)」としつつも,「最初は1時間程度から始めることとし,長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」とするなど,それらを必ずしも特定していないのであって,本件調停条項イにおいて,「面接交渉の具体的な日時,場所,方法等は,子の福祉に慎重に配慮して,抗告人と相手方間で協議して定める。」としていることにも照らすと,本件調停調書は,抗告人と長男との面会交流の大枠を定め,その具体的な内容は,抗告人と相手方との協議で定めることを予定しているものといえる。そうすると,本件調停調書においては,相手方がすべき給付が十分に特定されているとはいえないから,本件調停調書に基づき間接強制決定をすることはできない。

【出  典】 判例タイムズ1391号126頁

 1 平成24年(許)第41号事件(①事件。以下「41号事件」という。)平成24年(許)第47号事件(②事件。以下「47号事件」という。)は,いずれも,未成年者の父が,未成年者を単独で監護する母に対し,面会交流に係る審判(41号事件),面会交流をすることを定めた調停調書(47号事件)に基づき,間接強制決定の申立てをした事案である。両事件においては,両事件の決定がされたのと同日である平成25年3月28日に決定がされた平成24年(許)第48号事件(判タ1391号122頁。以下「48号事件」という。)において示されたのと同旨の基準に基づき間接強制決定をすることができるか否かが検討された。
 2 41号事件において,未成年者の父であるX1と母であるY1は,平成12年12月に婚姻の届出をし,平成14年9月に長男を,平成18年7月に二男をもうけた。平成24年2月,Y1に対し,X1と未成年者らが1箇月に2回,土曜日又は日曜日に,1回につき6時間面会交流をすることを許さなければならないなどとする審判がされた。
 また,47号事件では,X2とY2は,平成8年12月に婚姻の届出をし,平成13年4月に長男を,平成17年6月に二男をもうけた。平成21年12月,X2とY2との間で未成年者らの面会交流について調停が成立したところ,その調停調書には,①Y2は,X2に対し,長男と2箇月に1回程度,原則として第3土曜日の翌日に,半日程度(原則として午前11時から午後5時まで)面会交流をすることを認める。ただし,最初は1時間程度から始めることとし,長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする,②Y2は,前項に定める面会交流の開始時に所定の喫茶店の前で長男をX2に会わせ,X2は終了時間に同場所において長男をY2に引き渡すことを当面の原則とする。ただし,面会交流の具体的な日時,場所,方法等は,長男の福祉に慎重に配慮して,協議して定めるなどの条項があった。
 しかしながら,いずれの事件についても,面会交流が実現しなかったため,X1,X2が間接強制決定の申立てをしたところ,原審は,それら審判,調停調書において,監護親であるY1,Y2の義務内容の特定がない旨などを述べて,間接強制決定の申立てを却下すべきものとした。
 3 最高裁は,41号事件,47号事件のいずれの事件においても,48号事件と同様の基準である,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,審判,調停調書に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当であるとした。
 そして,41号事件については,面会交流の頻度や各回の面会交流時間の長さは定められているといえるものの,未成年者らの引渡しの方法については何ら定められてはいないとして,給付が十分に特定されているとはいえず,間接強制決定の申立てができないとした。
 また,47号事件については,面会交流の頻度や,各回の面会交流時間の長さについて,具体的に述べている部分があることを指摘しつつも,「最初は1時間程度から始めることとし,長男の様子を見ながら徐々に時間を延ばすこととする。」として,最終的には,それらについて必ずしも特定していないといえることや,面会交流の具体的な日時,場所,方法等については,協議して定めるという条項があることをも指摘して,調停調書は,面会交流の大枠を定め,その具体的な内容は,協議で定めることを予定しているといえ,給付が十分に特定されているとはいえず,間接強制決定の申立てができないとした。
 4 間接強制決定をすることができる場合について,41号事件で示されている基準は48号事件で示されているのと同じ基準であり,47号事件で示されているのもそれと同旨の基準であるといえる。48号事件,41号事件は,審判に基づく間接強制決定が問題となった事案であるのに対し,47号事件は,調停調書に基づく間接強制決定が問題となった事案であるが,最高裁は,面会交流を定めた審判と調停調書を区別せず,同旨の基準により,間接強制決定の可否が問題となるとしたといえる。ただし,調停においては,具体的な定めをしつつも,間接強制をしない旨を合意することもあり得ないわけではなく,そのような合意がある場合を特段の事情がある場合として示している。
 5 間接強制決定ができる場合として最高裁で示された「面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合」の該当性について,最高裁は,41号事件,47号事件の審判,調停調書の条項について,いずれも,監護親がすべき給付が十分に特定されているとはいえないとした。いずれの事件においても,面会交流の内容の一部は特定しているともいえるものであったが,最高裁は,基準を比較的厳格に解し,監護親のすべき給付が十分に特定されていないとしており,最高裁が示した基準に対する具体的な適用事例として意義を有すると考えられる。
 6 通常の民事事件において,和解調書等が執行力のある債務名義として認められるためには,「…円を支払う」などの給付の意思を示す給付文言が必要であり,義務を確認する条項のみでは,債務名義とならないともいわれる。これに対し,47号事件において,最高裁は,調停調書で面会交流をすることを「認める」という文言が使用されていたとしても,直ちにその債務名義性が失われるものではないと述べた。これは,面会交流については,未成年者が関与することなどから調停条項において面会交流をすることを「認める」という文言が使用されることがあるとしても,「認める」との文言の使用が,給付の意思の有無についての決定的な要素となるものではないとの考え方に立つものと思われる。この点については,従前から,この決定と同様の考え方に立つ下級審裁判例(大阪高決平19.6.7判タ1276号338頁)等があったところである。もっとも,今後,調停条項の作成に当たり,それを債務名義とすることを意図するのであれば,まぎれのない文言が使用されることが望ましいことはいうまでもない。
 7 本件の両事件は,面会交流に関する審判,調停調書に基づき間接強制決定をすることができない具体的な事例を示したものとして実務の参考となると考えられる。

間接強制に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成25年3月28日 最高裁第1小法廷決定/平成24年(許)第48号
民集67巻3号864頁
【判示事項】
1 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができる場合
2 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判に基づき間接強制決定をすることができるとされた事例
【判決要旨】
1 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。
2 監護親に対し非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判において,次の(1),(2)のとおり定められているなど判示の事情の下では,監護親がすべき給付の特定に欠けるところはないといえ,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができる。
(1) 面会交流の日程等は,月1回,毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし,場所は,子の福祉を考慮して非監護親の自宅以外の非監護親が定めた場所とする。
(2) 子の受渡場所は,監護親の自宅以外の場所とし,当事者間で協議して定めるが,協議が調わないときは,所定の駅改札口付近とし,監護親は,面会交流開始時に,受渡場所において子を非監護親に引き渡し,子を引き渡す場面のほかは,面会交流に立ち会わず,非監護親は,面会交流終了時に,受渡場所において子を監護親に引き渡す。
【参照条文】 民法766条1項、 家事審判法(平23法53号廃止前)15条、 家事事件手続法75条、民事執行法172条1項
【出  典】 判例タイムズ1391号122頁

 1 本件は,未成年者の父であるXが,未成年者の母であり,未成年者を単独で監護するYに対し,Xと未成年者との面会交流に係る審判に基づき,間接強制の申立てをした事案である。
 2 事実関係の概要等は,次のとおりである。
 XとYは,平成16年5月に婚姻の届出をし,平成18年1月に長女をもうけた。平成22年11月,XとYを離婚し,長女の親権者をYとする判決が確定した。
 平成24年5月,札幌家庭裁判所において,Yに対し,Xが長女と面会交流をすることを許さなければならないとする審判がされ,同審判は,同年6月確定した。その審判には,①面会交流の日程等について,月1回,毎月第2土曜日の午前10時から午後4時までとし,場所は,長女の福祉を考慮してX自宅以外のXが定めた場所とすること,②面会交流の方法として,長女の受渡場所は,Y自宅以外の場所とし,当事者間で協議して定めるが,協議が調わないときは,所定の駅の改札口付近とすること,Yは,面会交流開始時に,受渡場所において長女をXに引き渡し,Xは,面会交流終了時に,受渡場所において長女をYに引き渡すこと,Yは,長女を引き渡す場面のほかは,Xと長女の面会交流には立ち会わないことなどが定められていた。
 Xは,平成24年7月,本件審判に基づき,間接強制決定を求める申立てをした。これに対し,Yは,長女がXとの面会交流を拒絶する意思を示していることなどから,間接強制決定が許されないなどと主張した。
 3 原審は,Yに対し,審判において定められたとおりXが長女と面会交流をすることを許さなければならないと命ずるとともに,Yがその義務を履行しないときは,不履行1回につき5万円の割合による金員をXに支払うよう命ずる間接強制決定をすべきものとした。
 4 本決定は,給付を命ずる審判は,執行力のある債務名義と同一の効力を有すること,また,監護親に対し,非監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判は,少なくとも,監護親が,引渡場所において非監護親に対して子を引き渡し,非監護親と子との面会交流の間,これを妨害しないなどの給付を内容とするものが一般であること,そのような給付については,性質上,間接強制をすることができないものではないことを述べた。そして,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等を挙げ,これらが具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合は,上記審判に基づき監護親に対し間接強制決定をすることができると解するのが相当であるとした。
 その上で,本件については,面会交流の日時,各回の面会交流時間の長さ及び子の引渡しの方法の定めによりYがすべき給付の特定に欠けるところはないといえるから,本件審判に基づき間接強制決定をすることができるとした。
 なお,本件において,Yは,子が面会交流を拒絶する意思を表示していることを主張し,間接強制決定をすることができない旨主張していたのであるが,この点について,本決定は,子の面会交流に係る審判は,子の心情等を踏まえた上でされるものであり,面会交流を許さなければならない審判は,子の心情等を踏まえた上で,監護親に対して,上記の給付を命ずるものであることから,子の心情等は,間接強制決定をすることを妨げる理由とならないと述べた。もっとも,審判時とは異なる状況が生じたといえるときは上記審判に係る面会交流を禁止し,又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となる余地があることも指摘した。
 5 給付を命ずる審判は,執行力を有する(家事事件手続法75条。なお,本件については,家事審判法が適用される。)。
 面会交流をすることを命ずる審判は,多種多様な内容のものがあり得て,その内容に応じ給付の内容は異なるとはいえるが,審判,調停において面会交流が問題となることが多い子の年齢との関係で,本決定が示したような,監護親に対し,引渡場所において非監護親に子を引き渡し,非監護親と子との面会交流の間,これを妨害しないなどという給付を命じているものが多いと考えられる。
 このような面会交流を命ずる審判は一定の給付を命じているといえるものである以上,強制執行が可能なのではないかが問題となる。もっとも,前記の給付について代替執行は考えられない。また,面会交流では基本的には反復継続する子の引渡しが問題となり,直接強制の反復は子の福祉に反する苛酷な執行になる可能性が高いとして,直接強制は許されないと考えられている。そこで,間接強制の可否が問題となる。この点,面会交流は関係者の協力の下に実行されてこそ子の福祉に合致するなどとして,間接強制も許されないとする説もあった。もっとも,学説上は,間接強制を肯定する説が多く,肯定説が通説であると評されていた(大濱しのぶ・リマークス2009(下)122頁等)。この点を直接判断した最高裁裁判例はなかったといえるが,下級審裁判例は,肯定説を前提としていたといえる(最近の下級審裁判例として,例えば,東京高決平24.1.12家月64巻8号60頁)。本決定は,最高裁として,前記のとおりの内容の給付について,性質上許されないものではないとして,肯定説に立つことを明らかにしたものといえる。
 6 執行が可能であるためには,給付の内容が特定されていることが前提であるといえる。本決定も,監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合に,間接強制が可能であると述べた。そして,面会交流についての前記の給付を念頭に,監護親がすべき給付の特定の欠けるところがない場合として,面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められている必要があることを挙げており,本決定は,最高裁として,一般的に問題となる類型の面会交流について,特定に欠けるところがないといえる場合を示したものといえる。面会交流において間接強制が可能であるために必要な特定性の程度を論じたものとしては,二宮周平・判タ1150号103頁,古谷健二郎・ケ研292号174頁,石川明・愛学51巻2号375頁,磯尾俊明・ケ研308号138頁等があった。
 なお,本件では,審判についての説示がされているが,調停調書において面会交流が定められた場合においても同様に考えられることが,本決定と同日にされた決定(最三小決平25.3.28判タ1391号128頁〔②事件〕〔平24(許)47号〕)で示されている。
 7 本件において,Yは,子が面会交流を拒絶していると主張して,間接強制決定ができないと主張していた。しかし,具体的な給付が審判において定められた場合,執行が可能であるといえるし,子の心情等は,決定が述べるとおり,債務名義を作成する段階で考慮されているはずであり,例えば,面会交流について子が消極的な意向を示していたとしても,子の利益を総合的に考え,審判において,面会交流を命ずることもあり得るところである。本決定は,間接強制決定の申立てがあった段階(既に審判という債務名義が作成された後の段階)において,子の心情等が間接強制決定をすることを妨げる理由とならないことを述べた。ただし,面会交流について審判時とは異なる状況が生じ,従前の審判で示された内容の面会交流を強制することが相当でなくなるといえる場合もあり得る。本決定は,上記のような状況の発生は,審判に係る面会交流を禁止し,又は面会交流についての新たな条項を定めるための調停や審判を申し立てる理由となることを指摘している。
 8 本決定は,一定の内容が定められている審判に基づき間接強制決定をすることができることを示したものであり,どのような事情があるときに間接強制決定をすることができる審判をなすのが相当であるかを示したものではない。本決定は,一定の内容が定められている審判に基づき間接強制決定をすることができるという判断を示すに先立ち,非監護親と子との面会交流について定める場合には,子の利益が最も優先して考慮されるべきであり,面会交流は,監護親と非監護親の協力の下で実施されることが望ましいことを述べている。このことに照らしても,面会交流が全て間接強制によって実現されることが望ましいと考えているものでないことは明らかであると思われる。
 また,面会交流については,その権利性の有無等の性質,内容については,諸説がある。もっとも,面会交流の性質等についての説にかかわらず,審判においては面会交流について具体的な内容を定めることができるといえる。本決定は,審判において面会交流に係る給付が具体的に定められたといえる場合には,その審判に基づき間接強制決定をすることができるとしたものであり,そのことを超えて,一般的に面会交流の性質,内容を示したものではないと考えられる。
 9 本決定は,最高裁が面会交流に係る審判に基づき間接強制決定をすることができる場合を示したものとして重要な意義を有するとともに,審判に基づいて間接強制決定をすることができる具体的な事例を示したものとして実務の参考となる。